表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/3

正義の業火

 俺達は同じ学校に通っていながら、知り合って以来ほんの二日しか経っていない。

 加えて俺は政府のエージェントであり、霜月は敵対組織のエージェントだ。

 しかし、これは果たして敵同士と言えるのだろうか。

 霜月は俺の前で体を横たえたまま静かに寝息を立て始めている。

 このまま義手に仕込まれたトランキライザーダーツを血管に打ち込めば、彼を乖離状態に追い込み安全に捕縛できる。

 それは『孤なる先導者』の重要戦力の喪失を引き起こす。こちらにとっては非常に有利になるだろう。

 国家の為、友の信頼を裏切ろうとした。しかし掌から突き出たダーツは心許なく震えていた。

 人生で唯一の友人を手にかけ、死へ突き飛ばせというのか。

 政府に捕まれば彼の命は保証できない。きっと誰に知られることもなく死に行くのだろう。

 「ん……」

 霜月は目を覚ました。

 慌ててダーツを格納し、彼の濁った目を直視した。

 ぼやけた瞳は俺の顔を見るなり潤み始め、一筋の涙が頬を伝った。

 「……怖かった」

 「もうゲームはやめだ。他の事をしよう」

 「でも、ボクは戦わなきゃダメなんだ。来たるべきジハードの為に……強くならなきゃ……」

 「人は必ず弱さを持っているものだ。弱さや欠点を失えば……お前は人ではない何かになるだろう」

 「難しくてよく分かんないや」

 「とにかく、無理してFPSを続ける必要はない。『孤なる先導者』に何かを投与されているのだろう?」

 「うん、きつい薬。VRが本物みたいに感じて、現実は夢の中みたいにふわふわしてて」

 「重症だな。医療機関で薬を抜いてもらえば――」

 否、無理だ。エージェント・アヴァロンを公共機関に関わらせてはいけない。

 ならばどうするべきか。途方に暮れてしまうほど良案は思い浮かばない。

 国民が政府に依存し続けた結果、あらゆる公共機関は政府とのパイプを持つようになった。

 エージェント・アヴァロンの顔が政府のデータベースに登録されている以上、彼を医療機関に連れて行こうものなら、その時点で捕縛任務を与えられたエージェントが派遣されるだろう。

 体から薬が抜けるまで、どうにか霜月を外界から引き離しておく必要がありそうだ。


 *


 ぼくには不思議な力がある。空を飛ぶことができるし、物も燃やせる。

 数キロ先の遠くのものを見たり聞いたりする事もできる。

 でも、ほとんどの力は自分で制御する事ができない。

 あの日の事は忘れない。家で意識がぶつりと途切れて、気付けば周囲に人魂のような黒い火の塊が浮かんでいた。

 それに触れたお母さんは体を病み、ぼくは治療費を稼ぐ為に死に物狂いで働いている。

 「……んー、政府の体たらくもここまで来たんだねぇ」

 ぼくには全てが分かった。玉露とアヴァロンの内通についての全てが。

 きっと彼らは気付いていない。マンションの窓の外に浮かぶ視覚の付いた鬼火に。

 玉露くん、相変わらず気に入らないな。ぼくが常に監視していなければ何をするか分からない。

 任務に必要なのは遂行能力。人の心は任務の遂行に必要ない。

 政府の為にさえ動いていればぼくらは安定して賃金を得られる。

 お金をたくさん貯めればきっとぼくの罪も赦される。

 玉露くん。きみの裏切りを許すわけにはいかない。政府の為に。ぼくの贖罪の為に。

 「東部管轄官に通達。こちらエージェント・蛍火。『孤なる先導者』のアヴァロンの現在地を特定。並びにエージェント・玉露との内通を確認」

 『こちら東部管轄官フォクストロット・ノーベンバー。両名を捕縛せよ』

 「了解」


 *


 端末が震える。エージェント・蛍火からの着信だ。

 「どうした、蛍火」

 『きみはぼくと一緒に仕事をするようになって日が浅い。だから分からなかったんだろうけど……ぼくの目の届かない場所なんてないんだよ』

 「……何が言いたい?」

 『きみはエージェント・アヴァロンと通じてるよね。政府はきみを逃がさない。今からきみを捕縛しに行くよ。厳重な処分を覚悟しておいた方がいい』

 「お前に捕縛任務が割り振られる事は無い筈だろう?」

 『本来ならぼくは諜報活動以外禁止されてるからね。だけど……きみはそれだけ重大な違反を起こしたんだよ』

 「くだらない。管轄官に伝えておけ。政府内での地位などクソくらえだとな」

 窓の外で光が弾けた。思わず目が眩む。

 閃光の中から少年が姿を現した。

 流れるような金色の長髪、小中学生と見紛うほどの低身長。

 政府戦闘員正式装備に身を包んだエージェント・蛍火の姿がそこにあった。

 「……直接会うのは久しぶりだな、蛍火」

 「こんな形で会いたくなかったよ」

 霜月は歯噛みをし、腰の辺りから何かを抜き放った。リボルバーだ。

 「ちぇ、政府のエージェントか」

 「きみがアヴァロンだね。武器を捨てて投降した方がいいよ」

 「やだ。そしたらボクは殺されるもん」

 「……まあいいよ、ぼくはきみ達を逃がさない。どこに逃げても……」

 蛍火は殺気立ち、呼吸すらも時折忘れているようだ。

 直後、どっと空気を振るわせる鈍い音が響いた。

 霜月がリボルバーを発砲したらしい。

 「無駄だよ」

 蛍火の額に着弾する直前、銃弾は高熱で溶かされたようにして地に零れた。

 「つくづく厄介だな。政府の高レベル諜報員は……」

 「さあ、ぼくは簡単には倒せないよ。どうする?」

 蛍火の姿が陽炎のようにゆらめいて見える。

 「向坂くん、逃げよ?」

 「こいつは転移能力を獲得している。何キロ逃げようが無駄だ」

 俺は蛍火を睨み付け、パイルバンカーの使用準備を整える。

 「お前との二人三脚も終わりだ、蛍火」

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ