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ブレイキング・クリスタル ─光と闇の呪宝戦記─  作者: ジュン・ガリアーノ
cys-2 波乱と激闘のギルド検定試験
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ep:9 ディラード達の崩壊とロウの慧眼

「剣聖アルカナート様と同じなのだ……奴が放ったあの光は……」

「な、なんですって?!」


 ディラードがあまりの驚愕に目を見開く中、母親も驚愕を禁じ得ない顔をしている。


「アナタ、本当なの?! アルカナート様と言えば、この国の伝説の英雄じゃない!」

「そうだ。私も元冒険者の端くれ。見間違うハズが無いのだ。全冒険者の憧れだった、あの方の光を!!」


 それを聞いたディラードは、あまりにも大きな怒りと恐れでガタガタと全身を震わせた。

 自らの醜いプライドに、ピシピシと大きな亀裂が走っていく崩壊の音が聞こえてくるようだ。


「あ……あっ……ウ、ウソだ。そんな事……そんな事ある訳がないっ!!!」


 ディラードが全身に汗をかきながら叫ぶ中、両親はドサッとその場に両膝を着いた。

 そして、絶望に染まった顔で天を仰いでいる。


「な、な、なんという事だ……まさか、奴があの光を持っていたとは……」

「ウ、ウソよ……だったら私達は……」

「そうだ……俺達は逃してしまったのだ……いや、自ら切り捨ててしまった……勇者になるべき男を!!!」


 父親がそう断言した瞬間、母親は悲鳴を上げた。


「いや……いやよ……いやぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」


 無論、父親も同じだ。


「うおーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」


 醜い後悔からくる二人の叫びが、広間一帯に広がってゆく。

 ディラードはそれを怒りと蔑みに満ちた眼差しで見下ろすと、二人にクルッと背を向け睨みつけた。

 楽しそうに話しながら歩いている、ノーティスとルミの事を。


───お前ら……絶対に、絶対に許さないっ!! ノーティス、お前は地べたで這いつくばって俺を見上げるべきなんだ……!!


 ディラードの全身から、歪んだ想いに満ちたドス黒いオーラが溢れ出していた。


◆◆◆


───ハァッ、受かるかなぁ……


 ノーティスは筆記試験の部屋で少し緊張している。

 大学の講堂のような場所に、大勢の受験者達が真剣な顔で座っているからだ。

 こういう時は、自分以外のみんなが凄く優秀に見えてしまう。

 しかも、今日の試験官は特別に王宮魔道士である『アルカディア・ロウ』が担当。

 ロウは、若くしてここまで登り詰めた天才軍師。

 ちなみに、額の魔力クリスタルはエメラルドグリーン色だ。

 そんな彼は、緑色の魔導衣を(まと)った姿で両手を教壇についている。

 

「まぁ、今日は担当が病欠で急遽僕が受け持つ事になったけど、試験の内容は変わらないから安心してくれ」


 サラッと流れる前髪の奥から周りを見渡しロウが試験開始の合図をすると、皆一斉に問題を解き始めた。

 用紙をめくるカサカサッという音が、講堂内に静かに響く。

 また、皆顔をしかめ取り組んでいる。

 合格率1%の試験だけあり、内容は高度極まっているからだ。

 しかしそんな中、ノーティスは別の意味で困惑した顔を浮かべていた。


───これ、俺のだけ間違ってるよな……簡単すぎるもん。


 けど、間違ってはいなかった。

 言ってみればアルカナートから受けた座学が超一流大学以上の内容だったので、ノーティスにとってこの試験内容は高校受験レベルにしか感じなかったのだ。

 しかし、ノーティスはそんな事は全く思わず、首を傾げながらサラサラと問題を解いてゆく。


───どうしよう。もう終わったんだけど、当たり前だよな………あぁ、再試験受けれるのかなぁ……


 そう思い片手で不安そうに頬杖をついていると、ロウがそれに気づき近寄ってきた。


「キミ、どうした。具合でも悪いのか?」

「あっ、いえ、もう終わっちゃったんで……」

「おいおい、まだ開始10分だぞ」

「あのっ、俺に配られた問題間違ってるみたいで……」

「なんだと!」


 ロウは慌ててノーティスの問題用紙と解答用紙をバッと手に取り、ジッと見つめた。

 もしその通りなら大失態だからだ。


───やってしまったか……


 そう思いチェックしていくと、ロウは別の意味で目を見開いた。


「フム、これは驚きだな……」

「ですよね……あの、再試験を」

「いや、必要ない」

「えっ?」

「問題用紙は合っている。そして……満点だ!」


 ロウがそう言った時、会場は一瞬でザワついた。

 もちろん互いに話したりはしてないが、皆驚愕した顔を浮かべている。

 こんなの、ありえないからだ。


「キミ、名前は?」

「エデン・ノーティスです」

「フム……ノーティスか、覚えておくよ。ちなみに、どこでこんなに勉強した?」

「えっ?」

「僕が知る限り、この試験に満点で合格したのは、僕とキミを除けば二人しか知らない……もしかしてキミは……」


 ロウの慧眼な瞳が光に揺れる。

 ノーティスの師匠が、あのアルカナートである事を直感的に分かったのだ。

 ただその瞬間、ガタッ! と、席から立ち上った男がいた。


「インチキだっ! そいつが満点なんてありえないっ!!」


 それはあのディラードだ。

 怒りにまみれた歪んだ顔で、こちらに向かい身を乗り出している。


「そいつは学校を退学させられた奴だぞ! 奴は……ここに来る資格なんて無いんだっ!!」


 もちろん、試験中にこんな事をしたら即失格だ。

 けれど、それすら忘れてしまうほどディラードは怒りを爆発させている。

 ロウはそんなディラードをチラッと一瞥(いちべつ)すると、ノーティスに静かに問いかけてゆく。


「彼の言った事は本当なのか」

「はい。インチキはしてませんけど、学校を退学させられたのは本当です……」

「そうか。しかし、キミのような者がなぜ? 僕が見た限り退学させられるような事をするようには……」


 ロウがそこまで言った時、ノーティスは前髪を片手でサッとかき上げた。


「それは……!」


 ハッとした顔を浮かべたロウを、ノーティスは静かに見つめている。


「俺は無色の魔力クリスタルだから浄化されそうになって……でもその後……」


 ノーティスは思わず言葉を詰まらせた。

 ここでアルカナートに救ってもらった事を話せば、敬愛する師匠との約束を破ってしまうと思ったからだ。

 しかし、同時に脳裏によぎる。

 師匠であるアルカナートから言われた事が。


『いいかノーティス、お前は必ず勇者になれ。力だけでなく、その立場がより多くの奴を救えるようになるからだ』


 それを思い出したノーティスは一瞬瞳を閉じ、ロウを真っ直ぐ見つめた。

 皆から、おぞましいものを見るような眼差しを向けられているが関係ない。


「けれど、今は光ります……!」


 そう言い放つと同時に、ノーティスは額の魔力クリスタルをほんのわずかに光らせた。

 けれど、ロウにとってはそれで充分だった。


───間違いない! 彼は……!


 ロウはあまりの興奮にドキドキするのを抑えながら、冷静な顔で皆の方へ振り向いた。


「昔はどうであれ、彼はもはや浄化の対象ではない! この試験に満点で合格した素晴らしき冒険者の卵だ!」

 

 その言葉を聞いた皆は、軽く笑みを浮かべ再び試験に取り掛かってゆく。

 ディラードは、そんな中ただ一人で立ち尽くしたままだ。

 ロウはそれを満足気に見つめると、ディラードをサッと見据えた。


「さて、インチキでは無いと判明したが、この落とし前をキミはどうつけるつもりだ」


 精悍な瞳に見据えられ、ディラードはガタガタと震えている。

 王宮魔道士に向かってあんな事を言ってしまった以上、タダでは済まないのを分かっているからだ。

 ノーティスはそんなディラードが可哀想になり、ロウに訴えるような眼差しを向けた。


「あのっ……! 彼を責めないで下さい」

「なんだと?」

「彼が無礼をしたのは俺が謝ります」

「なぜキミが……」


 謎めいた顔を浮かべたロウに向かい、ノーティスはサッと身を乗り出した。


「アイツは、ディラードは……俺の弟だからっ!」

「なっ……!」


 ロウは目を大きく見開きノーティスを見つめている。

 

「彼がキミの弟だと?!」

「はい。訳あって離れちゃったけど、やっぱり……俺の大切な弟なんです! だから……許して、ください」


 必死な顔で訴えてくるノーティスを、ロウはジッと見つめフウッ……と、ため息を吐き微笑んだ。


「分かったよノーティス。彼は不問にする」

「あ、ありがとうございます!」

「だが……」


 ロウはディラードの方をスッと向いた。

 王宮魔道士であり聡明な天才魔導軍師でもあるロウは、これまでのやり取りでディラードがノーティスに何をしてきたのかを全て見抜いだのだ。


「ディラードよ。ここにいる資格が無いのは、キミの方じゃないのか」

「な、なにを!」

「兄弟であるにも関わらず、愛の欠片もない愚かな言動。キミはここに相応しいとは、お世辞にもいえない」

「うぐっ……! あっ……ああっ……」


 顔面蒼白の状態でディラードは震えている。

 だがロウは許さない。

 精悍な眼差しで見据えたまま、ディラードに向かい魔導の杖をビュッ! と、振り向けた。

 ロウの瞳がキラリと光る。


「だが、キミの名前は覚えておくよ。偉大なるエデン・ノーティスの愚弟、エデン・ディラードとして……!」


 ロウがそう言い放った瞬間、ディラードはその場にドサッと両膝をつき両手で頭を抱えた。


「うううっ、うわあああああああああああっ!!!!!」


 ディラードの醜いプライドが粉々に砕け散り、醜く悲壮な叫び声が構内に響き渡る。

 そんなディラードをノーティスは静かに見つめた。


「ディラード……」


 すると、ノーティスの肩にロウが斜め前からポンと片手を乗せた。


「彼が……ディラードがここからどう立ち上がるかは、彼次第だ。ノーティス、かつてキミがそうであったように」

「はい……」


 分かってはいても哀しみの拭いきれないノーティスに、ロウは優しく微笑んだ。


「先に出て休憩室で待っててくれ。後で、キミに話がある」

「分かりました……」


 ノーティスはそう答えるとロウに会釈をし、サッと背を向け出口に向かって歩いてゆく。

 揺れる背中のマントからは、哀しみが零れていた。

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