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02.


「ミダ?」

「Mida」

「なるほど、わかったよ」


 笹丸の体が土から完全に掘り起こされる頃には、彼自身もコマコの言葉を少しだけ理解出来るようになっておりました。確信とまではいきませんが、彼女の挙動や使用例から考えた結果なのでした。


「このリスは?」

「Elra ria!」

「エルラリア、ね」


 体中についてしまった土を払うと、笹丸は立ち上がります。先ほどまでは見えなかった草木の向こう側まで、しっかりと確認すると、今度は体に異常がないかを確かめました。コマコやエルラリアの存在から、この森が異世界であることは間違いありません。と、なれば笹丸自身に何か異変がある可能性もあると考えたのです。


「Sasamaru ul ar kni!」

「ん?」

「Kni! Kni!」


 何度か声をかけたあと、草むらに入っていってしまうコマコ。どうやら彼女は笹丸について来い、と言っているようでした。

 笹丸はコマコの言葉の意味を正しく理解はしていませんでしたが、この状況で一人、置き去りにされるわけにはいかず、自然と彼女について行くことにしたようです。草むらをわけて入り、歩きにくくぬかるんでいる地面を進んで行きます。


「ちょ、ちょっと待ってくれ……歩きにくくて……」


 でこぼことした地面や視界をふさぐ木の枝に悪戦苦闘している笹丸に対して、コマコはすいすい進んで行ってしまいます。光合成のために長く伸びた枝を押し避け、露出して道を塞いでいる根っこを潜りぬけ、時折後ろを振り返りながらコマコは進んでいきます。彼女にとっての庭は、笹丸にとっての大冒険なのでした。


「Komako!」


 ふと、頭上からそんな声が聞こえてきました。


「ん? ――えっ!?」


 声と共に木の上から目の前に降って来たのは、鋭いナイフと背の高いエルフです。笹丸はナイフに対してまったく反応出来ていませんでしたが、どうやら威嚇の意味を持っていたようで、当てる気はなかったようでした。


「Roa ja elra si!」

「……」

「Roa amia!」


 なんとも言えない気持ちが笹丸を襲いました。

 思いっきり敵意丸出しの背の高い彼女は、自らの後ろにコマコを庇うように隠し、ナイフを笹丸に向けています。言葉の意味はわかりませんが、恐らく彼女はコマコの親族か何かなのでしょう。さきほど、コマコに言われた言葉と一字一句違いませんから。


「あー、えっと、……あ、これはどうかな?」


 とりあえず、頭の上に居座っているエルラリアの首根っこを掴んで見せ付けます。エルラリアは嫌がる素振りも見せず、ただされるがままになっておりました。


「Elra ria ja diski roa……!?」

「……黙っていたけど、コマコと同じことばっか言ってるよ。リアクションも一緒」

「Dril roa!」


 怒号と共に飛んでくるナイフ。お互いに何を言っているのかわかっていない様子ですが、このときばかりは理解出来ました。


(怒らせちゃったかな……)


 エルフの文化はよくわかりませんが、どうも彼女たちにとってエルラリアは大切な動物のようだと笹丸は理解していました。何か神聖な動物として崇められているのかもしれません。

 初め、笹丸はコマコと仲良くなれたのは森の動物と友達アピールが成功したのだと考えていましたが、土を掘っている最中、コマコはエルラリアを眺めるだけで触ろうとはしませんでした。そればかりか、木の実を持ってきて自ら与えるのではなく、笹丸に一度手渡し、エルラリアに餌付けしたのです。コマコが単に動物に触れられないだけなのかと考えもしましたが、目の前の彼女の反応を見て笹丸は確信したのでした。

 それゆえに、エルラリアの懐いている笹丸には手出ししないのだ、と。


「Maria sasamaru ja diski elra ria」

「Elra ria diski……?」

「Mida」

「Roa ja elra ria nil diski!」


 ……そう、思っていたのですが。

 なにやらコマコと会話した後、彼女の鋭い瞳とナイフは再び笹丸を捉えていました。


(動物と仲良し大作戦が失敗した……!?)


「Maria!」

「Roa hrl ja elra!」

「これまたさっき聞いたような台詞だね……」


 状況からみて、コマコは彼女の説得に失敗したようでした。

 彼女が笹丸を追い払おうとしていることは明らかでしょう。


「ここまで嫌われると結構ショックなもんだね……」

「Maria! Sasamaru ja diski elra ria! Sasamaru ru diski elra carn!」

「――!!」


 マリアと呼ばれたエルフと笹丸の間をコマコが遮り、何か早口でまくし立てました。それまで険しい顔をしていたマリアは、最後のエルラカーンという言葉を聞くと眉間に皺を寄せ、一層笹丸を睨みつけます。


「Komako! Elra carn ru nil diski roa!」

「Maria!」


コマコがぐいっと笹丸の腕を引っ張り、前に出します。その手には先ほどから掴んだままだったエルラリアが大人しくしていました。


「Amia!」

「――! ……Komako roa ja brat elra carn!」

「……Mida」

「Ar komako diski roa?」


 感情を高ぶらせていた先ほどまでとはうって変わって、マリアは何かを諭すようにコマコへ語りかけています。黙ったままのコマコでしたが、やがて顔をあげると小さく頷きました。


「……Ar ul ja hrl」


 少しだけ悲しそうにそういうと、マリアはナイフを仕舞い、踵を返します。ふわりと、まるで空を飛んだかのようにゆっくりと木の上へとジャンプして去っていきました。


「助かったみたいだね……。コマコ、よくわからないけど、いいのかい?」

「……Mida」

「そうか」


 二人が何を話して、何を違えたのかは笹丸にはわかりませんでした。でも、目の前のコマコが笹丸のためにマリアと仲を違え、確かに自分のことを守ってくれたことはわかっているつもりなのでした。


 ぽん、とコマコの頭の上に手をのせて、ぐしゃぐしゃと撫でました。


「ありがとう」

「……Arigato?」

「うん、嬉しいってことだよ」


 不思議そうな表情のコマコに対し、笹丸は笑顔を見せることでその意味を伝えようとしました。首をかしげ、アリガトと呟くコマコは、意味を理解しているのか誰にもわからないのでした。



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