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14.


 なす術もないとはまさにこのことでしょう。

 その場にいたほとんどが今、その視線を木々の上に立つエルフたちに向けていました。


「なっ……! エルフどもがなんでこんなところまで!」

「嘘だろ! こんなタイミングでよぉ!」


 口々に自らの運の悪さを嘆く盗賊たち。

 彼らの口振りから、エルフたちは森に住んではいるものの、あまり端までは来ないことがわかります。考えてみれば、そうでなければ盗賊たちが森に潜むことを許すはずもないのかもしれません。


 その場にいたほとんどがエルフたちの次なる行動に目を見張る中、笹丸の視線はすでにあらぬ方向へと向いていました。


「……ロータス様、もしや」


 それは少し考えてみれば、もしかしたら結びついたのかもしれないことでした。

 老師ロータスは戦争が嫌いで、エルフと戦うのが嫌。となれば、彼がエルフたちと手を結ぶのも当然なのでしょう。


「命拾いしたのぅ。なぁ、ササマルくん」


 お茶目にウィンクまでしてみせた老人に、笹丸は思わず苦笑してしまいます。

 どうやら初めからこうするつもりだったようでした。


 盗賊たちは各々武器を構え、一応迎え撃つ体勢をとったものの、すぐに武器を地面に投げ捨てました。

 数は定かではありませんが、見える木々の枝には全てエルフたちが弓を構えてこちらを睨んでいるのですから、それも仕方がないというものでした。


「……参ったな、エルフが俺らを襲うなんて、一度もなかったのによ」


 アクラも潔く武器を捨て、両手をエルフたちに見える位置まで上げました。

 その様子を確認すると、数人のエルフが木を飛び降り、警戒を持続したままロータスを縛る縄を解きました。


「Rotas ja misl?」


 ロータスに向かって話しかけたエルフを、笹丸は見知っておりました。


「マリア、ありがとう。Diara」

「Mida……di roa amia?」

「ふむ……いや、連れていくべきじゃ。Roa ja kni elra」

「……Mida」


 ロータスの言葉にマリアは不服そうではあるが頷き、他のエルフたちに手で合図を送りました。

 するとエルフたちが木の上から降り、ロータスを除く全員を縄で縛りました。


「ロータス殿! まさかエルフと通じていたのでありますか!」

「わしは戦争が嫌いじゃ。とりわけ、人間側の都合で起こる争いが嫌いなのじゃ」

「ですが!」

「大人しくしておれ。エルフたちは貴君らを歓迎はしておらぬ。わしが連れて行くと言ったから、そうしているまでじゃ」


 その言葉を聞いて、リーザはロータスを睨んだまま黙りました。

 彼女からしてみれば、複雑なことでしょう。人間の英雄が、人間の味方をせず、エルフの味方をしているのですから。

「さて、わしはササマルくんと、アクラくんに話があるのでな。その他は里へ連れていくのじゃ。Maria ja hrl」

「Mida」


 リーザを含めた盗賊たちはぞろぞろとエルフに連れられ、この場にはロータス、笹丸、アクラの三人が残りました。


「……爺さん、俺に話ってなんだ。報復でもするのか?」

「おお、物騒じゃなぁ。話というのはそのままの意味じゃよアクラくん」


 そういうとロータスは短剣で笹丸とアクラの縄を切り解きました。


「話に拘束は必要ないのでな。じゃが、抵抗するならば容赦はせぬゆえ、そのつもりで頼むぞ」

「……あんた何者だよ。ただの寂れた村の爺さんじゃ、なさそうだな」

「アクラくん、わしはロータス。この世界じゃ、ちょびっとだけ有名なんじゃよ」


 その言葉に反応したのは、笹丸だけではありませんでした。


「……爺さん、今あんた、この世界っていったか」

「その通りじゃよアクラくん。わしはこの世界、と口にしたのじゃ」

「ロータスさん、もしかしてこの人も……?」

「うむ。アクラくんもこの世界の住民ではない。わしらと同じ世界から来たものじゃ」


 笹丸は驚きを隠せませんでした。

 それはただ単純にアクラも同じ世界から来たから、というものだけではなく、この短期間にこれほど多く、自分と同じ境遇のものに出会うとは思っていなかったからでした。


「……小僧、お前もなのか? 爺さん、俺は早く帰りてぇんだ。あんた何か知らないか」

「アクラくん、生憎じゃがわしも帰る方法は知らないのじゃよ。かれこれ五十年、わしはこの世界にいるのじゃ」

「……嘘だろ、五十年も、か」


 アクラは力無く頭を垂れ、そう繰り返しておりました。


「どういうことなのですか、ロータスさん」

「む? 何がじゃ、ササマルくん」

「どうして僕らを集めたのかも気になりますが、一番気になっているのは、何で僕らがこの世界のものじゃないと知っているのか、です」


 笹丸という名前の響きがこの世界において特殊であるということはアスティアから教わりました。ですが、アクラという名前は笹丸たちの世界のものではありません。


「魔法、といったら怒るかの?」

「……百歩譲って魔法だとして、その魔法はどのようなものなんですか」

「そうじゃな。言ってしまえば、目を借り、耳を借り、心を借りる魔法じゃ。例えば、ほれ」


 ロータスが指差した方向にはエルラリアが数匹おりました。


「エルラリア、エルフの目、森の動物。彼らは個々が森の魔力を持っており、森でしか魔法を使えないエルフたちの目や耳となりうる存在じゃ。彼らをエルフが使って斥候紛いのことをするように、わしも動植物の目を借りることが出来るのじゃな」

「つまり僕らを監視していたと?」

「言い方が悪いが、そういうことじゃな。この世界に来てしまった同胞は、そう少なくない。そしてその全員がこの世界に来る際、特殊な魔力を発しておる。数十年もの研究のお陰で、わしはその魔力をそこそこ感知出来るのじゃよ」


 ロータスは先ほどまでアクラが座っていた大岩に腰掛け、どこからともなくパイプを取り出し、優雅に火をつけた。


「アクラくん、君は……」

「……俺は晃だ。発音しにくいってんで、あいつらが勝手にアクラと呼んでるだけだ」

「ふむ、失礼、アキラくん。君はもとの世界に帰りたいかね?」

「当たり前だろ。……それが出来りゃ、こんなところで盗賊なんてやってねぇ」

「では、ササマルくん、君はどうかね?」

「……出来れば帰りたいです。でも、」


 素直な気持ちを笹丸は口に出しました。


「僕はこういう世界に憧れていましたし、いつか行ってみたいとも思っていました。……その、不謹慎かもしれませんが、もう少し見て回りたい気持ちもあります」

「……ふむ。では、もう一つ、二人に質問しようかの」


 ふぅ、と煙を吐いて、ロータスは口を開きます。


「君たちの世界の住民と、この世界の住民、どちらが大事かね?」


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