〜プロローグ〜
はじめまして、チェリ〜です。
初投稿のため至らぬ点もあるかと思いますが、誤字脱字などあればコメントで教えていただけると嬉しいです。よろしくお願いします!
「ねえ、姉様っ!紅葉も、大きくなったら姉様みたいなお嫁さまに、なれるかしらっ?」
「もう、紅葉ったら。…紅葉ならきっと美しいお嫁さまになると思うわ。私の自慢の妹だもの」
そう微笑んでくださった、私の美しい自慢の姉様。
私と同じ、白銀の長く綺麗な髪に、ほっそりとした手足、まるで父様がお土産に持ってくる、青い宝石のような瞳。そして、ふさふさとした尾と耳。存在そのものが神々しく、美しかったのだ。
また、美しいだけじゃなく、姉様は、優しくて、温かくて、賢く…。
そんな姉様が私は大好きで、自慢で、憧れだった。
「おーい!紅葉ーっ!!お前だけ、ずるいぞ!!深雪ねえは、みんなの姉様なんだからなっ!!」
私たちが家の縁側で、そうお話をしていると、どこからか、少年が私と姉様の間に飛び込んできた。
彼の名前は、銀助。父様と仲の良いこの家の料理長の一人息子で、小さな頃からずっと一緒だった。
「あら、銀ちゃん。…ふふ、いらっしゃい」
「あ、銀ちゃん!…ずるくないわ!姉様は、紅葉の姉様なのっ!」
「はぁーー?みんなの姉様だろっっ!そんなの、絶対ないからなっ!」
銀ちゃんも、姉様のことが大好きだから、幼い頃はこう、よく姉様のことで喧嘩になっていたものだ。
姉様は、頑固な銀ちゃんもこんなに好きになってしまうほどの魅力を持っていて、村のみんなから愛されていた。
「もう、二人とも…。私のことでそんなにムキになってくださるのは嬉しいけれど、柚子が起きてしまうわ。もう11でしょう?大人しくして、お願い」
柚子というのは、姉様の一人娘。まだ一つにもなっていない。姉様は、父様が愛する人との間に子を産んだ。…でも、姉様の愛する人は、父様の手によって、死んでしまったのだが…。そんな姉様の愛する人の忘れ形見の柚子は、姉様が大事に大事に愛情を注いで育てていた。
…当時は、それに対して、不満がないといえば、嘘になっていたが。
「最近の姉様は、柚子ばっかりです!」
「そーだそーだ!…深雪ねえは、俺たちのことが好きじゃないんだろっ!」
「柚子なんて、嫌いですっ!!!」
「まぁ、二人とも…そんな訳じゃないのよ。私は、あなた達のことが大好きだわ」
「だったらなんで…、」
そう言おうとした瞬間、私は一旦、話すのをやめた。隣にいた銀助も、同じように口を閉ざした。
姉様が、とても、悲しそうで、辛そうだったから。姉様は、私たちではない別の所を見つめていた。遠い、遠い場所。どこを見つめていたのかはわからない。どこも見ていなかったのかもしれない。
でも、その深い藍色の瞳が、これ以上ないほど闇く、姉様の横顔が、存在が、今にも消えてしまいそうなくらい儚かったのだ。
「みゆき、ねぇ…?」
「ねえさま…?」
「……二人とも、約束して。柚子を守って。私の代わりに愛してあげて。そして…絶対に、生きて」
姉様は私たちの顔を見ないまま、そうはっきり言った。
「さっき、紅葉は“姉様みたいなお嫁さまになりたい”と言ったわよね。でも、それは大きな間違い。私みたいな運命には、ならないで。紅葉には、私みたいになってほしくないの。 銀ちゃんもよ。いざとなったら、この村をでなさい。お願い、約束よ。」
姉様は、はじめて私たちの前で涙を流した。綺麗な綺麗な、涙だった。それが姉様が私たちに見せる、最初で最後の涙になった。
姉様の体が炎に包まれ消えていく。いつのまにか隣にいたはずの銀ちゃんも消えていた。
周りが真っ暗になっていく。
ーー銀ちゃん、姉様…いなくならないで。お願い。戻ってきて。お願い、だから…!!私を、独りで、死なせないで……っ!!
「…………はっ!ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」
夢、だ…。暗闇、ではない。畳に、1人用の布団。私は今、そこに寝ていた。
普通の家の部屋よりかは、とても大きいが、生活最低限のものしか置かれていない、私の部屋だ。
すぐに起き上がり、置かれている浴衣に着替える。この浴衣で過ごすのも今日が最後だと思うと、少し胸にくるものがあるが、そういうのはもう慣れた。こんな悪夢を見るのも、もう最後だ。そう思うと…死ぬのも怖くはない。
一つ、心残りがあるが、私のこの身体は村に捧げるのだ。そうすれば、大好きな村のみんなや柚子が、助かるのだから。
髪をとかし、耳と尻尾のブラッシングも欠かさず行う。すると、いつもの美しい村の長の次女・紅葉になれる。
ブラッシングをしていると、ふと、開けた障子の外の景色が目に入った。
周囲は山に囲まれていて、沢山の家屋が立ち並んでいる。春らしい花達がちらほら咲き始め、そよ風がその花を撫でた。
大好きな人達と過ごし、私が育ってきた、大好きな故郷の村。
この村のために、私は明日、姉様と同じ運命で死す。
丘の上の洞窟に普段は眠っている鬼に、嫁入りするのだ。
そして、炎の中、喰われる。
それが私の産まれた時、いや、それ以前からの宿命であり、
呪いだ。




