共闘
身体の中に今までは持っていなかった異質な力が溢れるのを感じる。
目の前でアホヅラ晒して俺がどんな状態になるのかを眺めている羽男……もとい羽天使にキツイの一発喰らわしてやる!
初めてだけど初めてじゃあ無いシャックスとの融合。
あの時とは違いどうやら今回は俺に理性の主導権が有るらしい。
ならば、躊躇う必要は無い。
俺は身体の奥で今か今かと燻っているシャックスの力を一気に解放した。
「はあっ!!」
ブワッと身体の周りから真っ黒いオーラの様なものが噴き出し、俺の身体を包み込む。
胸の辺りに浮かび出る[hellmarquess]の文字。
どことなく夏人さんの腕に浮かぶ文字と雰囲気が似ている。
闇堕ちしていた時の様に目の前が夜の闇に呑まれる事も無い。
よし、コレなら行ける!
視界を上げると羽天使は驚いた様な、それでいて楽しんでいるような良く解らない表情をしていり。
「何だ?ソレは?オーラの質が先程までとは別モノになったぞ?」
相変わらずの上から目線にイライラする。
「アンタには関係無いよ天使様。」
俺の言葉に羽天使がピクン、と反応する。
「……ほう、私が天使だと気がついたか人間の少年よ。その通りだ……我が名はメタトロン。契約の天使メタトロンだ。」
メタトロン。
余りその手の知識が無い俺にも聞き覚えがある名前だ。
確か天使の中でもかなり上位の存在だったハズ……。
子供の頃夢中になっていたファミコンのゲームでも強かった覚えがあるわ。
「しかし、私はタダの天使では無い。神に限りなく近い力を持った……言わば神の代行者だ。」
神……と来たもんだ。
だんだん話が大きくなって来たな~。
「お前がどんな力を使ったかは知らんが所詮人間。神の代行者たる私には……」
はい我慢の限界。
「ごちゃごちゃうるせえ!」
俺は一気にメタトロンとの距離を縮めると顔面目掛けて拳を解き放つ。
「ふふ。」
どうせダメージを受けないと踏んだのかメタトロンは避けようともしない。
メキメキっ!!!
俺の拳がメタトロンの頬にくい込む。
「フゴッ!!」
天使様らしからぬ音を出しながらメタトロンは数メートル先に吹き飛ぶ。
ズサーー!!
陸橋から落下きてアスファルトの上に落下するメタトロン。
俺は追い打ちを掛けるように階段を駆け下り……と言うか飛び降りヤツの落下地点に飛び蹴りをする。
メキャアア!
見事に俺の足が倒れているメタトロンの腹にくい込み、衝撃でアスファルトの地面が軽く陥没した。
「うお!?力強っ!?ビックリした!!」
やばい!
まさか地面に穴が開くとは……。
漫画の世界の住人か夏人さん位にしかこんな事出来ないと思っていたのに。
自分がやらかす日が来ようとは夢にも思わなかった。
シャックスの力……悪纏の力は重々注意して使わないとえらい事になりかねない。
差し当たり俺が開けてしまったこの穴は……後で役所にでも連絡して直してもらおう。
……もちろん匿名で。
……さて。
普通の人間だったら確実に死んでいるであろう攻撃を喰らって、果たして大天使様はどうなっただろうか?
俺は陥没したアスファルトを覗き込む。
すると丁度そのタイミングで倒れているメタトロンの羽がバサバサと動き出し数秒後、ムクリと立ち上がった。
「驚いたな。まさか人間が天使である私にダメージを与えるとは……。」
「いやいや、驚いたのはこっちだ。アレを喰らって無事なのかよ……。」
するとメタトロンは36対の羽を大きく広げニヤリと笑った。
「無事なものか。ほら、羽が1枚だけ折れているではないか!人間が天使の羽を折るなど、今までに無い快挙だ。君たち人間の文化レベルで言うならばノーベル賞モノの快挙だ!金メダル10個獲得だ!徳川埋蔵金発掘だ!」
随分下世話な神の代行者だな。
なんだかんだ言っていりるがメタトロンにはもう既にダメージが残って無いように見える。
「……さて、お前は本当に興味深いな。さあ第二ラウンドを始めようじゃあないか。」
両手を広げさあ来いとばかりに構えをとるメタトロン。
「興味深いなら見逃してほしいぜ。」
「ふふ。私の羽を傷付けて無事に帰れるわけが無いだろう?」
「駄目か。全く……仕方ないなっ!!」
気合いと共に俺は先程よりも更に強くシャックスの力を解き放つ。
より大きな漆黒のオーラに身体を包み込み弾丸の様に突撃した。
ドカッ!バキッ!ドガガッ!!
格闘アニメみたいな冗談の様な音を出しながら俺とメタトロンは拳を交えた。
「ふむ、良いぞ!先程よりも鋭く強い攻撃だ!オーラの質も良いっ!」
ニヤニヤと笑いながら俺の攻撃をいなし、隙間を塗って反撃の平手を叩き込んでくる。
「うげっ!!こ、このっ!!」
こちらの攻撃は8割いなされるのに俺は攻撃を8割喰らっている。
シャックスのオーラのお陰で歯を食いしばれば我慢できるけれどそれにしたって余りに部が悪い。
当たってる2割の攻撃もメタトロンがニヤついているせいで効いて居るのか良く解らない。
……仕方ない。
悪いイメージが強すぎて使いたくなかったんだけれど、そうも言ってられない。
俺が闇堕ちしていた時に使っていたあの技、相手の機能を削ぎとるあの黒い球体を隙を付いて喰らわしてやる。
……ん?あれ?やべ……あれってどうやって使うんだったっけ?
一瞬戸惑いで気が抜けたその時の、メタトロンの攻撃がモロに俺の腹部に炸裂した。
メキャ!
「グハッ!」
アバラが数本折れる音がして、俺は数メートル吹き飛ばさる。
悪纏状態で無かったら今の一撃で死んでいた。
身体中から冷や汗が流れる。
「おいおい、せっかく楽しんでいるのに気を抜くな人間の少年よ。死んでしまうぞ?」
軽い絶望感に襲われたその時、俺の中から声がした。
「「力を前方に集中しろ。混ぜるように円を描け。」」
「な!?シャックス!?なんで……」
「「いいからやれ!今なら奴は油断している」」
「わ、解った!」
言われるがままに力を前方に集中して両手で円を描く。
すると黒い……ドス黒いドッジボール位の球体が目の前に現れた。
「な、何か以前よりデッカくなってないか?」
「「お前自身の身体が強くなっているからそれに伴って球も大きく膨らんでるんだよ。さあ準備が出来たら思いっ切り技名叫びながら解き放てよ。アニメのヒーローみたいになww」」
「は!?技名!?何でだよ恥ずかしだろ!」
「「物事も技も何もかもそうだが、名前が有るってのは力になるんだぜ~。無言でぶっきらぼうに放つのとキチンと名前を言ってやって放つのじゃあ威力に雲泥の差が生じるんだよ。」」
「あーもうっ!解ったよ!言えばいいんだろ言えば!……で!?技名は何だよ!?」
……言うまでもなく、シャックスから聞き出した黒い球体の名前は、厨二病をこじらせた様な恥ずかしいものだった。




