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雨の日

作者: まるちゃん

2限目の講義を終えると、次の講義まで一時間半ほど、時間が空く。金曜日は2限目と4限目しか講義をとっていないので、まさおは少し早めに食事をとるために、三階にある学生食堂でラーメンを啜ることにする。お気に入りの窓際の席に腰をおろして、霧雨のふる景色を見ながら味の濃いラーメンを食べた。時間が早いせいか、食堂にはまばらに人がいるだけで、いやにひっそりとしている。食事を済ませてしまうともうやることはなかったが、他に行く場所もないので、ただぼんやりと窓の外を眺めた。霧雨はまさおがラーメンを食べているあいだに、少し強くなり、窓を鳴らして存在感を示した。

窓の外は写真のように動きがなく、誰もいなかった。まさおが5分ほど外を眺めていると、食堂のすぐ下の舗装路でカップルがなにやら口論をしていることに気がついた。二人は傘もささずに、お互いの服を引っ張りあっている。位置的にすぐ真下の辺りだったので気がつかなかったらしい。傘をささないで喧嘩しているところを見ると、ちょうどまさおがラーメンを食べ始めた辺りから言い争っているようだ。二人の口論の内容はわからないが、女が立ち去ろうとするのを男が止めている様子から、別れ話のようだ。恋愛をしたことのないまさおは、うらやましいような、うっとうしいような、まとまりのつかない心持ちで二人を眺めた。雨は次第に窓を強く叩き、カップルはそれに呼応するように激しく揉み合っている。男ははじめのうちは女の服の袖を掴みながら、説得を試みていたが、今は、女の髪の毛を引きちぎらんばかりに乱暴に掴み、女を食い止めている。あくまで傍観者の立場であったまさおも、さすがに不安になり、かすかに足が震え出した。すると突然、男は女の髪の毛をはなし、電池が切れたおもちゃのように、動かなくなった。女も、突然の男の変化にあっけにとられたのか、立ち去ることも忘れ、ピタリと静止した。

あっというまだった。朝目覚まし時計を止めるくらい、あっさりと素早く、男は女の胸にナイフを突き立てた。水を含んだ紙のように、グニャリと女は倒れた。

男と目があった。男はまさおが見ているのを知っていたと言わんばかりに、女を刺すと即座にまさおのいる食堂の三階の窓際の席を見た。まさおは不思議と恐怖を感じず、窓の外の男をテレビでも見るように眺めた。男は照れ臭そうに笑い、軽く頭を下げて立ち去った。まさおは、窓の外は関係ないんだと思った。だって、窓の外のことだから。

窓の内側では、次第に学生が集まり、賑やかになってきた。

まさおのすぐ近くの席に座った女の子が、「人殺し」と叫んだ。いっぱい人が集まってきて、みんな窓に手をつけながら、外を見ている。そんなに強く押したら窓が割れてしまうじゃないかと、まさおは腹を立てながら、四限目の講義に向かった。

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