26 ノーウェイバック
舞台袖に赤が入ってくる。
歩みは変わらない。
一定の速さで、迷いもなく、
まっすぐ奥へ向かう。
いつもと同じ動き。
同じ軌道。
それでも、どこか違う。
わずかに速い。
わずかに重い。
止まらないことだけが、はっきりと分かる。
ミナは動かない。
その背中を見る。
呼び止める理由は思いつく。
言葉も、いくつか浮かぶ。
けれど、どれも届かない気がする。
赤は止まらない。
奥へ行く。線の先。
しゃがむ。
手を伸ばす。
接続する。
音が鳴る。
低く、長い。
今までよりも明確に、
何かが流れていると分かる音。
ミナは目を逸らさない。
見ている。
指先が動く。
選ぶ。押す。送る。
その動きは正確で、
迷いが一切ない。
一つひとつが、
すでに決まっていた手順みたいに進む。
ミナは理解する。
これは試しではない。
やるかどうかを考えている動きではない。
すでに、決めた後の動きだ。
送っている。
どこへか。
誰かへか。
何をか。
分からない。
けれど、それは“外”に向かっている。
音が続く。
時間が伸びる。
戻らないことだけが、
はっきりしていく。
やがて、音が止まる。
赤は手を離す。
何も変わらない動作で立ち上がる。
振り返る。
ミナを見る。
一瞬だけ。
その視線には、
説明も、迷いも、残っていない。
ただ、終わったという事実だけがある。
「……もう戻らない」
静かに言う。
断定だった。
選択の結果ではない。
最初から、そこに至ると決まっていたみたいに。




