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立夏

作者: 羽生河四ノ

 噂で聞いたんですけども、今年の夏は暑いんだそうです。夏が始まる前、そういう噂を聞きました。

 それで、実際その通りだったんです。驚きました。噂って結構、嘘とか誇張とか、パーツがついてるじゃないですか。盛ってるっていうか。だから、本当で驚きました。今年は二十四節気の立夏から暑いんだって。苛烈って聞いてたんです。苛烈。酷暑。残虐夏って。本当でした。立夏が過ぎたくらいから、本当に暑くなりました。一気に。何かが振り切れるみたいに暑くなって。生きているだけで焼け死ぬんじゃないかと思えました。思いました。

 それで、その、本当に参ってしまったんです。その当時、ちょっと体調も悪かったんです。色々とパンパンで。だからまあ、心が弱ってたって言うか。陰にイン。ドライブイン。みたいな。

 ただでさえ陰にインしがちだったのに、それに加えて空気や太陽光が急激に暑くなって。突然振り切れたみたいに暑くなって。それでもうついていけない。体も心も、私も。全部。みたいな。

 だから、その、つい、死ぬかもしれない。って言うか。弱り目に祟り目。みたいな。

 ちなみにその当時の私は、雑司ヶ谷霊園によく行ってたんです。

 雑司ヶ谷霊園って言うのは池袋駅東口から出て、少し歩いて南池袋一丁目の交差点の交差の一本。東通りって言う通りをまっすぐ突っ切るとある霊園です。雑司ヶ谷霊園。新宿にある新宿御苑くらい大きいんです。雑司ヶ谷霊園。新宿は新宿御苑が好きなんです私。それ以外はあまり何も。正直に言えば苦手です。人が沢山いますから。池袋も人が沢山います。東口とかもうすごくいます。でも、雑司ヶ谷霊園はあまり人がいません。霊園だからかな。荘厳な雰囲気で、イキフンで。だから、好きになったのかも。そこにまあ、だからまあ、よく行ってたんです。縁もゆかりも無いんですけどね。知り合いの御墓があるって言うわけでもないですし。

 五月、立夏が過ぎて、噂通り一気に暑くなって、クーラーはつけたものの、電気代はタダじゃないし、何か、どうにか。なんか、なんとかならないのか。と思った時に頭によぎったのは、怖い話でした。

「おばけがいる部屋って入るとひんやりしてるってよく聞くよなあ」

 って。

「じゃあおばけさんに来てもらったら、ここもそうなるのかなあ」

 って。

「クーラーとかつけなくても良くなるのかなあ」

 って。

 それにほら、夏。もう少ししたらなろうで、夏ホもあるしなあって。夏のホラー。

 それでそう思ったら、自然と雑司ヶ谷霊園の事を思い出したんです。でも雑司ヶ谷霊園をそういう事に使うのは嫌だなあって思ったんです。

 雑司ヶ谷霊園ってすごく素敵なんです。全く縁もゆかりもない人間がこんな事言っても、他人事みたいに感じるとは思うんですが、あと素敵とかって言うと誤解がされるかもしれないんですけども。

 パンパンでメンタル的に危なかった私が雑司ヶ谷霊園に行った時、木々の合間、陽光に照らされる雑司ヶ谷霊園の御墓の群れ。朝。人もまだいない。静かで。すごく荘厳で。それはもう、叙情的で。

 他の御墓、霊園、墓所がどういう感じなのかは知らないけど、でも、ここに眠ってる人達はみんな安らかだろうな。そうであってほしいなあ。ってそう思ったんです。

 だから、雑司ヶ谷霊園をそういう事に使うのは嫌だなあって、雑司ヶ谷霊園にお化けが出たとか、そういうのは嫌だなって。そういうのは無いなあって。あってほしくないなあって。

 そう思ったんですけど、でもそう考えたらそう考えたで、逆に今度は、

「もしそうなら、じゃあ、穏やかな、話が通じる方がいらっしゃるかもしれない」

 って。

 思って。

 雑司ヶ谷霊園には。

「あの、すいません。夏の間だけでいいんですけども、私の部屋に来てもらえませんか」

 って。

「御墓掃除しますから。お供え物とかもします。ベローチェのコーヒーとか(東通りの途中にある)」

 って。

 思って。

 そう思うと、一回そう思うと、もうなんというかなあ。それが正解みたいな。そんな心持ち。それが天啓みたいな。そういう気持ちになってきて。

「雑司ヶ谷霊園はあんなに素敵で荘厳で、叙情的な場所なんだから、そこに眠ってる人達はみんな穏やかに違いない。話が出来る人もいるに違いない。みんな先進的で、私の考え、提案を罰当たりだと思う人もいないに違いない」

 って。その考え自体がもう私の勝手な妄想だったんですけども。

 でも、それでとりあえず行ったんです。一回。まあ、そもそも駄目で元々だったし。

 で、でも、それで来てくれたのが、藤沢家の皆さんです。

 雑司ヶ谷霊園のベンチに座ってたら、向こうから私の所に来てくれて。

 それで、試しに自分の考えた事を話してみたら、

「そうなんだ。別にいいよ」

 って。

 それで、藤沢家の皆さんが交代交代で。毎日、家に来てくれて、居ます。

 今も居ます。

 だからクーラーを付けなくても快適です。肌もサラッサラ。外は相変わらず、死ぬと思えるほど暑いのですが、家に帰ると、それはもう快適です。あんまり快適快適って言うと、怒られそうだからあれですけども。

 私は、一週間に一度、土曜日。御墓の掃除とお供えをするために、雑司ヶ谷霊園に通っています。

 藤沢家の皆さんにはとても感謝しています。

 ただ、首と肩は重い。

 まあ、冷房浴びすぎても、首と肩は重くなるからね。

 そう思えばまあ、いいかなって。



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― 新着の感想 ―
[良い点] 幽霊、来てくれましたのね。藤沢家の皆・・・(¬_¬)。 首が重いということは、まとわり憑かれているのですね。生気吸われるので幽霊、冷房代わりにするのは危険ですわね┐('~`;)┌ 主人…
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