傀儡
「フフフ。非常に面白い攻撃であったぞ人間の少年よ。あの男の欲望を叶えるため100人近くの人間に接触したが、その中でもピカイチに面白い会合で有った。」
無数の羽を自慢するかのようにはためかせながら、本当に満足げに羽野郎は語らかけてきた。
「そもそも私を視認出来るだけでもレアケースなのに、加えてお前は反撃に転じた。実に興味深い人間個体であったぞ。」
コイツが喋る度に違和感が膨らむ。
口調や雰囲気が今まで出会った悪魔と全然違うのだ。
むしろ逆に神々しさを感じてじう程。
それに闇堕ちしている人間本体は何処にいるんだ?
闇堕ちした人間と悪魔が離れてしまうケースも有るには有るが(主に闇討ち砕きに殴られて引っぺがされた時とか……あと取り付いたままだと勝てない相手に本体晒して本気出す為とか……)基本的に宿主である人間と離れてしまうとその人間の負の感情や悪感情を吸収出来なくなってしまう為、悪魔にメリットが無いのだ。
「まあ、楽しかった……それだけに、この充実した時間が終わってしまうのは実に悲しいな。」
身体中がゾワッとして硬直した。
逆らえない上位種に殺意を向けられた感覚。
いわゆる蛇に睨まれたカエル状態。
名栗花子さんに取り付いていた悪魔、アエーシュマと対峙した時にも感じたが、今回のソレは比較にならない程だ。
しかし……固まっていては殺されてしまう。
闇堕ち砕きのアシスタントを始めてから学んだ事だ。
「うわあああっ!!」
ガムシャラに叫んで無理やり身体を動かしてみる。
よし、何とか動く。
この羽野郎の攻撃手段は主に強風による衝撃波。
風か届かない位遠くに逃げるか、或いは風の抵抗が無い角度に入るか。
前者は望み薄な気がする。
だって……あの羽の枚数からして見るからに速そうだろ?
絶対物凄いスピードで追ってくるに違いない。
と、なると何とか風をくぐり抜けて再び反動縮退拳を……うーん。
さっき全くダメージが通って無かったなあ。
どちらにしろかなり分が悪い。
などと悩んでいると
「人間の少年よ、よもや私の攻撃が風を吹かせるだけの脆弱なモノだと思ってはいまいな?」
うげ!?なぜ解った!恐っ!
「フフフ、図星が顔に出ているぞ?もし私の攻撃手段が風だけならば飛び込み事故や落下事故以外で死んだ人間達の殺し方はどう説明するのだ?」
確かにそうだ。
三船巡査に関しては自分の拳銃で死んでいるのだ。
風で身体を押したり吹き飛ばしたりするだけでは説明が付かない。
「では果たして私はどうやって人間達に死をくれてやっていたのか……?正解は、コレだ。」
そう言うと羽野郎は俺に向かって何かを飛ばしてきた。
咄嗟に回避する俺。
しかし、ソレは俺の手前でクイッとホーミングして回避した俺の身体に突き刺さった。
「うわっ!!??」
俺の左胸に深々と刺さっているソレは……奴の体から生えている無数の翼から抜かれ投げられた[一枚の羽根]だった。
「痛みは感じないはずた。そう言う仕組みのものだからな。たたし、その羽根が刺さった者は私の操り人形になるのだよ。」
「あ、操り人形?」
「私の命じたままに動く傀儡人形になるのだ。どうだ?もう自由に動けまい。」
羽野郎の言う通り俺の身体は一切の自由が奪われていた。
指先一つ動かすことが出来ない。
加えて言うと声すら出すことが出来ない。
「さて、珍しき人間の少年よ。お前はどうやって殺してやろうか?自殺か?事故か?」
奴がジワジワと歩み寄ってきて俺の頬に触れる。
「いっそ喉元の頸動脈でも切り裂いて血塗れにしてやると言うのはどうだ?」
頬から喉にスーッと指が動いた所で動きがピタリと止まった。
「ん?なんだ?珍しいモノを装備しているな人間の少年よ。かなり高次元の守護の力を感じるぞ?」
そう、それはかつて悪魔シャックスに取り憑かれ闇堕ちした俺に、再びシャックスが取り付かないようにと夏人さんが付けてくれた三角形のネックレスだった。
「なるほどなるほど、お前かつて悪魔に魅入られたのだな?ふむふむ。」
羽野郎の表情が何か素晴らしい思い付きをしたかのように緩む。
「この守護……打ち砕いてみるのも楽しいかもしれないな。再び闇堕ちするお前を観てみたい。」
おいちょっと待て!
何て事を思い付きやがるんだ!
思い出しくない過去。
取り返しの付かない過ち。
夏人さんに救われた後もずっとずっと心に痛みの楔は刺さり続けている。
そのきっかけとなった悪魔シャックス。
俺にとっては死にも等しいトラウマだ。
俺は精一杯の気力を振り絞り抵抗しようしたが……やはり身体は1ミリも動かない。
「では外すとしよう♪」
やめろおおおぉっ!!
俺の心の声も虚しく、ネックレスは無残に引きちぎられた。




