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ブレイキング・クリスタル ─光と闇の呪宝戦記─  作者: ジュン・ガリアーノ
cys:6 最終決戦! 教皇の間で激突する光と闇
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ep:68 剣よりも強いアルカナートの意志

「ぐはあっ! アルカナート、キサマぁぁっ……!!」


 ノーティス達がクリザリッドを倒した頃、アルカナートもクルフォスを倒していた。

 心の中でナターシャとの邂逅を果たしてさらなる高みに達した今のアルカナートにとって、クルフォスは敵ではなかったのだ。


「フンッ、クルフォス。いくらテメェでも、俺とまともにやり合って勝てる訳ねぇだろ」

「うぐっ……くっ!」


 クルフォスは怒りに顔を苦しくしかめ、壁に背をついたまま倒れている。

 ただ、クルフォスにはどうしても分からなかった。

 なぜ『ソウル・フィラキス』が破られたのかが。


「ううっ……お前は心の中で殺せたというのか?! 愛するナターシャを!!」


 クルフォスには未だに信じられない。

 ノーティスの共振により精神への回路が開かれたとしても、心の扉を守るナターシャをアルカナートが殺せるハズが無いと思っていたからだ。

 たとえそれが、心の幻想と気付いていたとしても。


「アルカナートよ、お前程の者が……あ、ありえぬのだっ……!」

「知るかよ、んな事……」


 アルカナートは横を向いて、気だるそうに剣の汚れを布で拭いている。

 誰にどう思われようと関係ない。

 気に入らない事は決して受け入れず、どこまでも己の道を進むのがアルカナートの流儀だからだ。

 そこに、クリザリッドを倒したノーティス達が駆けつけて来た。


「師匠! ご無事で……!」


 ノーティス達は嬉しそうに笑みを浮かべてアルカナートを見つめている。

 この光景を一目見て、アルカナートがクルフォスに勝利した事が分かるからだ。

 アルカナートを中心に皆、輪のように集まり安堵の空気が流れている。

 それを見たクルフォスは、ニヤリと邪悪な笑みを浮かべた。


「だがアルカナートよ、お前はその弟子達を守る為に大切な者を失ったのだ! ナターシャというお前の愛した女をな!」


 クルフォスは、アルカナートとノーティス達の事を邪悪な笑みを浮かべて見つめている。


「クックックッ……だが、思い出す事は出来まい。キサマに残るのは、大切な者を斬ったという罪悪感と喪失感のみだ」


 それを聞いたノーティス達は、クルフォスを睨みながら怒りにギリッと顔をしかめた。

 今のは初耳だったからだ。

 目覚めれば全てを忘れるだけだと思っていた。


「なんだって?! ぐっ……! ただ忘れるだけじゃなく、それは師匠に残るなんて……!」


 また、ルミとレイとメティアは激しい軽蔑と怒りに涙を浮かべている。


「そんなの酷すぎますっ……!」

「ホント、最低ね……!」

「うぅっ……酷すぎるよ……!」


 また、ジークは同じ男として許せないという雰囲気で怒りを滾らせた。


「この野郎、どこまでクソ野郎なんだよっ……!」


 その中でアネーシャは涙は浮かべていないが、失望した顔をしている。

 激しく憎んできた敵国の統治者の、あまりに下卑た精神を目の当たりにしたからだ。


「スマート・ミレニアムの教皇って、ここまで下品だったのね」


 そんな皆を見て、クルフォスはニヤリと嗤った。

 その罪悪感と喪失感を利用し、アルカナートの戦意を散らせるからだ。

 クルフォスは未だ勝利を諦めてはいない。

 虎視眈々と、その機会を探っている。

 だがアルカナートは表情を変えない。

 ぶっきらぼうにクルフォスを見下ろしたままだ。


「罪悪感? 喪失感? クルフォス、テメェ何を言ってんだ」

「クククッ……無理をするなアルカナート。キサマの罪悪感と喪失感は、この先二度と消える事は無い。ナターシャの事は永久に思い出せないままな」


 クルフォスがそう告げた時、アルカナートはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。


「フンッ、舐めるなよクルフォス。俺が忘れる訳ねぇだろ。ナターシャの事を……!」

「な、なんだと?! なぜ貴様がナターシャの事を覚えている!!」


 クルフォスは目を見開き激しく動揺している。

 こんな事はありえないからだ。

 禁呪から目覚める為に心の中で相手を斬ってしまえば、相手の事は二度と思い出せなくなる。

 ソウル・フィラキスとはそういう技に他ならない。

 そこから目覚めここにいるという事は、ナターシャの事を心で斬る以外に無かったハズ。


「こんな事はありえぬ!」


 無論、ノーティス達も驚愕を隠せない。

 共に謎めいた顔を浮かべ、アルカナートを見つめている。

 皆からそんな風に見つめられる中、アルカナートは剣の峰を肩にポンと置いた。

 そしてニヤリと笑う。


「簡単な事だ。斬ってねぇからさ」


 その言葉にノーティス達は勿論の事、クルフォスも大きく目を見開いた。


「斬っていないだとっ?! 斬らなければ、目覚める事は決して出来ぬハズだ!」

「フンッ、それはテメェのルールだろうが。そんな仕掛け、俺には関係ねぇんだよ」

「な、ならば、一体どうやって……!」


 クルフォスは驚愕に目を見開いている。

 アルカナートが嘘を言っていない事は分かっているが、その方法がどうしても分からない。

 まるでクルフォスの方が悪夢の中にいるように感じてしまう。

 そんなクルフォスを見据えたまま、アルカナートは再びニヤリと笑みを浮かべた。


「抱きしめたのさ。斬る代わりにな」

「バ、バカな! ありえぬ! そんなやり方で我が禁忌の術を破るとは……!」

「そんなやり方? ったく、分かってねぇなクルフォス」

「なんだと……!」


 たじろいでいるクルフォスを、アルカナートは強く見据えている。


「斬るよりも、抱きしめる方が強ぇんだよ」

「ぐっ……!」


 怒りに身体を震わせているクルフォスを前に、アルカナートはカッと瞳に力を込めた。


「禁忌の術だろうが、俺の意志は誰にも邪魔させねぇ!」


 アルカナートのその言葉が広間に響き渡った。

 昔から決して変わらぬその精神(いし)を、皆にハッキリと示すかのようだ。

 その言葉と佇まいに、皆は感嘆のため息を漏らしている。

 またノーティスは、先程ロウが言っていた言葉を思い出して微笑んだ。


「ロウ、アナタの言った通り師匠は最高の答えを選んだみたいだ」

「あぁ、僕はどこまでもアルカナート(せんせい)を信じてる」


 ロウも誇らしそうに笑みを浮かべている。

 そんな中、アルカナートはノーティスの事をスッと見つめた。


「まっ……とは言っても、このバカ弟子の共振が無けりゃ厳しかったけどな」

「師匠っ……!」

「フンッ、礼を言うぜノーティス。よくやった」

「いや師匠、俺はただ必死にやっただけで……」


 ノーティスは、思わず少し照れながら軽くうつむいてしまった。

 アルカナートから面と向かって褒められた事は、これまでほとんど無かったからだ。

 また、みんなの想いでアルカナートを目醒めさせられた事が嬉しかった。

 そんなノーティスを見つめたまま、アルカナートは軽く微笑んだ。


「ったく、せっかく褒めてんだから胸を張れ。いつぞや言ったように、ノーティス……お前が俺の後継者だ」

「師匠、ありがとう……ございます!」


 ノーティスは心からアルカナートに礼を告げた。

 瞳に宿る精悍な光が揺らめいている。

 それを見つめたアルカナートはニッと笑みを浮かべると、再びクルフォスの方へ振り向いた。

 ノーティスに向けたのとは違い、厳しい眼差しで見下ろしている。

 もちろんノーティス達も同じだ。

 壁に背をつけ倒れているクルフォスを、厳しい眼差しでジッと見据えた。

 

「さあ、どうする。もうアナタに勝ち目はない! ユグドラシル共有をするか、ここで終わるか……選べっ! クルフォス!!」

「フフッ♪ ノーティスの言う通りよ。これ以上認めないのは、あまりにも美しくないわ」

「そーだぜ。いい加減負け認めちまいな」

「僕もその方がいいと思う。それが教皇として、貴方の最後の務めだ」

「ニャハハッ♪ 幕引きは綺麗にせんとニャ」

「クルフォス、ちゃんと罪を償おう。そしたらきっといつかみんな許してくれるよ」

「そーそーメティアちゃんの言う通りよっ♪ ちゃーーんと罪償ったら私がおいしーーーーーいコスモティー淹れてあげるからさっ♪」

「私は見せてもらいたいの。シドが望んだ未来を……!」


 皆が想いをぶつけてゆく中、ルミがスッと前に歩み出た。

 他の皆とは違い憐れむような眼差しでクルフォスを見つけている。


「クルフォスさん、あの、一つ思うんですけど……そこまでして……永遠の命まで手に入れて、本当は何がしたかったんですか?」


 ルミの問いかけにクルフォスはピクッと反応した。

 核心を突かれたからだ。


「……さすがは光の巫女クナーティアだな。だが、答える気はない」


 哀しい眼差しで見上げてきたクルフォスを、ルミは静かに見下ろしている。

 その眼差しは、まるでクルフォスの哀しみを愛で包もうとする物のようだ。

 しかし、クルフォスはそれ以上何も答えずにサッと斜め下を向いた。

 恐らくそれがクルフォスの最後の矜持なのだろう。

 きっと、自分の命がなくなるとしても言わないに違いない。

 それを感じ心を痛めたルミは哀しそうに零す。


「クルフォスさん……」


 ルミは哀しそうに見つめている。

 そんなルミの肩に、横からノーティスが片手をポンと置いて微笑んだ。


「ルミ、ここまでありがとう」

「ノーティス様っ……!」

「ここまで来れたのはルミのお陰だよ。ありがとう」

「い、いえ。私なんて全然……!」

「いや、ルミのお陰さ」


 ノーティスがそう告げる中、みんな凛とした表情でルミとノーティスと見つめている。

 ようやく全てが終わったのだ。

 後はノーティスとルミの幸せを祈るのみ。

 二人を祝福する温かい空気が、その場に満ちてゆく。

 だが、その時だった。

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