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焼肉店にて(「きゅうりの漬物とニラレバ」「ファミレスにて」)

作者: おりん
掲載日:2026/10/19

以前投稿した「きゅうりの漬物とニラレバ」・「ファミレスにて」と3部作になっています。内容はほぼおなじ内容です。ただ表現が違います(つもりです)。貼り付けておきますので、読み比べていただくと嬉しいです。コメントを待っています。

よろしくお願いします。



=============================================================================================================================================================================================================================================================





焼肉店にて



彼女は残っていたレモン酎ハイを飲み干した.


テーブルには、空になった中ジョッキが4つと1皿のキムチ以外は何もなかった。


ガスの火は消してあった。店内はたくさんの客で騒がしかった。


2用のテーブルせきにいる。


店には「連れが遅れて来る」と言ってある。


彼女はキムチを見つめている。


この日、5杯目になるレモン酎ハイをオーダーした。


ひたすら腕時計と汚れていない冷えた鉄板に視線を交代に見やっている。


いい加減、店員に会計を促されるだろう。


もうそろそろ帰ろうか。彼は来るはずもない。


そう思うと、力が抜けて急に酔いが襲って来た。


◇◇◇


彼はなぜ今頃になって、彼女から連絡が来たのか分からなかった。


さっきの電話ではろれつが回らないくらいに、ひどく酔っていた。


彼女とは1年前に別れた。それからはいっさい連絡をしていないし、来なかった。


でもアドレスだけは、しっかり暗記していた。


駅から歩いて10分、その焼肉店はあった。


何と言って顔を合わせればよいのか分からないでいた。


雪が静かに舞っている。別れたあの日もおなじように舞っていた。


◇◇◇


「いつから私の前にいたの?」


彼女はいまが何時なのか、どこにいるのかさえ理解できないようだ。


酔っている彼女が避難がましく、キムチをつまんでいる。


「きみから電話があって、呼び出されたんだよ。あまりにひどく酔っていたから心配になって来た」


1年経った。彼女は髪が長くなり印象が変わっていた。以前はショートで明るい雰囲気だったけれども、いまは背まで伸びて落ち着いて見える。しかしその瞳は相変わらずだった。油断すると引き寄せられてしまうような力がある。いまも彼は吸い込まれそうになっている。それは酔っていても変わらなかった。

彼女のその瞳が好きだったことを思い出した。


◇◇◇


「なにかあった?」


「なにも」


「驚いたよ」


「私も驚いた。あなたを呼んだ覚えがないから」


「本当に理由がないのか?」


「ないよ」


そんな訳がない。嘘をつくと必ず瞳を左に寄せる。癖だ。変わりようがない。なにかあるのだ。言いたいことがあるに違いない。


「じゃあ、出よう。店にも迷惑だよ」


「ついでだから、あなたも飲んだら」


「どうして?」


「その方がお店にとっていいでしょう。罪滅ぼししないと」


何かいいことを思い浮かんだように言った。


彼は仕方なくレモン酎ハイと彼女の好きなホルモンをタブレットでオーダーした。


◇◇◇


「飲みすぎだよ」


彼女は見るに堪えない様子だった。


「なにがあった?」


「べつに」


また瞳が左に寄った。


「べつにじゃない」


レモン酎ハイをオーダーして、メニュー表を眺めている。


「なんでそんなになるまで飲んでる」


「悲しいのよ」


「・・・・・」


彼女の瞳から薄っすらと涙が流れようとしている。その瞳の力が弱くなっているようだ。


「なんでこんな場所で飲んでるの?」


なかなか目を合わそうとしない。いつもの彼女なら相手の目を優しく覆うように見る。


「いいじゃない」


「ダメなわけないけど、きみは目立つ」


「目立っている・・・」


「そう。こういう場所で、女性が1人で飲んでいるなんて目立つよ」


「いいじゃない。あなたが来たんだから、もう1人じゃあないよ。目立たない」


「いったい何杯飲んだ?」


「わかんない」


「飲みすぎだよ。帰ろう」


「嫌、今はあなたと飲みたいの」


「なぜ?」


「今日はあなたの誕生日ですよ。おめでとう!」


こんなハイな彼女は見たことがない。


忘れていた。


だれにもそんな言葉を掛けられなかった。


思いだした。


「ありがとう」


「そうでしょう。私、いい人です♪」


「そうだね」


◇◇◇


「ね、2人で飲もうよ!」


こんなにハイな彼女は見たことがなかった。それに飲むピッチが早い。


「ねぇ、これなに?」


「大根のキムチだろ」


「違うよ!カクテキです」


「忘れたの?あなた、好きでしょ」


「忘れていない」


彼女の前で何度も食べた。


「じゃあ、私の誕生日は?」


「11月5日」


忘れるわけがない。


レモン酎ハイを彼女はあおった。


「そんなに飲むなよ」


「嫌、今日は飲む」


「どうして?」


「わからない?」


「わからない」


少し機嫌をそこねたらしい。


「本当に?」


眉間にしわを寄せた。


「本当に」


思いつかない。


「どうしても?」


落胆したようだ。


「どうしても」


どうしようもない。


◇◇◇


「ヒントあげる」


ふてくされて言った。


「3年前よ」


「・・・・・」


「3年前。3年前」


「3年前・・・」


「そう、3年前」


今度はイラついていた。


◇◇◇


「・・・・・・・・・・オレたちがつきあい始めた、その日にここに来た」


「やっと思い出したのね。あなたの誕生日だったでしょう。あの日も雪が降っていた。翌朝には薄く積もっていた。思い出した?こんなことも忘れるなんて、2年は長いのね」


彼は、ハッとした。


「レモン酎ハイで乾杯して、カクテキを食べとホルモンを食べたよ」


「そうよ、ちょうど3年前よ」


「よく覚えてるね」


「誕生日のお祝いしたじゃない」


彼女の声は喧騒に紛れていた。


「あなたのことが、まだ忘れないの」


「わかったよ」


「本当に」


「わかったよ」


「嘘じゃないの」


「うん」


彼は自分の中の何かに問いかけ始めた。


「じゃあ、私のところに戻って来て」


赤らめた頬をしている彼女は、ホルモンをまだ2/3程を残したままテーブルにうつ伏せてしまった。


彼は、タブレットを手に取ってレモン酎ハイとカクテキとホルモンをオーダーした。



―きみに何度も連絡しようかと思っていた―





===============================================================================================================================================================



きゅうりの漬物とニラレバ



彼女は残っていた梅サワーを飲み干した。



その居酒屋は県道沿いの小さい店舗で、周りにはコンビニがある程度の静かな住宅街にあった。



開店5年ほどで、僕と彼女は開店当初から常連とまではいかないが通ってきたので、挨拶程度は交わしていた。



刺身と串焼き、だし巻き、枝豆などが定番だ。



僕らは1年前に別れたはずだった。


なのに今日、今はこうして同じ場所で向かいあっている。


席はほとんど埋まっていて、店内は賑わっており、相変わらずだなと思った。


「なぜあたしの前にいるのよ」


酔っぱらっている彼女が避難がましく、枝豆をつまんでいる。


「君が呼び出した。電話を掛けて来た。しつこかった。あんまりひどい酔い具合で心配になった。だから来た」


「なによ、lineをあんなに送ったのにさんざん無視してきたくせに、いまは来るんだ」


「なにかあったのか?」


「べつに」


べつにじゃあないだろう。


今度はレモンサワーを注文して、メニュー表をめくっている。


「飲み過ぎるなよ」


「何があった?」


「振られて悲しいの」


「そうなんだ」


「だからつきあってほしいの」


彼女は涙目になっている。



だし巻きがやってきた。だしの具合が絶妙でふかふかした、彼女が好きなメニューの1つだった。


きゅうりの漬物、イカのから揚げがやって来た。どれも彼女の定番だ。


「あたしのね、あたしの定番ってどれ?」


「だから、だし巻き、きゅうりの漬物、イカのから揚げ、枝豆だよ」


「じゃあさ、一番の好きなのは?」


「・・・・・飽きのこないきゅうりの漬物だよ」


「覚えてくれたのね。でも違う」


この居酒屋で彼女が一番好きなのは、きゅうりの漬物で間違いなかった。


たった一年やそこらで忘れるはずがない。


「じゃ、あなたの一番好きなのは?」


「僕の一番好きなのはニラレバだよ。君はいつも気持ち悪いって言ってた。けれどもね。癖になるんだ。忘れた?」


「わたしの一番好きなのは、飽きのこないきゅうりの漬物ではなくて、もっと飽きのこないあなた」


「あなたの一番好きなのは、癖になるニラレバでなくて、もっと癖になるあたし」


と、悲しそうに言い、つづけて、


「そうあってほしい」


と、言った。


彼女は、眠そうな顔をして、酔いつぶれてテーブルに突っ伏した。


「だから、あたしを振らないで」




=======================================================================================================================================================================




ファミレスにて



彼女は残っていた生中を飲み干した。


テーブルには、空になった中ジョッキが4つと1皿のポテト以外は何もなかった。


席はほとんど埋まっていて、騒がしかった。


奥の席に、黒いシャツに茶のスラックスの彼女がいた。


「なんであたしの前におるん?」


酔っている彼女が避難がましく、ポテトをつまんでいる。


「おまえが電話で呼び出したんや。しつこかった。あんまし酷い酔っ払い具合で心配になったから、来たんや」


「なんやの。LINEあんなに無視してたんに、来るんや」


「なんかあったん?」


「べつに」


「べつにじゃないがいね」


彼女は生中をタブレットでオーダーして、メニューを見ている。


「飲みすぎんなや」


彼女は見るに堪えない様子だった。


「なにがあったん?」


「悲しいんや」


「そうなん」


彼女は涙目になっている。


「なんでこんなとこで1人で飲んどるが?」


「いいがいね。ファミレスで飲んでいかんがか?」


「いかんわけでないけど、おまえ浮いとるよ」


「浮いとる?」


「そうや」


彼は心配そうに続けて、


「ここは女性が1人で飲むようなとこでないし」


そう言った。


「出よう」


「出てどうするん?」


「三景川を歩いて酔いをさまそ」


「いやや、ここであんたと飲みたい気分なんやて」


「どうしてや?」


「だって、今日はあんたの誕生日や」


忘れていた。誰にも何も言われなかった。


「あんやと」


「そうやろ?あたしっていい人やろが?」


小声になって得意げに言った。


「あぁ。そうやな」


「そやから、2人で飲も!」


彼も仕方なく生中をオーダーした。


「ねぇ、これなんやと思う?」


自分がつまんでいる、ポテトを見つめながら言った。


「ポテトやろ」


「違うやろ!山盛りポテトやがいね」


「そうやな」


「あんたの好きな山盛りポテトや。忘れたんか?」


「忘れとらん」


彼は少しとまどいながら、言う。


「じゃあ、あたしの誕生日は?」


「11月5日や」


忘れるわけがない。


「あんやと」


と言って、彼女は生中をあおった。


「そんなに飲まんこっちゃ」


「いやや。今日は飲む」


「なんでや」


「わからんが?」


「わからん」


「ほんとに?」


「ほんとや」


「どうしてもか?」


「どうしてもや」


「ヒントあげる」


彼女はふてくされて言った。


「3年前や」


「わからん・・・」


「3年前や。3年前」


「3年前・・・・・」


「そうや」


今度は、少しイラついていた。


「・・・・・オレたちがつきあいはじめた、その日にここに来たんや」


「やっと、思い出したんか。あんたの誕生日やったやろ」


彼は、はっとした。


「生中で乾杯して山盛りポテトを食べた・・・・・」


「そうや。ちょうど3年前や」


「よう覚えとるな」


「そやろ・・・誕生日をお祝いしたやろ」


彼女の声は、店内の喧騒に紛れていた。


「あんたのこと、まだ忘れられん」


「そうか」


「本当や」


「そうなんか」


「嘘じゃないし」


「わかったよ・・・」


「じゃあ、あたしのところに戻って来てや」


赤らめた頬をした彼女は、すっかり冷めてしまったポテトをつまみながら、テーブルにうつ伏せてしまった。


彼は、タブレットを手に取って生中と山盛りポテトをオーダーした。








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