第3章:新たな未来と試練の影
美羽の恋愛公表から半年が過ぎ、二人の生活は少しずつ安定してきた。事務所からの制約も減り、美羽は芸能活動の幅を広げるとともに、悠真との関係も公にできる喜びをかみしめていた。
休日のある日、二人は公園のベンチに並んで座りながら、未来について話し合った。
「結婚、考えてる?」悠真がそっと問いかける。
美羽は笑顔で答えた。「うん。もう隠さず、あなたと人生を共に歩みたい」
そんな未来の約束は、二人に新たな希望をもたらした。
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しかし、幸せの影に忍び寄る試練もあった。芸能界の噂話や熱心すぎる一部ファンのストーカー行為、さらにはメディアの過剰な詮索。悠真は美羽を守ろうと懸命に立ち向かう。
ある夜、深刻なメールが届いた。
「君のファンの一部が危険な行動に出ている。安全のためにしばらく身を隠そう」
美羽は怖がりながらも悠真の腕にしがみついた。
「君がいれば、怖くないよ」
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それでも、二人の絆はさらに強くなり、困難を乗り越える力となった。公の場での結婚報告も視野に入れ、家族や友人たちの祝福を受ける準備を始める。
未来への道は決して平坦ではないが、悠真と美羽は「推し」と「ファン」から始まった愛を、真実の家族の絆へと変えていく。
結婚の準備が本格化していく中、美羽と悠真は何度も話し合いを重ねた。彼女の所属事務所はまだ完全に二人の関係を支持しているわけではなかったが、ファンや世間の理解も徐々に広がりつつあった。
「結婚式は……小さくていい。けれど、本当に大切な人たちには来てほしい」
美羽の願いに、悠真は力強く頷いた。
「君のためなら、何だってするよ」
そんな日々の中、二人は穏やかな時間を少しずつ積み重ねていった。
ある休日、二人はかつての思い出が詰まったライブ会場を訪れた。ステージの前に立つ美羽の目には、かつての自分とこれからの自分が重なり合って映っていた。
「ここから始まったんだよね、私たちの物語が」
悠真は優しく手を握った。
「これからはずっと、君の隣にいる」
だが、そんな幸せの陰で、芸能界の事情はまだ二人を見守るように静かに揺れていた。突如として、事務所の上層部から結婚延期の要請が届く。
「タイミングが悪い。君の人気を考えれば……」
美羽は葛藤した。自分の幸せと、これまで支えてくれたファンや事務所の期待。その間で揺れる心。
悠真は彼女を抱きしめた。
「どんなに時間がかかっても、俺は君の味方だ。君の幸せが一番だよ」
二人は決めた。周囲の期待に縛られることなく、自分たちの幸せを追い求めようと。
結婚発表の延期を決めた日から、美羽と悠真はお互いの気持ちをより深く確かめ合った。世間の目や事務所の意向に翻弄されながらも、二人の愛は揺るがなかった。
そんなある日、美羽の母親、典子が二人のもとを訪ねてきた。母親はずっと芸能界の厳しさを知りつつも、娘の幸せを願っていた。
「美羽、あなたが幸せになるなら、私は何も言わないわ。悠真さんを信じてあげなさい」
母の言葉に美羽は涙をこぼし、悠真も深く頭を下げた。二人にとって、大きな支えとなる瞬間だった。
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その後、少しずつだが結婚準備が進んでいく。親しい友人や家族が集まり、温かな祝福の輪が広がっていった。
ある日、美羽は「瑞牆学園高校」の同級生たちとも再会した。かつての青春時代の記憶が蘇り、皆が二人の幸せを心から願った。
悠真はその輪の中で、美羽を見つめながら心の中で誓う。
「どんな困難があっても、君を守り抜く」
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結婚式当日、華やかな舞台に立つ二人。ゲストたちの温かい拍手と祝福に包まれ、悠真は美羽の手をしっかりと握りしめた。
「推しだった君が、隣にいる」——そんな日々の奇跡を噛みしめながら。
未来はまだ不確かだけれど、二人の心は確かに一つだった。