しにかけの私
気が付くと私は地面に横たわっていた。
おかしなことに今までの記憶がない。
確かにいえることは、”こんな寒い日に外で寝ている”ことは普通じゃないってことだけだった。
起きようとしても力が入らない。
それでもなんとか立ち上がってふらつきながら道路を徘徊していると、案の定轢かれた。
ぐしゃ。
額から血を流してその場に倒れ込む私。
「女の子が跳ねられたぞー!」と周りでさわいでる野次馬たちがうるさい。
私は朦朧として、いつか見た夢の世界へと旅立っていった。
息も凍るような寒さのなか、恋人と私が誰もいない古い遊園地で遊んでる夢。
それから目が覚めると私は真っ白な空間に居た。
目の前には髪がぼさぼさで背の高い男の人がいて、その人が
「君も飲むか?」といって私に醤油の入った一升瓶を手渡す。
「これを一気に飲むと死ねるぜ」
私がそれを飲もうか迷っていると、
「俺は知ってるぜ。君が昨日首つり自殺に失敗したことを」
「ロープを結んでた柱が老朽化してたんだな。おかげで君は命拾いした。」
そっか。そういうことか。
記憶が飛んでるのもその時頭を打ったせいだと考えれば説明が付く。
私は醤油のビンを45度に傾けぐびぐびと飲んだ。
げほっ。
途中でむせちゃった。
まずいな、これじゃしねないや。
ぼさぼさ頭の大男は「まだあるぜ」と言ってわたしに醤油のビンを差し出した。
よけいなことを・・・
いや、よけいじゃない。私はしにたいんだから。むしろありがとうございます。
そう思って2本目のビンをがぶ飲みしていると流石に意識が遠くなってきた。
ぼさぼさ頭の男は朦朧としてる私を黙ってみてた。
・・・何で止めてくれなかったの・・・・。
そんな思いがふと脳裏をよぎる。
―――――目が覚めると、私は何故か深夜の病院のベッドに寝ていた。
ベッドの横には熟睡してる男の人が居た。
頭がぼさぼさで、背の高い男の人。
そう、私のお父さんだ。
当直のナースが目覚めた私に気付いて声を掛けてくる。
「お父さん、ずっとあなたのこと心配そうに見守ってたのよ」
◇
退院してからお父さんはわたしに
「俺も何度もしにかけた経験があるんだ。だから気持ちはわかる。
俺は不器用だから遠目に見守ってやることくらいしかできないけどよ」
と伝えてくれて、、
雪がしんしんと降り積もる季節になんだか全てのものがきれいにみえて、
私は、まだ生きていたいと思ったのだった。