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17.

        ■


  重苦しい空気の中、笹丸たちは一人のエルフに注目していました。

  そう年齢が高くは見えませんが、ロータスの話ではこの場にいる誰よりも高齢であり、里で一番の知識人だということ。目の前の彼こそ、霧の森のエルフたちの長なのでした。


 コマコが目の前にいざ姿を現すと、笹丸は突然過ぎて何もいうことが出来ませんでした。黙ってしまっていたのはコマコも同じで、俯いたまま小声で何やら言葉を呟くと、すぐに踵を返してしまったのです。

 その言葉はマリアに届いたらしく、彼女がロータスに声をかけ、ロータスの言葉によって笹丸たちにもようやく状況が理解出来ました。


 コマコはエルフの長の言葉を伝えるために笹丸たちの前に来たのです。

 それが笹丸、リーザ、アクラの三人と話がしたいというものであり、現在の状況に至るのでした。


「……私は、少し、言葉、話せる」


 重苦しい空気を破ったのは長の言葉でした。


「言葉、わかる。……人間と、エルフのこと、話したい」

「さて、ササマルくん、リーザくん、アクラくん、彼は君らに聞きたいそうじゃよ」


 場にはエルフの長の側にロータスとコマコ、その対面に笹丸、リーザ、アクラが座り、入り口ではマリアが立っておりました。


「そう言われましても……僕らは何を話せばいいんですか?」

「人、なぜ、戦うか」

「……なぜ戦うか」


 笹丸は彼の言葉を繰り返してしまいます。

 人は何故戦うのか、そんなこと考えたこともなかったからでした。


「……無論、弱きものを助けるためであります! 人間はエルフのように魔法を使うことも出来ず、ドワーフのように頑強でもないのであります。それゆえに、人間は集まり、協力し合うのであります!」


 最初に自信満々といった風に答えたのはリーザでした。

 彼女の信じる騎士道とは、弱きを助け強きをくじくというものなのでしょう。


「……ふん。面白いことをいう騎士様だ。俺はな、弱い奴らなんてどうでもいい。そんな奴らは踏みつけられるだけだ。……だがな、俺を慕う奴らを放っておくことはしない。俺は俺の仲間のためなら、誰とだって戦争する」


 これまた自信有り気に答えたのはアクラです。

 その答えを聞いて、リーザは眉間に皺をよせ、軽蔑したような視線を彼に送りました。


「……盗賊にはわからない美徳なのは知っていたでありますが、よもやここまでとは思わなかったのであります。こんな考えの盗賊がいては、世の中から戦うが無くならないはずでありますな」

「……俺は俺を侮辱する奴とも戦争をするぞ」

「殺しはせず、でありますか?」

「……殺さずとも勝つ方法はいくらでもある」


 どうもこの二人、とても相性が悪いようです。

 対して笹丸は悩んでいました。

 正直に言うと、彼の考えはどちらかといえばアクラに近いような気がしましたが、かといってそこまで極端ではありませんでした。ですが、リーザの意見、弱いものを助ける、というのも必要だという考えもあったのです。


「ササマルくん、君は考えをそのまま言ってみるとよいじゃろう」

「……そうですね。僕はリーザさんの弱い人を助けるために戦う、というのは正しいと思います」

「ほら見ろであります!」

「――でも、アクラさんの仲間のためなら誰とだって戦うっていうのも正しいと思います」

「……ほらどうだ」

「ぐぬぬであります」


 笹丸は纏まらない頭の中を必死に纏めようとして、ふと、コマコと目が合いました。

 

「あ、」

「何か、答え、見つかったか」


 ひとつ、忘れていたことがありました。

 特に重要とはいえませんが、笹丸の考えを纏めるには十分なこと。


「僕はコマコに命を救われました。……その後の面倒も、きちんとナガマサさんに託すことで果たしてくれました」

「――!」

「この世界のことはまだわかりませんけど、守りたい人ならいます。だから――」


 先ほど、笹丸とアクラはロータスにこの世界と自分たちの世界、どちらが大事かと聞かれました。

 その質問に対し、彼らの答えは共に同じであり、選ぶことは出来ないというものでした。

 ですが、その答えにロータスは満足したのか、二人に助力を求めてきたのです。


 エルフは侵略されようとしており、エルフとロータスだけではとても守りきれません。人間の味方を作ろうにも、この世界の人々はエルフという種族をあまり好んでおらず、彼が声をかけても味方になってくれる人は少ないというのです。


 そして二人に声をかけた一番の理由は、共にリレオとの繋がりが薄いことでした。


「下手に助力を願ってリレオの領主の耳、いや、宰相の耳に入ったら危険じゃ。何とか時間を稼がねばならんのじゃよ」

「……そんなのは爺さん、あんたが領主に言えばいいじゃないか。偉いんだろ」

「領主だけならばわしの言葉を聞くかもしれん。じゃが、相手は宰相、そしてその後ろにいるものたちじゃ。もし、わしが捕まればエルフの味方が減ってしまう」

「つまり僕らを人間側だと思わせておいて、向こうの動きを伝える……スパイのようなものですか?」

「間違ってはおらん。じゃが、スパイ、では後ろめたく感じるじゃろ? 古来より、この世界ではエルフの味方となった人間をこう呼ぶのじゃ――」


 笹丸はまっすぐエルフの長を見て、言いました。


「――僕はエルフの守り手となります」

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