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闇落ち砕きの利己主義者(エゴイスト)  作者: コミネカズキ
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13/25

行先

後日談。


名栗花子の彼氏、タ来重翔(たきしげしょう)はあの後すぐ邪邪教授のラボ、超科学施設[時の方舟]に運び込まれた。

大病院に入院している患者をどうやって移院させたのかは甚だ疑問では有るけれど、夏人さんの謎の人脈にそう言う力が有る人が居るのかもしれない。

あるいは邪邪教授自身の権力か……。

うん、深く考えるのはよそう。


そして結果から言ってしまうとタ北重翔は教授の最先端医療+科学治療の成果で見事に意識を取り戻したのだった。

涙を流しながらお礼の言葉を俺達に繰り返す花子さんの嬉しそうな顔は忘れることが出来ない。

ここに至るまで沢山の人を病院送りにしてしまった名栗花子だったが、夏人さんはそんな花子さんを特に罰する事も何処かに突き出すこともしなかった。

もちろん元同じ穴の狢である俺にもそんな権利は無い。


「別に悪魔の力さえ借りなけりゃあんなヤツらボコボコにしても何の文句も無えよ!実際迷惑だからな!騒いだり迷惑かけたり、ましてや人を傷付けるような暴力を振るうヤツらにはお前がやらなくてもいつか必ず何かのペナルティーが有っただろうよ!」


相変わらずメチャクチャ距離を置きながら喋っている夏人さん。

台無しである。


「まあペナルティーを与える人間が裏社会の人間だったら命も無かっただろうし、奴らもまだ生きてるだけましだろうよ!」


花子さんは複雑な表情をしていた。

気持ちは痛いほど解る。


「名栗さん、俺も同じなんです。」


そんな花子さんに俺は静かに話しかける。


「え?」


「俺も以前、闇堕ちして悪魔の力に頼ってむかつく奴らに制裁を……暴力を振るっていたんです。」


俺は言い聞かせるように続けた。

そう、花子さんだけでは無く自分自身にも。


「夏人さんに救われて、とりあえず過去は棚に上げてしまえば楽になるって言われて、何となく誤魔化し誤魔化しやってますけど……どうしても思ってしまう。思い出してしまう。」


自分の目と心がクスんで灰色に成るのが解る。

でも……。


「でも結局、忘れられなくても……消せなくても……全部引っ括めて生きていくしか無いんです。」


目頭が熱くなる。

今回の一件は自分と重なる部分が多すぎた。

俺も、目を背けてはいけないんだ。


「それに……貴方にはタ北重さんが居るじゃないですか!2人の未来があるじゃないですか!」


言葉がまとまらなかった。

でも、俺も母さんが生きていたことに救われたから……大切な人が居る事に救われたから。

いつの間にか俺は泣いていた。

花子さんも泣いていた。


数週間後


俺はその日、邪邪教授の元を訪れていた。

名栗花子の事件の時に身に付けた回避能力を失わないよう、と言うか……さらに戦闘能力を高める為、夏人さんの命令で地獄の人体改造を続けているのだ。


「闇堕ち砕きは肉体労働だからな、戦闘能力は高ければ高いほど良いんだぜ。」


……と言うのが夏人さんの言い分だ。

日に日に身体が筋肉質になって行くのが解る。

時の方舟の扉を開けると明るい声が俺を迎えてくれた。


「やあ筆谷(ふでたに)君、いらっしゃい。今日もトレーニング?」


雇用主である邪邪教授の意向で元々の明るい髪の色は黒く染め直され、ピアス等も外しているので一瞬わかりずらいが、花子さんの元カレであり数週間前まで植物人間だったタ北重翔だ。


「いやーアレをトレーニングと呼んで良いかは解りませんが。どちらかと言うと人体実験ですよ。」


「あら!邪邪教授を悪くいうもんじゃないですよ!あの人は本当に天才なんですから!」


奥から箒をもったすらっとした美人が現れる。

例の事件の当事者である名栗花子だ。


「そうだぜ!なんてったって教授は俺の命の恩人なんだから!」


名栗花子とタ北重翔……花子さんと翔さんはあの事件の後、邪邪教授のラボ[時の方舟]で働いている。

手術代??……を払う財力が無かった彼は恩返しも含め教授の下で働く事を希望したのだ。

花子さんも自分の最愛の人を救った教授に大恩を感じたらしく学校の無い日は一緒にここで働いている。

今では二人とも夏人さん以上の邪邪教授信者だ。

……このマッドサイエンティストの謎のカリスマはなんなんだろう。


「おかげで俺はまたこうして花子と同じ時間を過ごせるんだ。ホントに感謝してるぜ。」


「やだ、翔ったら♪」


バカップル爆発しろ!


「筆谷者人君。無駄話して無いで、さあ早くトレーニングルームにきたまえ」


何処かから監視してるのか?

館内に邪邪教授の声が響き渡る。


「さあ、教授がお待ちかねだ!早く行きなよ!」


翔さんに促され俺は嫌々歩きだす。


「あ、それから……俺達は君にも感謝してるぜ。ありがとうな。」


思わず振り返り掛けたけど、どんな表情をしていいかわからなかったので……俺は聞こえないふりをした。

でも、少しだけ……ほんの少しだけ救われたきがした。


「筆谷者人くーん!まだかな~!?早くトレーニングルームにきたまえ~!」


再び教授からの最速の声が響いた。


「トレーニングルームじゃなくて拷問部屋だろ……。」


俺は誰にも聞こえない小声で呟くと小走りで教授の元へ向かった。

言葉とは裏腹に、俺の表情はだいぶ緩くなっていたと思う。


数分後……小江戸の町の片隅に、今日も地獄の特訓に苦しむ俺の叫び声が轟いた。

それはまるで若い2人の門出を祝福するかの様だった。


[悪魔 アエーシュマ偏]完

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