ep:70 ブレイキング・クリスタル
「クルフォス、テメェ!」
アルカナートは怒声と共にクルフォス睨みつけた。
仲間であり親友であったクリザリッドの死を、クルフォスが侮辱したからだ。
これだけは決して許せない。
激しい怒りが一気に湧き上がってくる。
だがその瞬間、クルフォスはアルカナート達に向かい強烈な闇の力を放った。
「余を裏切った愚かな男と共に、消え去るがいい!!」
闇のエネルギー波がアルカナート達を照らしながらバリバリバリッ!! と、襲いかかる。
凄まじいエネルギー波が迫ってくるが、アルカナートは避けようとはしない。
「なめんなっ!!」
アルカナートは燃え滾る怒と共に、光の剣で闇のエネルギー波を素早く斬り裂き皆を守った。
だが、この攻撃はクルフォスの囮。
クルフォスはこの瞬間に、強力な闇の結界を作り上げていたのだ。
もちろんアルカナートはそれをすぐに壊そうとしたが、なぜか傷一つ付かない。
闇の結界は黒く半透明な薄い壁であるにも関わらずだ。
「チッ、うざってぇ! どうなってやがる!!」
ギリッと顔をしかめているアルカナートを、クルフォスは蔑みながら見下ろした。
「クククッ……ムダだアルカナート。この闇のゲートが閉じるまでこの結界は壊せぬ……!」
「なんだと?!」
「この結界は、闇のゲートから溢れ出す闇の力で時の流れを止めているのだからな」
「くっ! ざけやがって!! こんなもん張りやがって、テメェどういうつもりだ!」
歯を食いしばり怒りを滾らせているが、アルカナートは同時に分かっていた。
時の流れが止まっている以上、この結界にはどんな攻撃も効かないのだ。
悔しさに怒りを滾らすアルカナートを、クルフォスは蔑みながら見据えている。
「余はの闇のゲートからここを出る。お前達の相手をこれ以上するのは、余の望む所ではない」
「なんだとクルフォス! テメェここから逃げんのかよ! んな事させっか!」
アルカナートはありったけの力を結界に叩きつけた。
しかしやはりビクともしない。
いかなアルカナートでも、時の流れが止まっている物を破壊する事は不可能なのだ。
このままでは、追いつめたクルフォスを逃がしてしまう。
それがアルカナート達は悔しくて堪らない。
そんな想いを滾らす皆にクルフォスは嗤いながら告げる。
「仮に結界を壊せたとしてもムダだ。闇の力を持たぬ者がこのゲートに入れば、確実に死ぬのだからな! クックックッ……」
「この、ド外道が……!!」
けれど、アルカナートは怒りをグッと収めクルフォスを真っ直ぐ見上げた。
「フンッ……けど、ここで逃げれば、その間に俺達が国中の奴らに真実を知らせてやる。どちらにしろクルフォス、テメェは終わりなんだよ!」
これは確かにアルカナートの言う通りだ。
ここで逃げて再起を図ろうにも、全てが露見した今となっては不可能だろう。
だが、なぜかクルフォスは動じない。
アルカナート達を見据えたままニヤリと不気味に嗤った。
その邪悪な笑みが、アルカナート達の心をザワつかせてゆく。
「何がおかしい!」
「アルカナートよ。お前達の事など、誰も信じはしない。この先にある『カオス・クリスタル』を使い、余が民共の記憶に植え付けるのだからな。偽りの記憶を」
「なっ?! カオス・クリスタルと偽りの記憶だと?!」
あまりの話に体を硬直させたアルカナート達を、クルフォスはニヤリと嗤い見据えている。
「無論、記憶操作はお前達程の魔力を持つ者なら耐えられよう。だが他の者達はそうはいかぬ」
「まさかテメェ……!」
「そうだ……お前達は、余がカオス・クリスタルにより創り出す記憶によって、民達にとって悪魔とみなされるようになるのだ」
これまでカオス・クリスタルは国民全員の魔力クリスタルを通じて、魔力をほんの少しずつ奪っていた。
そして皮肉にも、ここでの激しい戦いによりエネルギーが満ち完成したのだ。
神に匹敵する力を持つカオス・クリスタルが……!
教皇であるクルフォスは、それを自由に操る事が出来る。
その事実と野望を知ったアルカナートは、身を乗り出して怒鳴りつけた。
「ふざけんなクルフォス!!」
だがクルフォスは動じない。
邪悪で勝ち誇った笑みを浮かべている。
「クククッ……忌み嫌われ殺されるがいい。自分達が守ろうとした者達の手によってな。哀れな光の戦士達よ……ハーッハッハッハッ!!!」
まさに悪魔のような所業を行おうとしているクルフォスから、最低最悪の嗤い声が響き渡った。
クルフォスは勝ち誇り、それをアルカナート達は場を食いしばって睨んでいる。
分かっているのだ。
ここまで追い詰めはしたが、もうどうしようも出来ない事を。
「ざけやがって……!」
「アルカナート……」
「こんな結末、美しくないわ……!」
「なんでだよチクショウ!」
「無念だ……!」
「ニャハァ……」
「こんなの、こんなのあんまりだよ!」
「どこまで卑劣なの……!」
そんな皆を嘲笑いながら両手を斜め下に広げ、クルフォスは闇のゲートに向かいゆっくりと浮かび上がってゆく。
その姿を見上げる皆の心に、激しい怒りと絶望が広がった。
このゲートから逃げられてしまえば、もはや打つ手はないからだ。
カオス・クリスタルを操作されて、クルフォスの告げてきた通りにされてしまうだろう。
けれど、その時だった。
アルカナート達に立ち憚る闇の結界の向こう側から、決意のこもった精悍な声が聞こえてきたのだ。
「クルフォス、そんな事は絶対にさせない……!」
その声が、邪悪と悲しみに満ちた教皇の間を一筋の閃光のように貫いた。
そしてクルフォスの心を貫く。
「なっ? バ、バカなっ!!」
クルフォスは途轍もない驚きと恐怖を浮かべた顔でバッと振り向き、宙から見下ろした。
「エデン・ノーティス! なぜここにっ?!!」
もちろん、アルカナート達も同じだ。
なぜそこにいるのか分からず、皆驚愕と謎めいた顔でノーティスを見つめている。
その眼差しを受ける中、ノーティスはアルカナート達の方へ真摯な眼差しを向けた。
「師匠、すいません。なんか胸騒ぎがして、結界が張られる瞬間にこっちに飛び出したんです」
「ノーティス、お前……」
アルカナートは震えるように見つめている。
決意と覚悟を決め、あまりにも澄んだ瞳をしているノーティスの事を。
その瞳が、これから何をしようとしているのかを伝えてきているのだ。
もちろん、皆もアルカナートと同じく声も出ない。
けれど、その中で唯一ルミだけは違う。
涙を迸らせながら、両手を結界に押し当てた。
「ノーティス様っ!!! なにを、なにをなさるおつもりなんですかっ!!!」
ルミは気が狂いそうになるぐらい、涙を迸らせと声を張り上げている。
あまりの辛さに心も魂も引き裂けそうだ。
ノーティスはそんなルミを澄んだ優しい瞳で見つめると、片手を結界の壁にスッと当てた。
そして、向こう側にいるルミの手に想いを乗せた手を壁越しに重ね合わせる。
「ルミ、ごめんな。奴を……クルフォスを倒してカオス・クリスタルを破壊する為には、こうするしかないんだ」
「うううっっっっイヤです!!! そんなの絶対にイヤですっ!!!!!」
「……紅茶、一緒に飲めなくて、ごめん」
「許しません!!! うううっっっっ!!! ぜったいぜったい許しませんっ!!!!! 行かないでくださいノーティス様っ!!!!!」
狂い泣くルミを見つめたまま、ノーティスは優しく微笑んだ。
「ごめんなルミ。本当にいっぱい……」
ノーティスの瞳に思わず涙がジワッと浮かぶ。
これまで過ごしてきたかけがえのない日々が、鮮明に心の中を巡るからだ。
けれど、だからこそノーティスは涙を浮かべたまま思いっきり笑った。
愛するルミに笑顔を残しておく為に。
「ありがとう!!!」
ノーティスは思いっきりそう告げると、ルミにサッと背を向けてクルフォスをキッと睨み上げた。
全身に纏う白輝の光が最高潮に輝いてゆく。
「クルフォス! お前の野望は俺の光で必ず止める!!」
決意の咆哮と共にクルフォスを強く見据えたまま、ノーティスは剣を突きの形にジャキッと構えた。
かつてノーティス自身が、初めて光り輝いた時に目にした技の構えだ。
その輝く全身と決意のこもった眼差しから、クルフォスにビリビリと伝わってくる。
ノーティスの魂が放つ全身全霊の想いが。
「バカなっ! 闇のゲートに入ればお前は確実に死ぬのだぞ!!」
「覚悟の上さ! 師匠を……セイラを……アネーシャと大切なみんなを……そして、ルミを守れるなら俺は構わないっ!!」
ノーティスは光輝く姿のまま、クルフォスに剣先を突き立て飛び向かった。
「おおおおおおおっ!! これが俺の……みんなと歩んできた光だ!!! 『エッジ・スラーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーシュ』!!!!!」
一筋の閃光と化したノーティスは、光の剣をクルフォスに突き立てたまま一気に突き進んでゆく。
「クルフォス!! みんなの未来を守る為に、お前の闇は俺が斬り裂く!!!」
「バ、バカなーーーーーーーーーーーーっ!!!」
血走らせた目を見開きクルフォスが叫ぶ中、ノーティスの脳裏にルミの顔が一瞬よぎる。
───私は、ノーティス様の……
その瞬間、ノーティスが突き出した光の剣先がクルフォスを捉えた。
凄まじい閃光が闇のゲートの入口から溢れるように輝く。
そしてノーティスは、そのまま闇のゲートの中へクルフォスと共に消えていった。
皆が声も出せずに見つめる中、まるで夜空を翔ける流星のように……!
闇のゲートはその直後に跡形もなく消滅し、残されたみんなを耐えようもない静寂が包みこんでゆく。
誰も、一言も発しない。
いや、誰も発する事が出来ないのだ。
そんな中、ルミはまるで操り人形が糸の切れたかのように、その場に両膝からガクッと崩れ落ちた。
「あぁぁぁぁっ……」
ルミの瞳は魂が抜けているかのように、灰色の絶望に染まっている。
けれど、その灰色を拭おうとするかの様に、ルミの心にノーティスの最後の笑顔が浮かぶ。
それが灰色の絶望を拭うと同時に瞳から溢れ出す。
あまりに深く、悲しく、美しい涙が。
「うっ……うぅぅぅぅぅっっっっ……ノーティス様……ノーティス様……ノーティスさまぁーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!!!!」
止まる事の無いルミの涙と泣き声が、みんなの心の中に冷たい雨のように降り注いでいった……
次が、最終回です




