ep:67 闇を斬り裂くノーティス達の輝き
「なっ?! アルカナート、キサマどうやって……?!!」
クルフォスは怒りと驚愕に身を乗り出したまま、額からツーっと汗を流して固まっている。
アルカナートが今した行動と目を見れば、一発で分かるからだ。
禁忌の術『ソウル・フィラキス』が破られたことが。
「アルカナートよ、お前は心の中で殺せたというのか?! 愛するナターシャを!!」
「フンッ……」
アルカナートは、ウザったそうにクルフォスを軽く見据えた。
「ったく、なーにビビってんだよ」
「ううっ……!」
クルフォスには信じられなかったのだ。
ノーティスの魔力共振により精神への回路が開かれたとしても、目覚める為には心の扉を守るナターシャを殺すしかない。
クルフォスは、アルカナートがそのナターシャを殺せるハズが無いと思っていた。
たとえそれが、心の幻想と気付いていたとしても。
「あ、ありえぬっ……!」
そんなクルフォスをよそに、アルカナートはノーティスをスッと見下ろした。
その瞳は先ほどまでの悪鬼のような物ではないが、アルカナートらしい広大不遜な物には違いない。
「ノーティス、テメェの大切な女ぐらい自分で守りやがれ」
「すいません師匠……」
ノーティスは片手で膝を押さえながらググッと立ち上がると、アルカナートにバッと頭を下げた。
「でも、ありがとうございます!」
前髪をサラッと下に零したまま、ノーティスは心からの想いで頭を下げている。
アルカナートがルミを救ってくれた事も、禁呪から目醒めてくれた事も本当に嬉しいのだ。
ノーティスの全身からは感謝の気持ちが溢れ出ている。
そんなノーティスを見下ろしながら、アルカナートは二ッと笑みを浮かべた。
「フンッ……ただ、お前の魔力共振は褒めてやる。一瞬とはいえ、俺と同じレベルまで白輝の魔力を高めたんだからな」
「師匠っ……!」
ノーティスはバッと顔を上げ、嬉しさに目を大きく開いた。
アルカナートが今間違いなく、自分を認めてくれたからだ。
昔から厳しい修行を受けてきたノーティスにとって、これは何物にも変えられない喜び。
だがそんなノーティスを、アルカナートはジトーっと見ながら軽く呟いている。
「いや、同じレベルってのは言い過ぎか……俺がクルフォスに封じられて完全な全力までは出せなかったから、よく見ても九割。いや、八割強ぐらいが妥当だよな……てか、そもそも……」
「し、師匠……?」
ノーティスがホケーっと見つめていると、アルカナートは再びニッと笑みを浮かべ、艶のある眼差しで見下ろしてきた。
初めて会ったあの日のように。
「まっ、詳しい話は後だ。俺はクルフォスをやる。ノーティス、お前はアイツらと一緒にクリザリッドの野郎を倒しやがれ」
「……はいっ! 師匠!」
ノーティスは嬉しそうに答えた。
アルカナートが目覚めてくれた事もそうだし、共に強大な敵に立ち向かうのは初めてだからだ。
昔から敬愛する自分の師と肩を並べて戦える日がくるなんて、考えた事も無かった。
嫌でも気持ちが昂り全身に力が漲ってくる。
クルフォスとクリザリッドの強さは充分に分かっているが、正直もう負ける気はしない。
その姿を、ルミは切なそうに見上げている。
「ノーティス様……!」
「ルミ、無事で本当によかった。師匠にもちゃんと礼を言っといてくれ」
「はいっ……! ただノーティス様、紅茶の約束……覚えていますよね」
涙目のルミにノーティスはニコッと微笑んだ。
「当たり前だろルミ。俺は、その為に戦ってるんだからさ。必ず帰って一緒に紅茶を飲もう」
「……分かりました。お待ちしてますからね!」
涙目で見つめたルミに、ノーティスはコクンと頷き振り返った。
背中のマントがバサッと靡く。
その背中を、ルミは妙な胸騒ぎを感じならがら見つめていた。
アルカナートも復活しみんなの力も上がった今、ノーティスが負けるとは思えない。
けど、何か嫌な予感がしてしまうのだ。
───もしかしてもう、このまま二度とノーティス様には……!
ルミの切ない眼差しを、ノーティスは背にヒシヒシと感じている。
けれど、敢えて振り返らない。
今度ルミを見つめる時は、共に帰る時だと心に決めているからだ。
なのでそのまま皆の所へ戻り、クリザリッドをキッと睨みつけた。
精悍で澄んだ瞳がキラリと光る。
「クリザリッド、俺はこの戦いで必ずお前の闇を斬り裂いてみせる!」
ノーティスは額の前に、両手で剣先を右斜め上に向けてジャキッと構えた。
その姿と眼光は、まるでアルカナートのようだ。
全身から最強勇者としてのオーラが立ち昇っている。
クリザリッドはそれを目の当たりにし、ギリッと顔をしかめた。
「エデン・ノーティス……キサマ如きが頭に乗るな!」
その怒声が教皇の間に響きわたる。
けれどノーティスは怯まない。
クリザリッドに向かい剣を構え、ここまでの事を心に巡らせながら皆に告げてゆく。
「レイ、今こそ見せてくれ。キミの最高級の美しさを……!」
「フフッ♪ 当然でしょ。アナタの前でなら、どこまでも美しく輝いてみせるわ……!」
「ジーク、キミのありったけの力が必要だ」
「へっ、とーぜんだろ! やってやらぁ!」
「ロウ、この試験合格させてほしい」
「フム、あの時のように満点で合格して貰うつもりだが」
「アンリ、今度実験室に行きたい」
「ニャハハッ♪ お主ならいつでも大歓迎ニャ♪」
「メティア、キミから貰ったハンカチはいつも持ってるよ」
「もうっ、ノーティス♪ 大事な戦いの前に泣かせないでよ。グスッ……」
「セイラ、キミのお陰で師匠との修行を乗り越えられた」
「アハッ♪ いつでも来なさいよっ! おいしーいご飯作ってハグしてあげるからっ♪」
「アネーシャ、俺は必ず斬り拓く。シドが生きたかった未来を……!」
「フフッ、あの時は思わなかったわ。まさか、アナタと同じ気持ちになるなんてね」
ノーティスと話した皆は、決意に満ちた凛とした瞳でクリザリッドを見据えた。
額の魔力クリスタルを、強く鮮やかに輝かせてゆく。
その光に当てられたクリザリッドはより怒りを滾らせた。
ノーティス達から発せられているのはまさに『光の絆』であり、クリザリッドがずっと否定し続けながらも求めていた物だったからだ。
「おのれ……おのれおのれエデン・ノーティス! メデュム・アネーシャ! キサマらだけは仲間共々闇に消し去ってくれる!! 『ダークネス・ドラウジネーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーース』!!!」
クリザリッドが天に掲げた大剣の上にバチバチバチッ! と、巨大に広がった深淵から、数多の闇の雷と隕石のような斬撃がノーティス達に降り注いでゆく。
それは、全てを消し去ろうとしてくる巨大な闇の力。
まともに喰らえば、ひとたまりもないだろう。
けれど、ノーティス達は誰一人として臆していない。
皆額の魔力クリスタルを究極にまで輝かせ、全身全霊を込めて必殺技を放っていく。
「オオオオオオオオッ! 夜空をかける流星達よ! みんなの想いと力を乗せて今こそ究極を超えて煌めけ!! 『バーン・メテオロンフォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーース』!!!」
「その身に受けなさい! 真の美しさの輝きを!! 『ディケオ・フレアニクスーーーーーーーーーーーーーーーーー』!!!」
「思いっきり叩き潰してやっぜ!! うらああああああああっ!! 『アルティメット・クリーシスアックスーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』!!!」
「この光の矢は邪悪を貫き、真理を穿つ! 究極に貫け!! 『コズミック・メテオアローーーーーーーーーーーーーーーーーーー』!!!」
「ニャッハーーーーっ! どこまでもキラキラの光で、ズバ―ンといくニャ!! 『ライトニング・キロシーーーーーーーーーーーーーーーーーース』!!!」
「ボクはあの日の誓いを忘れた事はないよっ! もう絶対うずくまらないし、皆を守る!! 『パーメガス・クリスタルアーーーーーミナーーーーーーーーーーーーーーーーーーー』!!!」
「決着をつけるわよ! 闇のエネルギーなんて、ぜーーーーーーんぶ私が包んであけちゃうからっ!! 『クリスタル・エクスキューーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーション
』!!!」
「私の心にシドはずっと生きてるわ! だから必ず咲かせてみせる! 私達のサクラを!! 『桜花千神』!!!」
ノーティス達の光の力が一つに合わさり、クリザリッドのダークネス・ドラウジネスの闇とズガアアアアアンッ!!! と、激しく激突した。
その激突のエネルギーが、太陽のように周囲を煌めかせ教皇の間その物を大きく震わせてゆく。
今までのどんな輝きよりも強く、鮮やかに、神々しく。
「お、おのれキサマらっ!!」
クリザリッドは歯を食いしばり、必死で皆の光を闇の力で押している。
ノーティス達から光の絆を感じるからこそ、絶対に負けたくないのだ。
この勝負はクリザリッドにとって、これまでの人生を賭けた物だと言っていい。
もしここで負ければ、これまでの全てが間違っていたと証明してしまう事になる。
「その光ごと、闇に……染まれーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
けれど、それはノーティス達も同じだ。
決してここで負ける訳にはいかない。
皆、自身の魔力クリスタルを究極にまで輝かせて必殺技を放ち続けている。
その中でも、ノーティスの輝きがより一層強く煌めいた。
「闇には決して染まらない……! 今こそ究極にまで高まれ俺の魔力クリスタルよ!! 奇跡を起こせーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
ノーティスの魔力クリスタルと全身から放たれている、金とプラチナの入り混じった輝きを宿した剣。
そこから放たれている数多の流星がクリザリッド闇を徐々に闇をかき消し押してゆく。
「ク、クリザリッド……キミは強かったよ。これまで戦った誰よりも。けど、心が闇で覆われてる限り……決して俺達に勝つ事は出来ないっ!」
「ほざけ、エデン・ノーティス……!!」
「ナターシャって人は、きっと……キミの心の闇を晴らそうとしていたんだ!」
「な、なんだとっ……!」
その刹那、クリザリッドの脳裏に蘇った。
ナターシャが昔、コスモティーを入れてくれた日の事が……
『はい、コスモティー』
『ナターシャ、なんだこれは? 頼んでいないぞ』
『だってクリザリッド、なんか我慢してる感じだし』
『我慢? フンッ……俺は下等な者どもとはつるまんだけだ』
『ほらっ、それよ』
『どういう意味だ?』
『そーやって意地張ってると、くらーい方にいっちゃうわよ』
『……別に構わん』
『私はそう思わないわ。はい、だから一緒に飲みましょ♪ ほら』
『……! 悪くはない味だ』
『フフッ、よかった。この味忘れちゃダメだからね♪』
『まっ、一応覚えておいてやる』
『よしっ、アルカナートもセイラも聞いたよわね』
『チッ、めんどくせーけど一応な』
『はいはーーーい♪ もっちろん聞いたよーーーーーーーーーっ♪』
『よし、じゃーみんなで楽しくお茶会しましょ♪ ねっ、クリザリッド』
それを思い出したクリザリッドの瞳に、ブワッと涙が浮かんだ。
零れる涙が激しい衝撃波により後ろに流れてゆく。
───そうか……俺は、本当はアイツらと一緒に……ナターシャ、お前はそれを俺に気づかせようと……!
クリザリッドの胸の中に熱い物が込み上げてくる。
涙が溢れて止まらない。
───なのに、なのに俺は、今まで一体なにをしてきたんだ……! すまなかった、アルカナート、セイラ、そして、ナターシャよ……!
クリザリッドの心の闇が消え、白く優しい光が射してくる。
それと同時にクリザリッドのダークネス・ドラウジネスは、ノーティス達の輝きに斬り裂かれた。
ラストまで後三話!
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