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11.

「……その格好、お前らが仲間を殺した騎士だな」


 笹丸とリーザを囲うように馬を走らせながら、一人の盗賊が口を開きました。

 他の盗賊たちが身なりに気を使っていないのに対し、その男だけは違いました。彼らの中で一番良い服を身につけ、腰には大きく曲がった剣が一振り。


「もう一度聞く。……お前らだな」


 馬上にいてもわかるほどの大男は低い声でそう問いかけ、答えを聞く前に曲剣を抜いておりました。


「いかにも私は直属騎士団、リーザ・ポニセーラであります」

「……直属騎士団、か。知っているぞ、その名前」


 正直に言うと笹丸はここで愚直にも名乗ってしまうリーザに驚きを隠せませんでした。

 確かに彼らはすでに笹丸たちを囲い込み、逃がさぬようにしておりましたが、まだチャンスはありました。ですが、そのチャンスを活かす間もなくリーザが名乗ってしまったのです。


「……俺は知らんが、騎士道っていうのも面倒なもんだな。こいつらを捕らえろ……直属騎士なら高く買い取ってもらえるだろう」

「浅はかでありますな。馬上とはいえ、後れを取るつもりはないでありますよ」


 笹丸はリーザの剣の実力を知らず、彼女が強がりを言っているのか本気でそう言っているのか判断出来ませんでしたが、この場でそう口に出来るのは流石としかいえませんでした。

 笹丸というお荷物を抱えたままで、十数人の敵に啖呵を切ったのですから。


 騎士なんてものが存在しない世界から来た笹丸にとって、リーザの考えは理解しがたいものでありましたが、生き方としては格好良いものだと感じました。古き良き騎士道を体言したような性格だと笹丸は理解したのです。


 ……とはいえ、そうした騎士道はこの世界では非常にポピュラーであり、誰もが知っていることでした。とりわけ、騎士と対立するものたちにとっては常識だったのです。


「……連れてこい」


 大男の一言で連れて来られたのは一人の老人でした。

 小汚く土にまみれた老人は力なく盗賊に支えられており、リーザたちの前で倒れてしまいます。


「……こんなことをしなくてもいいんだがな。これ以上、仲間を失うわけにもいかん」

「……卑劣でありますな」

「……何と言われようと構わん。騎士道だか何だか知らんが、守れもしないなら口にするもんじゃない」


 倒れ、剣を突きつけられている老人はリーザにとっても、笹丸にとっても何の関係もない一般人でした。ただ、都合よくそこにいたから利用された、赤の他人。

 ですが、それを見捨てることが出来ないのは騎士道を重んじるリーザも、異なる世界から来た笹丸も同様でした。


        ◆


 大男の指示でいとも容易く笹丸たちは捕縛され、馬に乗せられたまま、彼らのアジトである森まで連れられ、簡素な牢獄に入れられてしまったのです。

 笹丸にとって、この世界に来てから二度目の牢獄でした。


 牢獄には笹丸とリーザ、それと運悪く巻き添えをくらってしまった老人の三人が捕らえられていました。

 リーザは武具を奪われており、巻き込んでしまった老人に謝りながら食事を与えています。老人は一人で食事をとることも出来ず、常に冷たい土の上で寝ておりました。


 最初の数時間こそ、リーザと共に脱出方法を話し合ったものの、自然の力によって作られた牢獄に隙はなく、また、ここまでの道中は目隠しをされていたため、どう逃げればいいのかもわからず、そうそうに諦める他ありませんでした。


 笹丸は一人、リーザと老人を横目に考え込んでおりました。


(僕はいつも牢屋で考えているな……)


 溜め息の一つでもつきたい気分でしたが、そんなことをしても意味がない、と再び考え始める笹丸。

 考えているのは盗賊団のことでした。


 リレオの町に彼らが現れたとき、確かに笹丸はリーザたち直属騎士たちが盗賊を残らず殺してしまうところを見ておりました。少なくとも高い位置から見える範囲には、生き残りはいないように見えましたし、何よりあの偉そうにしていた盗賊はなんだったのかが気になっておりました。


 それに笹丸たちを捕らえた大男。彼のことも気がかりの一つとなっているのです。

 リレオの町を襲った盗賊が容易に人を殺そうとしたのに対し、大男は身代金を要求出来る環境にない老人ですら、ここに連れて来ているのです。

 笹丸とリーザを捕らえた後、捨て置くか殺してしまえば、与える食事の量も減ったでしょうに。


「リーザさん、確か森の盗賊団は人殺しはしないって噂ありましたよね」

「……確かにそんな噂を聞いたことはありますな。でも、笹丸殿が一番お分かりでは? リレオの町を襲ったとき、彼らは人を殺すことに迷いはなかったであります」

「……それなんです。例えリレオの町に兵士が少なくても、あんな少数で町を襲いに来るでしょうか」


 疑問はそれだけではありませんでした。

 笹丸たちを囲うように馬を走らせ、村のものたちには老人を除いて何一つ手を出さず、何より身代金を要求するなんて真似を、盗賊がするのでしょうか。

 武器や身なりは小汚くとも、笹丸には彼らが鍛えられた一つの軍に見えていたのです。


「どういうことでありますか?」

「リレオを襲った盗賊団と、僕らを捕らえている盗賊団は違うのではないでしょうか」

「……笹丸殿。一つ忘れているようでありますな。彼らが言ったのでありますよ、仲間を殺したのはお前らか、と」

「……推測ですが、もとは一つの盗賊団だった、というのはどうでしょうか」


 どうにも、笹丸はあの大男が盗賊団を纏めているようにしか見えないのです。

 そこで考えた推測が、もともとは一つの盗賊団だったというものでした。


「最初のリーダーは恐らくあの大男。彼はあの様子から、あまり人を殺したくないと考えているようですから、噂の出所も彼の考えあってのことでしょう。でも、人を殺さないってことは案外難しいものですよね」


 道すがらリレオの町を見ていた笹丸は、リレオに商人が多くいることを知っていました。

 そして彼らの多くは行商人であり、旅をしながら商品を売り歩いているのです。旅をするということは、それだけ危険と隣り合わせだということ。彼らは盗賊の獲物になりやすいのです。


「殺さない、つまり死なせない。行商人から品物を全て奪ってしまったら、彼らはいつか死んでしまいます。そこで、ある程度は手元に残して奪う。そうすると彼らも少しは儲けられるし、品物を取り戻すために彼らを討伐するより、安上がりです」


 同じ理由で、彼らは貧しい村を襲わないのでしょう。

 貧しい、その日の暮らしもままならない村々から略奪すれば、彼らは間接的に人を殺すことになってしまいますから。


「恐らく、大男のやり方に不満を覚えた者たちが先走ってリレオの町に攻め込んだのでしょう。僕らのことを伝えたのは、途中で新しい親分について行くのをやめた者、もしくは大男のスパイ……ですかね」


 笹丸はそう結論付けた後で、考えを反芻します。

 これは彼のくせのようなもので、物事を二度考えることによって、間違いがないかを確認しているのでした。


「……となれば、私たちは殺されないということでありますか?」

「いえ、わかりません。大男の考えが裏切りによって変わっていた場合、身代金を貰った後に殺されるか、もしくは僕だけ殺される場合もありますね」


 直属騎士であるリーザを助けるため、領主が身代金を払うことはあるでしょうが、笹丸に対して身代金を払う理由がありません。

 リーザを助けるためにリレオの護りを空けて、直属騎士たちが盗賊を討伐しに来るとも考えらず、笹丸にとっては唯一の希望はナガマサでした。


(……牢屋ってのは、嫌なもんだな)


 笹丸は牢屋からは見えない空を仰ぐように、天井を見上げたのでした。


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