ep:65 覚醒めたアネーシャとクリザリッドの怒り
「クックックッ……メデュム・アネーシャはもう二度と覚醒めぬ。アルカナートと同様にな……ハーッハッハッハッ!!」
残酷さに満ちたクリザリッドの嗤い声が、教皇の間に響き渡っている。
それに皆が怒りを滾らす中、クリザリッドはノーティスをジロッと見下ろした。
「エデン・ノーティス。お前もこの女と同様、哀れな奴よ」
「クリザリッド……!」
「師に想いは届かず、友になりたかったシドを斬ったのだからな」
「くっ……!」
ノーティスは悔しさにギリッと歯を食いしばり、クリザリッドを睨み上げている。
邪悪な敵であるクリザリッドに、自分だけではなくアネーシャとシドをバカにされたからだ。
その心を見透かしたまま、クリザリッドはニタァっと邪悪な笑みを浮かべた。
「死ぬ前に教えてやる」
「なにっ?!」
「お前が戦ったアルベルト・シド。奴の国が、こちらに戦いを仕向けるように仕込んだのは俺だ」
「なんだと?!」
目を見開いたノーティスを、クリザリッドは悪魔の愉悦ような顔で見下ろしている。
「奴はアルベルト・サガの息子。生きててもらっちゃ困るからな。だから裏から手を回し、奴が出るように仕向けたのさ。奴がより強くなる前にエデン・ノーティス、キサマに殺してもらう為にな」
「なっ?!」
ノーティスの脳裏に、シドとの激闘が鮮明な蘇る。
互いに想いを乗せた刃を交え、命をかけて戦った。
その中で互いを理解し友になろうとしたが、運命がそれを許さない。
そしてノーティスは悲しみの中でシドを斬り、アネーシャの心を引き裂いた。
だが、もしクリザリッドがけしかけなければ悲劇は起こらなかったのだ。
クリザリッドがした事は、ノーティスとシドの運命を弄んだ事に他ならない。
その事実がノーティスの心を抉る。
───くっ、シド……俺達は……!!
激しい怒りと悔しさに震えるノーティス。
それを、クリザリッドはさらに侮辱してくる。
「あの戦いは深淵から見ていたぞ。そうとは知らず、お前が奴と涙を流しながら戦い、最後奴が……涙を流して死んでゆく様をな! クククッ……ハハハッ……ハーッハッハッハッ!!」
「キサマっ……!!」
ノーティスは全身ボロボロであるにも関わらず、ググッと立ち上がった。
あまりにも膨れ上がる怒りが、体の痛みを遥かに凌駕したのだ。
だが、クリザリッドは尚も嘲笑う。
「お前は敵に対し、共に友になりたいとも言っていたな。敵が友……片腹痛いわ! 愚か者めが! クククッ……敵が友とは……ハーッハッハッハッ!!」
その嗤い声が耳を貫いた瞬間、ノーティスはブチ切れた。
「ク……クリザリッドォーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!」
怒声を上げ、燃え滾る怒りと共に跳びかかろうとした。
が、動かない。
跳びかかろうとした瞬間に、足首をガシッと掴まれたからだ。
なので、ハッと振り返った。
またその光景を見たクリザリッドは、あまりの驚愕に目を丸くした。
信じられないという顔をして、額からツーっと汗を流している。
「ま、まさか……!」
その時、皆の瞳に映った。
さっきまでうつぶせのまま微動だにしなかったアネーシャが、ググッと立ち上がってゆく姿が。
今さっき足首を掴まれたノーティスでさえ、この事が信じられない。
「ア、アネーシャっ?!」
「ノーティス、ここは退がってて……」
アネーシャはノーティスの足を離すと完全に立ち上がり、クリザリッドをキッと睨みつけた。
凛とした瞳に、とてつもない怒りが宿っている。
「この外道は、私がもう一度斬り裂くわ……!!」
その姿に皆驚いているが、一番驚いて動揺を隠せないのはクリザリッドだ。
「あ、ありえぬっ……! メデュム・アネーシャよ。あの夢の世界からどうやって醒める事が出来た……!」
クリザリッドは己の力に絶対的な自信を持っている。
それ故に、アネーシャが目醒めた事が信じられなかったのだ。
「あの夢はキサマが一番行きたかった世界のハズ。人は苦しみには耐えられても、幸せや快楽には絶対に抗えないハズだっ……! それがなぜっ?!」
叫ぶように声を震わすレクリザリッドに、アネーシャは凛とした眼差しを向けた。
その瞳が、目覚めたのは偶然ではない事を物語っている。
「クリザリッド、アナタの技は確かに凄かったわ。それに、技自体には感謝もしてる。想いを伝える事が出来たから」
「くっ、なのになぜだっ……!」
クリザリッドはあまりの不可解さに、アネーシャを見つめたまま軽く後ずさりした。
なぜ自分の技が破られたのか、全く理解出来ない。
得体の知れない力に恐怖が募る。
アネーシャはそれを見据えたまま、二ッと力強く笑みを浮かべた。
「クリザリッド、決まってるじゃない。私の愛は現実を変える為にあるからよ。夢の中じゃないと幸せになれない……そんな世界、決して来させはしないわ!!」
アネーシャの凛とした瞳の光が強く光る。
それとは対照的に、クリザリッドは瞳に黒い炎のような怒りを滾らせた。
「なんだとっ! おのれ……許さん……メデュム・アネーシャ、キサマだけは許さんっ!」
「許せないのはこっちよ、クリザリッド……!」
「黙れアネーシャ! 俺は……」
クリザリッドの怒りは、理不尽極まりないように見える。
しかしクリザリッドには、どうしてもアネーシャを許せない理由があるのだ。
それは今までクリザリッド自身が、何度も躊躇ってきたからに他ならない。
自分自身にこの技をかけ、愛するナターシャに会いたいと何度も思ったのだ。
だが、クリザリッドはしなかった。
そんな事をすれば、二度と目覚めなくなる事が分かっていたからだ。
「選べなかったのだ……俺は、それを選べなかった! だがキサマは、会った上で別れを告げてきた……だから俺は、キサマを決して許す訳にはいかぬっ!!」
クリザリッドは片手で剣先を天に向けて掲げた。
その先に集約させている強大な闇のエネルギーが、まるで黒い暴風のように皆に流れてゆく。
アネーシャとノーティス達は片腕を顔の前に置き、顔をしかめて防いだ。
「くっ! さっきよりも遥かに強くなってるわ……!」
「これがホーリー・アークで蘇った、クリザリッドの真の力か……!」
「なんなのよっ……闇の力のクセに美しいわ……!」
「くそったれ、ここまできたのによっ……!」
「ニャッハァ……なんという魔力じゃ……!」
「まるで、全てを覆い尽くすようだ……!」
「ボクのホーリー・アークで、何とかみんなを……!」
「待ちなさいクリザリッド! こんなの……悲しいだけだよっ!」
クリザリッドの創り出す闇と、ノーティス達の創り出す光は真逆だ。
けれど両者の根底には、哀しみが流れている。
そして、この両者が激突するのは避けられない。
互いに一歩も退けない想いで対峙しているからだ。
激闘の後には、どちらかが消えねばならぬ宿命。
その光景を、ルミは瞳に涙を浮かべて見つめている。
「ううううっ……! このままじゃみんなが、ノーティス様がっ……!!」
その時、ルミの脳内に直接声が響いてきた。
───目醒めさない……! アステリア・ルミ……光の勇者と共に世界の鍵を握る『光の巫女・クナーティア』よ……!




