15.
その問答に意味があったのか、笹丸もアクラもわかりませんでしたが、ロータスの面持ちは至って真面目でした。
アクラは迷わず答え、笹丸は迷いに迷って答えを出しました。
「……そうか。では、わしに考えがある」
そう言って笑ったロータスの顔はまるで悪戯を思いついた子供のようでした。
◆
笹丸とアクラがロータスに連れられ、エルフの里を訪れるとアクラの部下たちがすぐに駆け寄ってきました。
すでに全員が縄を解かれ、一定の自由を与えられておりましたが、里の出口付近では武装したエルフたちが待機しているようでした。
「アクラの親分! 無事でしたかい!」
「エルフ共にゃ言葉が通じないもんで! 心配してたんでさ」
アクラはどうやら部下たちに慕われているようで、その全員が彼を心配しておりました。
「……うるさい。俺は大丈夫だ」
小汚い男たちに詰め寄られるアクラを苦笑しながら眺めていた笹丸でしたが、すぐにリーザのことを探し始めました。
盗賊たちは森に住んでいたとはいえ、一応エルフたちと事を構える気はなさそうです。ですが、リーザは違います。彼女は直接的な敵であり、さらにいえば敵の幹部なのですから。
盗賊たちとは違ってあまりいい扱いを受けていないのでは、と笹丸は考えたのです。
視線を彷徨わせていると、里に端にリーザの姿を見つけました。
盗賊たちとエルフを睨むように警戒し、腕を組んで壁にもたれ掛かっています。扱いの差が違うのでは、という笹丸の考えは半分当たっていました。
リーザの縄は解かれており、盗賊たちと同じ自由を与えられておりましたが、その横にはマリアが立っていました。露骨な監視役といったところでしょうか。
「リーザさん」
「……ササマル殿。無事でありましたか!」
リーザのもとに駆け寄ると、先ほどまでの険しい表情は消え、笹丸の無事を喜んでくれました。
しかし、その横では。
「……」
仏頂面と言わざるを得ない面持ちでいたマリアの表情が、さらに険しくなり、見るからに笹丸という存在を歓迎していないのでした。
「ササマル殿、ロータス殿の話というのはなんだったのでありますか? ……どうも、エルフたちは言葉が通じないのであります」
「ええっと、そのですね……」
思わず口篭ってしまう笹丸。
ロータスの話をそのまま伝えようにも、笹丸はリーザに対し、出身地をいい加減に教えてしまっていました。この世界において異世界出身者というものがどれほど一般的なのかはまだわかりませんが、ここでリーザにそのことを伝えるのは得策ではないと笹丸は考え、話題を変えることに決めました。
「エルフのことで少し。それより、僕ら、どうなるんでしょうか……」
「……それはこのエルフに聞くでありますよ。答えてはくれないのでありますが」
腕を組み、眉間に皺を寄せるリーザ。
笹丸は盗賊に捕まえられていた状況も、エルフに捕まえられていた状況も大差ない立場にありますが、リーザは違います。
盗賊たちならば身代金を払うことで解放される可能性がありますが、エルフたちはそういった金銀財宝に興味はありません。それも敵の幹部となれば、解放するなんてことは万にひとつもありえないことでしょう。
「ナガマサさんたちはどうしてるでしょうか……」
笹丸は思わず呟いてしまいます。
同じ世界出身のナガマサならば、いまの状況を相談し、どうすればいいのかを考えてくれると思ったのです。
「……Nagamasa?」
「え?」
言葉に反応したのはマリアでした。
ナガマサという言葉を繰り返し、怪訝な面持ちで笹丸を見つめています。
「ナガマサさんを知ってるの?」
「……」
「ササマル殿。ナガマサ殿はエルフとの交渉役であります。推察するに、このエルフは隊長格、ナガマサ殿とも言葉を交わしたことがあるのでしょうな」
そこでようやく、笹丸はナガマサたちが自分を発見した理由を知りました。
彼らはエルフたちとの交渉のために森を訪れ、その道中で笹丸を発見したのです。
「……!」
そうなると、一つ、重要なことが変わってきました。
(コマコは、僕を森から追い出したんじゃない!)
小さなエルフは、笹丸を森から追い出そうと砂漠に放り出したのではなく、やってくるであろうナガマサたちに引き渡したのです。
それに気付くと同時に、笹丸は足音を聞き、振り向きました。
コマコは心配そうに、眉をハの字にして立っていたのでした。




