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第129話 名探偵、妹の膝を撫でる

「あの……」ヴィヒレァは僕の膝の上にいた。「くすぐったいんですけれども」


 僕はヴィヒレアの太ももを撫でていた。

 肉付きがよく、柔らかい。


「兄様って変態なんですね」とヴィヒレァが言った。


「これは兄妹間のスキンシップだ」と誤魔化しておく。


「アーリング様が公衆の面前でセクハラをしている……」とキルステーナが言った。


「アーリングくん、太ももフェチなんだ……」とテレヴォがつぶやいた。


 僕達は離宮の一室にいた。

 この場には、僕、シリヤ、リネア、キルステーナ、テレヴォ、そして侍女のエスリキラがいた。

 部屋の外には兵たちが待機している。


 僕はヴィヒレァを呼び出し、兄妹として抱っこをさせてくれないか、と頼んだ。

 その結果、皆の前でヴィヒレァの太ももを撫でている僕だった。


 ……普通にやばすぎる光景だ。


 これは、謎を解くために必要な最後の工程なのだ。

 シリヤが考えてくれた作戦なので、僕は仕方がなく少女の太ももを揉みしだいているというわけだった。

 決して、僕が太ももを撫でたくて撫でているわけではないのだ……。


 まさか、こんな皆の前で太ももを撫でさせられるとは……。


「あの……」侍女長が眉をひそめる。「フィヨーラ様の記憶が奪われた事件を解決するのではなかったのですか? それとも、性的な興奮を高めるために、我々というギャラリーを招集したのでしょうか」


「そんなわけあってたまるか」


 僕はヴィヒレァを膝に載せたまま、周囲をぐるりと見回した。


「さて」僕は話をはじめることにした。「ここで皆さんにお伝えしたいのは、僕の膝の上にいるヴィヒレァこそが、フィヨーラ様の記憶を奪い、ハーラル様の命を奪った張本人である、ということです」


 しん、と。

 部屋の空気が凍りついた。


「……は?」


 最初に声を発したのはテレヴォだった。

 エスリキラも、キルステーナも、僕が何を言っているのか理解できない、という顔で固まっている。


「兄様。ご冗談を」


 膝の上のヴィヒレァがこちらを見上げ、微笑んだ。

 だが、その瞳の奥は笑っていない。


「冗談じゃない」


 僕は冷静に話を進める。

 ここからが、本番だ。


「さて、このヴィヒレァが犯人だとすると、ひとつの謎が残る。それが何かわかりますか?」


 僕の問いに、エスリキラが手をあげた。


「はい。まず、最初のフィヨーラ様の事件も、今回の事件でも、魔力探知結界がありました。だから……ヴィヒレァ様は足が不自由です。常に魔術で車椅子を浮遊させなければ、魔力探知に引っかかっているはずです」


「そのとおりです」僕はうなずいた。「しかし、その前提が僕たち全員の思考を縛っていた」


 僕は膝の上の少女の瞳を、ゼロ距離で見据えた。


「もし、その大前提が、全て『嘘』だったとしたら?」


「嘘……ですか?」とエスリキラが目を見開いた。


「そう」僕は頷いた。「ヴィヒレァ。君は、足が不自由なんかじゃない。ずっと、不自由なふりをしていただけだ」


 ヴィヒレァは微笑を崩さない。


「兄様。なにか証拠でもありますか?」


「ああ。今、見つけたよ」


 僕は、彼女の太ももに置いていた手のひらに、ぐっと力を込めた。

 その確かな弾力と、筋肉の躍動を確かめるように。


「これだ」


 僕は膝の上の少女を見下ろしたまま、全員に聞こえるように告げた。


「僕の【賢者の知識】によれば、長年車椅子での生活を余儀なくされ、自らの脚で立っていない人間の筋肉は、必ず萎縮し、痩せ細っていく。特に、この大腿四頭筋は人体で最も顕著にその影響が現れる場所だ」


 僕は、掴んだ彼女の脚を、ゆっくりと持ち上げる。


「だが、どうだ。僕が今、この手で『診断』している君の太ももは……。しなやかで、筋肉が発達している。これは車椅子の上だけで作れる筋肉じゃない」


 しかし、ヴィヒレァは微笑を崩さない。


「君は歩ける。違うかい?」


 僕がそう問いかけると、ヴィヒレァは何も答えなかった。


 僕は、そんな彼女を、ゆっくりと僕の膝から降ろした。

 車椅子の横、何もない、大理石の床の上へと。


 そして。


 ヴィヒレァは、ふらつくことも、よろめくこともなく。


 自らの二本の脚で、床の上に立った。


「……あ……」


 エスリキラが、信じられないものを見たかのように、小さく悲鳴を上げる。

 テレヴォもキルステーナも、言葉を失っている。


「これが、君が使った『トリック』の正体だ」

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