必殺
「ブラックリベリオントリガー!!」
身体中から掻き集めるように前方の一点に凝縮されたシャックスの闇の力がバチバチと黒い稲光を帯びた黒い球体に注ぎ込まれ、まるで極限まで振った炭酸飲料水の瓶の蓋を開けた時のような勢いで羽天使……メタトロンに向けて発射された。
ズギャアアアアアアッ!!
大層な音を立てて飛んでいった黒玉はメタトロンに被弾し
ドッガーーーン!!
……とまたまた大層な音を立てて爆発した。
「あ、当たったか……。」
避けられる可能性も大いにあったので、一先ず当たった事に安心した。
あとはダメージが有るのか無いのか。
以前俺が夜の街を徘徊し、粛清と称して使っていたこの技は……当たった相手の機能を奪っていた。
脚に当たれば歩けなくなり、目に当たれば目が見えなくなり、口当たれば喋れなくなる……と言った感じだ。
今思い返すと恐ろしい能力だ。
今回シャックスを悪纏して放った……あ~~ぶ、ブラックリベリオントリガー……名前が恥ずかしくて死にたい……は、以前より遥かに大きく濃度も濃いように感じた。
しかし、当てた相手が相手である。
街のチンピラや不良では無く、天使……しかもかなり上位の天使メタトロンだ。
果たしてダメージを与える事は出来たのであろうか?
ドキドキしながらモヤが晴れるのを待っているとシャックスが心に直接話しかけてきた。
「いや~凄い威力じゃあないかお前の、何だっけ?ブラックリベリオントリガーだっけ??日本語にすると[黒き反逆の引き金]ってとこか?ヒューカッコイイなぁ!」
ピクン!
「いやいやいや俺様が力を貸しているとはいえなかなかこうは行かないぜ?さすがブラックリベリオントリガーだな!!」
ピクピクン!!
「ブラボー!ブラックリベリオントリガーブラボー!!」
ブチッ!!
「わざとだろ!!お前わざと名前連呼してるだろ!!ぜってーお前殺すかんな!!」
「あー!?やれるもんならやってみろガキが!こちとらお前に半分同化しちゃってんだから死ねば諸共なんじゃボケー!!」
「うるせぇっ!自業自得だろ先走りアホ悪魔!!何が悪魔を纏うから悪纏だよダジャレじゃねーかアホ!」
「ぐああああっ!」
不毛な言い争いは爆発のモヤの中から聞こえたメタトロンの呻き声で一旦停止する。
「……き、効いたのか?」
ゆっくりとモヤが晴れた中から出てきたのは身体の右半身と3分の1程の羽が消し飛ばされ吐血しながら呻いているメタトロンの姿だった。
あ……これ人に向けて撃っちゃいけないヤツだ。
「「うおっ!?グロっ!!」」
俺とシャックスの声がハモる。
「いやいやお前の力をだろ!?何あれマジでグロいわ!」
「は?俺様の力は相手の機能を奪って停止させるスマートな技だし!?外傷とか与えないし!!?あからさまにお前と混じった影響だろ!?」
「は?はあああ!?知らねーし!俺のせいじゃねーし!!」
またまた不毛な言い争いを始める俺とシャックスを止めたのは、これまたメタトロンの言葉だった。
「おのれ!!たかが人間風情がこの大天使メタトロンにここまでダメージを与えるとは!」
ん?でもまてまて、コイツ何人もの罪も無い人間達を殺しまくってたんだから倒されても仕方ないよな?
多少グロ過ぎたのは計算外だけど…自己防衛の観点からも……仕方ないよね?
よし、開き直ろう!!
「は……はーっはっは!思い知ったか!罪も無い人々の恨みを!!」
「うわ~~開き直ったよ~~マジ引くわ~~」
「お前が引くなよ!……げ、ゲフンゲフン!と、とにかく悪の栄えた試しなど無いのだ!」
我ながらかなり苦しい開き直りセリフを棒読みの如く言い放って居たのを三度止めたのもやはりメタトロンだった。
「なーんちゃって。」
「へ?」
不意の言葉を理解出来ずにキョトンとする俺にニヤニヤしながらメタトロンが話しかけてくる。
……てか半分身体無いのにどうやって立ってバランス取ってるのコイツ?キモイ。
「よっこら……せっ!……ふぅ。」
オッサンみたいな掛け声と同時にメタトロンの抉り取られた右半身と 羽が一瞬で再生する。
「は!??」
思わず二度見して確認する俺をメタトロンはさも楽しそうに眺めながら
「どうした人間の少年よ?もしかしてこの私を倒したと思ったか?思ってしまったか?……ふふふ、残念!」
何か言い方が半端なくムカつく。
「私くらい神に近い存在の天使にとってはあの程度のダメージはすぐ再生出来るモノなのだよ!!ふははは残念!!」
何だよそのチート能力!
「しかし驚いた事に違いは無い。お前、悪魔の力を使ったんだな?下級の悪魔や精霊程度ならば撃ち負かせる程度のエネルギー量は出ていたぞ?」
しかし今この場を切り抜けられなければ意味が無い。
「まあ、崇高な大天使としては悪魔使いの悪人間を放置するわけにはいかないからなぁ。面白い存在では有ったが……やはりトドメを刺して置くことにしよう。」
そう言うとメタトロンは回復した全ての羽を大きく左右に広げ神力を高め始める。
「楽しい一時を過ごさせてくれた礼にせめて苦しまないよう一瞬でチリにしてやろう。我が最大の奥義で消し飛ぶが良い。」
シャックスと同化していることで今目の前の天使が放とうとしている技の強大さが俺にもハッキリ解る。
無理だ。
防ぐことも逸らすことも避けることも出来ない。
間違い無く俺は一瞬で消し飛ばされる。
「あー、こりゃ無理なだ。短い付き合いだったなモノヒトぉ。」
シャックスも諦め切っている。
「さらばだ少年よ。神撃雷光!」
メタトロンが巨大な雷光にも似たエネルギーを解き放つ。
次の瞬間。
……跡形も無く全てが消し飛んだのだった。




