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第135話 王になる?

「予言しよう」父は言った。「近いうち、私は王になるだろう」


 何を言っているのか、さっぱりわけがわからなかった。

 王になる?

 どういうことだろうか?


 テレヴォを殺すということか?


 本当に、意味がわからない……。


「どういうことですか?」と聞かざるを得なかった。


「言葉通りの意味だ。ただの予言だ。おそらくは実現することになる。残念ながら」


「残念ながら?」


「ああ、そうだ。私が望むことではない。ただ、そうなるだろう」


 父の言葉を聞いていると、徐々に腹が立ってきた。


「なぜ、いつもいつもはぐらかすようなことを言うのですか?」と僕は言った。


「真実を告げてしまうと、つまらないからだ」父は言った。「謎は多いほうが人生は豊かになる」


 わかるような、わからないような話だった。


「アーリング。いま、私をこの場で殺しておくのが、もっとも簡単だ。すべての物事がシンプルになる」


「……死にたいのですか?」と僕は尋ねた。


「いや。生きたい。できることならば、永遠に……」父は遠い目をしていた。


 本当に、何を考えているのか、さっぱりわからない。

 母は、父のどこを好きになったのだろうか……。


 父のペースに巻き込まれてはいけない。

 いつもの、わけのわからないことを言って煙に巻く戦法だろう。


「ヴィヒレァの件を話しても良いでしょうか」


「構わない」


「ヴィヒレァを、なぜ養女にしたのですか?」


「才能のある孤児を支援するのは、貴族の役目だ」


 それは表向きの、ありがちな、わかりやすい理由だった。


「彼女は、記憶を消す魔術をフィヨーラ様に使い、そして……ハーラル様を殺害しました」


「聞いている」父は言った。「実に残念なことだ」


 一切感情のこもっていない声だった。


「父上……。あなたは……」僕は迷ったが、言った。「ヴィヒレァを使って、ハーラル様を殺害し、フィヨーラ王女の記憶を消したのではないのですか?」


 僕の決定的な問い。

 リネアが、隣でナイフを構えたのがわかった。


 父は……微笑するだけで、何も答えなかった。


「なぜ、何も答えないのですか?」


 答えなかったこと。

 それ自体が、答えなのではないか、とさえ思った。


「答えなかったということを、女王に報告します」


 父は何も言わなかった。


 これ以上は時間の無駄だ。

 僕はリネアを連れ、部屋を出ていくことにした。


 そして、ドアが閉まる直前だった。


「アーリング。リネア。幸せでな」


 父は小さな声でつぶやいたようだった。

 まるで、もう二度と会えないかのような、そんな言葉に聞こえた。


◇◇◇


 僕とリネアはグレンフェル家から離れ、二人で街を歩いていた。


「結局、父は……何を考えているんだろう?」


「わかりません」リネアは答えた。


「王になるって、なんだ? そんなこと、可能なのかな……」


「きっと実現するのでしょう」


 そんなことがあり得るのだろうか……。


「ヴィヒレァの件も否定しなかったし……。リムグレーペでの一件も、何もかも、父は怪しすぎる」


「おそらく、こちらのほうが優勢です。あるいは勝勢かもしれません。あとは、どうやって詰めていくかですね」


 勝勢……なのだろうか。

 ずっと、後手に回っているような気がする。


「旦那様は何を望まれますか? グレンフェル公爵に勝つことですか?」


「いや、そんなことには興味ないな。ただ、僕は……いままで悲しんできた人たちが、悲しまないで良いようにしたい」


 ビルギットもそうだ。

 リムグレーペでの件も。

 父が、何かしらを企て、それにより人々が苦しんでいるのだとすれば……。

 僕は父を断罪しなければならない。


「お父様と、お呼びすればよかったでしょうか」とリネアが言った。


「……そうだね。一度くらいは、呼んでもよかったかもね」と僕は肯定した。


 実際のところ、グレンフェル公爵は、表向きにもリネアの義父になるわけだ。


「リネアと父は似ているね」


「残念ながら」とリネアは答えた。


「リネアのお母さんは、どんな人だったんだろう」


「優しく、美しい人でした」


「リネアは……お母さんにも似たんだね」


 僕のその言葉に、リネアは微笑した。


◇◇◇


 僕達一行は、離宮の一室を本拠地として使わせてもらっていた。

 テレヴォの移動に都合が良いからだ。


 昼過ぎ、僕は離宮にある図書室で久しぶりに読書を楽しんでいた。

 こんなにゆっくりとした時間を取れたのは、いつ以来だろうか……。


 同じ部屋にいたシリヤが、ひとつの本を手に僕の隣の椅子へと座った。

 そして椅子を近づけ、僕にぴったりと寄り添いながら本を読み始めた。


 なんでもない幸せな時間。

 こんな時間が、いつまでもつづけば良いと、そう思っていた。


「好きですよ」と不意にシリヤが言った。


「なんだか、いつもよりも素直だね」


「私は、いつでも素直ですよ。アーリングさんの隣にいると、落ち着きます。ここは、良い場所ですね。静かで、落ち着いていて……」


「可愛いね」


 そして、僕達は、どちらからともなく口づけを交わし……。


「ちゅーしてる……」という声。


 そちらを見ると、そこにいたのは……シリヤの母、スィグネだった。

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