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03.


 しばらくの間、コマコの後ろについて森を歩いていると様々な動物と出会えました。その殆どが笹丸の知っている動物たちの姿をしていましたが、背中にはエルラリアと同じく羽が生えていました。ですが、彼らがその羽根を使って空を飛んでいる様子はなく、ただ生えているだけ、という印象を受けました。笹丸の頭の上にいるエルラリアも、よく考えると一度として羽根を開いて飛んではいません。


「……Sasamaru」

「ん?」


 だんだんと木々が少なくなっていく中、コマコがこちらを振り向かないまま口を開きました。


「……Roa ja brat elra。――Ar ul ja diski roa」

「コマコ? そんなにいっぺんに言われてもわからないよ」

「……Ya elra carn」


 そうコマコが呟くと同時に、二人は森を抜けました。


「――おお!」


 思わず笹丸は声をあげてしまいます。目の前には先ほどの緑豊かな土地とは正反対の、砂漠が広がっていたからでした。彼は今、森と砂漠の境界に立っていたのです。その見慣れないちぐはぐな景色に、笹丸は見惚れてしまいました。


 目の前に広がっている砂漠は、彼の想像とは違いました。ただ砂ばかりの大地などではなく、枯れたような色の草もあればきちんと緑色の植物も生えていて、荒涼なんて表現は相応しくないと感じられるほどでした。しゃがんで地面を確認すると、小さな砂の粒がきらきらと光っています。


「凄い景色だ……」


 何度も感動して、ふと、我に返った笹丸。コマコがここに連れてきたのには、何か理由があるはずだと思い至ったのです。


「コマコ……?」


 振り向いて、自らの目を疑いました。

 先ほどまでそこにあったはずの、森が消えていたのです。


「これは、どういうことだ……?」


 森はもちろん、コマコの姿も忽然と消えています。さらに彼を驚かせたのは、先ほどまでは全く暑さを感じなかったというのに、森が消えたことを意識した途端に汗をかきはじめ、太陽の恩恵を感じ始めたということでした。

 信じられないくらい、太陽と砂の組み合わせは強烈だったのです。


「何が、どうなっているんだ……?」


 ふらふらと膝をついてしまいます。思えば、笹丸はここへ来てから一度も水分をとっていませんし、何十分も歩きっぱなしでした。それに加えてこの暑さ。噴出すような汗。過酷な砂漠の環境に慣れていない笹丸に絶えられるはずもありません。


「……」


 頭の中で鐘が鳴っているような感覚でした。吐き気もあり、唐突な環境の変化に体がついていっていないようです。


「――大丈夫?」


 ふと、笹丸の体に影がかかりました。朦朧とした意識の中、影の主へと視線を向けます。

 全身を白いマントのような服で覆った人物がそこに立っていました。その後ろには笹丸の見知っている馬の姿もあります。


「あなた、こんなところでそんな格好で……。そんな、……格好?」

「……」

「まさか! あなたもしかして!」


 ふらっ、と笹丸の頭が一度揺れて、意識が途切れます。

 最後に聞いた言葉は確かに、彼の知っている言葉でした。



        ◆



「いやぁんもぉ! 超可愛いー!」

「はぁ、いや、そういうのはいいっす」


 意識を取り戻した笹丸の耳には聞きなれた言語が聞こえていました。コマコたちが使っていた言葉ではなく、笹丸自身が使う、あの言葉です。


「あ、目が覚めたみたいっすよ。どうぞ、水っす」


 未だ朦朧とする意識の中、笹丸は水を受け取ると、一気に飲み干します。乾いた喉を水が潤し、だんだんと周りの状況も確認出来るようになりました。彼が寝かされている場所は、どうやら小さな洞穴のようなところのようで、周りの壁が全て土で出来ています。ですが、生活感がないというわけではなく、木製の棚や敷かれた絨毯などからわかるようにきちんと家としての機能を兼ね備えているように見えました。薄暗い土の家の中は、太陽の日差しを遮る効果があるようで、幾分か涼しいようにも思えます。


「わかるっすか? あんた、砂漠のど真ん中で倒れてたっすよ」

「あ、ああ……」


 目の前には二人の男性が立っていました。水を渡してくれて、先ほどから熱心に話しかけてくれている小柄な男性と、白いマントを全身に羽織り、背が高く眉目秀麗な男性の二人です。


「僕はアスティアというものっす。そっちのデカイのはナガマサ様っす」

「……えらくちぐはぐな名前だね」

「君もそう思うっすか? 僕もっすよ」


 はぁー、とこれ見よがしに溜め息をついてみせるアスティア。


「ナガマサ、なんて珍しい名前っすよねぇ」

「え? いや、僕はアスティアの方が珍しいと思うけど……」

「は?」

「え?」


 二人とも首を傾げてしまいます。どうも、話が噛み合っていないようでした。


「……まぁ、いいっす。君の名前はなんというんすか?」

「僕は、笹丸っていうなま――」


 え、と言う前に笹丸の前にナガマサが詰め寄ってきます。


「……な、なに?」

「ササマルというのか?」

「あ、ああ……」


 ぐいっ、と顔を近付けるナガマサ。奇妙な空間が、そこにはありました。


「ササマル……まさか、本当にこの世界の住人じゃないのか?」

「――どういうことだ?」

「私も君と同じだということだよ、ふふ」


 なにやら楽しそうに笑い始めるナガマサ。すぅ、と顔を青ざめさせ、アスティアが家の入り口へと走っていきました。


(なんだ……?)


 哄笑が家中に響き渡ると同時に、ぴたりとナガマサは視線を笹丸に固定しました。ジロジロと笹丸を眺めると、くねっとしなをつくって、


「いやぁんもぉ! 同郷じゃないのよぉ!」


 と、オネエ口調に変わったのでした。



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