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08.

「……この辺りは土が良くないっす」


 笹丸の表情を汲み取ったのか、アスティアが耳打ちします。

 彼の言葉を受けて、笹丸は自らの足元の土を眺め、手にとって確かめてみました。


「どうっすか? パサパサしてて、湿り気がないっすよね。これじゃ、植物が根をはれないんすよ」

「……でも、じゃあなんでこの人たちはここに住んでいるんだ」


 土地が悪ければその土地に住まなければいい、引っ越せばいい、と笹丸は考えておりました。しかし、その考えはアスティアとリーザには伝わらなかったようで、二人は首を傾げてしまいます。


「自らの生まれ育った、それも先祖代々の土地っすよ? そう簡単に捨てられるもんじゃないっす」

「そうであります。家というものは、家族、土地、周りの状況、全てを合わせて成り立つのであります」


 さも当たり前のように、二人は言いました。彼らがこの土地を離れるわけがない、と。


「……ササマルちゃん。私たちの住んでいた場所とは、違うのよ。この世界の人たちは皆、家柄や種族を気にするの。簡単には、いかないのよ」


 唯一、笹丸の考えに理解を示してくれたのはナガマサでした。

 ですが、彼の一言も、完全なる同意とはいきません。同じ言葉を話しているうちに、笹丸はここがまるで元の世界と同じようだと勘違いしてしまっていたのです。


「……わかりました」


 そう返事をして、前を歩いているリーザについていきます。

 枯れた土地に、ひもじい人々。それらから目を背けながら歩き、やがて一軒の小屋にたどり着きました。


 小屋は周りに造られている土造りのものとは違い、木で出来ているものです。小さいながら庭もあり、錆びた鉄格子で囲われた鶏小屋までありました。


「ここが老師様の家よ」

「……私はここで待っているであります。ロータス様には、あまり好かれてはいないようでありますから」


 リーザは馬を降りると小屋の陰に入っていきました。


「行くわよ。老師様は気難しいお方ですからね。……もっとも、会ってくれれば、だけど」


 扉をノックし、ナガマサが声をかけます。

 ですが、扉が開くことも、中から声が聞こえることもありません。


「留守なのかな」

「いいえ。何度も来ているから、もう私たちには会ってくれないのかもしれないわ」

「……留守の場合はどうなるのかな? 僕は」

「……何の成果もあげずにリレオに戻ればエルフの手先であることを認めたも同然っす。死刑、よくて牢屋暮らしっすかね」


 笹丸の何と運のないことでしょう。

 森の中でも地面に埋まり、リスの巣になりかけたというのに、このまま帰れば牢屋で暮らすことになるのですから。それも、運が悪ければ死刑です。この世界に来てからの運勢で考えれば、死刑になることは間違いないでしょう。


「ど、どうすればいいかな」

「……とりあえず私とアスティアはここで老師様に話しかけてみるわ。ササマルちゃんはリーザとそこで座っててちょうだい」


 つまり何もするなってことかな、という言葉を飲み込んで、笹丸はリーザの隣で呆然と立ち尽くしてしまいました。本音を言えば道中フバに揺られて疲れていましたし、そのまま座りたい気持ちもありましたが、自分のために頑張ってくれているナガマサとアスティアを差し置いて腰を下ろすことなんて出来ませんでした。


「ササマル殿はどこから来たでありますか」


 ふと、リーザが口を開きます。


「故郷、という意味で、でありますね」

「……故郷ですか」


 この場合、どう答えればいいのか、笹丸にはわかりませんでした。

 ナガマサが異世界から来たことを、アスティアは知っていましたから、当然彼女も知っていると考えていいでしょう。ですが、もし万が一そのことを知らなかった時、非常にまずいことになりそうだと、笹丸は考えていたのです。


(……言えないよなぁ)


 ただでさえエルフの手先として疑われているというのに、異世界の人間であることがバレてしまえば、もっと疑われてしまう可能性もあります。異世界の人間であることだけは言ってはいけない、と笹丸は心に誓いました。


「……遠くです。凄く、遠く」

「遠くでありますか。どっちの方向でありますかね?」

「え……あ、えーと、ば、バルカの向こう側です!」


 とっさに牢でウィリアムに聞いた地名を口に出しました。

 バルカという名前を聞いて、リーザは少しだけ嫌な顔をします。


「バルカの向こうでありますか。あそこにはバリバ人がたくさん住んでいて、とても危険でありますからね。ササマル殿は意外と辺境の地出身なのでありますな」

「……は、はは。そうですね」

「ですが、羨ましくもあるでありますよ。私は生まれてこのかた、カフカサスから……もっと言えばリレオ周辺から出たこともないのであります。王都にも行ったことがないのであります」

「王都、ですか」

「そうであります。父から聞かされた話では、王都は煌びやかで人々は常に笑顔らしいのであります」


 王都のことを話している間、リーザの表情はまるで子供のようにころころと変化しておりました。詳しくは聞いておりませんが、リーザの見た目は十代後半といったところ。自分の見たことのない世界に憧れるのは、この世界でも同じということでしょう。


「王都、いつかいけるといいですね」


 笹丸の言葉に、リーザは小さく頷きました。


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