10.Ya elra carn!
いつまで待ってもナガマサたちは呼びに来ず、暇を持て余した笹丸は村を見て回っていました。笹丸は一人で行こうとしたのですが、当然リーザが許すはずもなく、仕方なく連れ立って歩いておりました。
リレオ近辺の、具体的な距離で言うとリレオから馬に乗って半日ほどの場所にあるこの村には、名前がありません。もともとリレオという大きな町が出来たのは、現在笹丸がいる砂漠の国カフカサスの王オーディラス二世が、北に位置するアッシュルという国を攻めるためであり、長い間この地域は放置されていたというのです。
そのため、カフカサスより東の国からこの地を訪れた老師ロータスは貧困と病魔から人々を救わんと、この地に根を張ったのだといいます。
「ナガマサ殿が仰ったことでありますからな、私はそれを否定するつもりはないであります。……が、ひとつだけ訂正したいのであります」
痩せた土地に力なく座り込んでいる子供たちを見ながら、リーザは苦々しく口を開きました。
「我ら直属騎士団をはじめとして、リレオ騎士たちは皆、この地の者たちに移住を何度も促しているのであります。無論、先祖代々の地を捨てることは容易なことではないでありますが……それでも、人がいなくなれば意味はないのであります」
「……確かにそうですね。でも、この状況が続いてるってことは、」
「――彼らはロータス殿を慕っているのであります。確かに痩せた土ではありますが、微量ながら育つ野菜もありますし、主様は彼らから税をとっていないであります。貧しいとはいえ、その日を生きるには何とかなっているのであります」
そう言って村人に目を向けたリーザは複雑そうでした。
彼女にとってリレオでの暮らしが当たり前であるように、彼らにとってはこの地での暮らしが当たり前なのでしょう。それを理解した上で、リーザは彼らをリレオに招待しているのです。
「ロータス様は戦争の凄惨さをよく知っているのであります。それを彼らもよく耳にしているのでしょうな……」
その言葉を聞いて、笹丸はふと大切なことを聞き忘れていたことに気が付きました。
彼はリレオの領主に捕らえられ、老師ロータスを勧誘するように命ぜられましたことから、リレオ、ひいてはカフカサスという国がどこかの国と戦争をしているのだと判断していましたが、肝心の敵国の名を知りませんでした。
もともとこの世界の国についてはほとんど知らない笹丸でしたが、牢獄にいたウィリアムの話とナガマサの話から、周辺諸国の名は頭に入っておりました。
(いい機会だし、聞いておこう)
いくらリーザが色々なことを口止めされているとはいえ、戦争相手くらいならば教えてくれるだろうと考えた結果でした。国と国の戦争なんて、いくら口止めしたとしても伝わってしまうものだと思ったのです。
「あの、リレオの戦争相手って――」
誰、という言葉を発する前に、笹丸は口を閉じてしまいます。
共に黙りこみ、耳を澄ませ、顔を見合わせました。
「……馬の駆ける音であります」
「方向的にナガマサさんたちじゃ、ないですね」
ロータスの家の反対方向、笹丸たちが少し前まで進んでいた道。リレオの方向でした。
「足音からして十数騎はいるであります。……リレオからの使者ならば、こんなに多くは送らないでありますね」
「……出かけていたロータス様一行、何てことはないですよね?」
「生憎でありますな」
道の向こう側に手入れのされていない馬と、その背に乗ったマントを羽織い、武器を持った者たちを見て、笹丸とリーザは溜め息をつきました。
バラバラな装備に小汚いマント。どこかで見たような格好。もはや疑う余地もなく、狙いは笹丸たちだとわかりました。
「――森の盗賊であります」




