ep:56 アネーシャの涙とルミの愛
「くっ、やはりそうだったのか……キミが、あのアネーシャ……!」
ノーティスは、断罪される事を前にした囚人のような顔を浮かべている。
さっきセイラから言われた時に、ノーティスは分かっていた。
ここに現れるのがアネーシャだという事が。
セイラから名前を告げられた時に、脳裏に蘇ったのだ。
それは、シドが最後に血だまりの中で涙を流していた光景に他ならない。
『す、すまない……俺は、キミと今を……生きて、いきかった……! 愛してるよ……アネーシャ……』
ノーティスがアネーシャの名前を聞いたのは、その時だけだ。
けれど、ノーティスはハッキリと覚えている。
シドが愛した女の名前だったからだ。
その事を脳裏に浮かべたノーティスの体が震え、罪の意識が全身を覆ってゆく。
「お、俺は……!」
そんなノーティスを、アネーシャは真正面からジッと見つめている。
その眼差しは、燃え滾る怒りを心の奥底に抑え込んでいるようだ。
「……私の名前、知ってたの?」
「……あぁ、シドが最後に呼んでたんだ。アネーシャ、キミの名を……!」
「ぐっ……!」
アネーシャの凛とした瞳に、堪えきれない涙が滲む。
シドが死の間際で自分の事を想ってくれていた事が、目に浮かぶようだからだ。
だからこそ、アネーシャの心はとてつもなく締めつけられてしまう。
悲しくて悔しくて仕方がない。
その気持ちが、ノーティスには痛いほど伝わってくる。
「アネーシャ、すまない……謝って済まされる事じゃないのは分かってる。けど、俺は……!」
軽くうつむき、ノーティスは全身を哀しみに震わせている。
シドとは敵としてではなく、本当は友になりたかったからだ。
その姿を、アネーシャは涙の滲む瞳で強く見つめている。
アネーシャにも、ノーティスのどうしようもない深い悲しみが痛い程伝わってくるのだ。
言葉ではなく、アネーシャはノーティスの魂をヒシヒシと感じている。
なのでアネーシャは、ノーティスを殺す事を完全に辞めた。
───この人は、ルミとセイラから聞いた通りの人だわ……
正直、スマート・ミレニアムに乗り込んだ時、アネーシャは思っていた。
自分が殺されても、ノーティスだけは殺すと。
けれどアネーシャは、その殺気を一旦鞘に収める事になる。
王宮の前でセイラに出会ったのが、そのきっかけ。
セイラは物凄く急いで王宮まで来ていた。
ノーティスが処刑されるかもしれないという事を、ルミから聞いたからだ。
『分かったわルミちゃん。今すぐ行くから待っててね!』
『はい……!』
なので、セイラはすぐさま準備して王宮の外まで辿り着いたのだが、その時にアネーシャの事がたまたま目に映ったのだ。
元王宮魔導士であるセイラの察知能力は、半端ではない。
アネーシャが誰かを殺そうとしている事を、一目で見抜き捕まえたのだ。
もちろん、最初アネーシャは逃げようとした。
『なんなのよアナタ!』
アネーシャにしてみたら、ここまで来たので想いを果たしたいのは当然だ。
掴まれた腕を全力で振りほどこうとして暴れた。
けれど、セイラには敵わない。
不意を突かれたのも加わり、アネーシャはセイラの魔法で完全に捕獲された。
『くっ、殺しなさい! 彼の仇を討てないなら……生きてきても意味なんてないんだから!』
『まあまあ、落ち着きなさいって♪ せっかくルミちゃんと三人でいるんだから、女子会しよっ』
『ふざけないでっ!』
『あら、ふざけてないわよ。少なくとも私、誰かさんと違って人殺そうとか思ってないし。違う?』
『……アナタ、何が目的なの』
『目的? う~~~ん、泣いてる人がいたら助けたくなるのは普通じゃないかな』
『泣いてる? 私が? そんな訳ないでしょ……私は泣いてなんてない! 殺そうとしてるの!』
『だから、それが泣いてるんだって。心が泣いてるから殺したいんでしょ?』
『……わ、私は……!うっ……ううううっ……!!』
そこからアネーシャは涙ながらに語っていった。
シドとの事を。
その途中でセイラは正直ゾッとした。
殺したい相手がノーティスだと分かったからだ。
また、一緒に聞いているルミは顔が真っ青になっていた。
けれどセイラの目配せを受け、ルミも何も言わずにそのままアネーシャの話を聞いたのだ。
そして全ての話が終わると、セイラはそっと溜息を吐いた。
『ふうっ……分かったわアネーシャ。殺したいなら殺していいんじゃない』
『セイラさんっ!』
『ルミちゃん! 今は話をさせて』
『はい……』
『……ただアネーシャ、殺すかどうかは相手の事を本当に知ってからじゃないとダメよ』
『なんでよ! 知る必要なんて無いわ! あの男はシドを……私の愛するシドを殺したんだから!』
『……分かってるわ。でもダメよ。知らずに殺したら、きっと後悔するから』
『後悔? どういう事よ』
『相手をちゃんと知った上で殺すなら後悔はしない。けど知らずに殺してしまえば、後で相手の事を知った時にアナタは必ず後悔するわ』
『……まさかアナタ、あのノーティスの知り合いなのっ?!』
『……そうよ。だから、ありのままに話すね。後、シドの戦いを一番知ってるのは、このルミちゃんよ』
『えっ、この子が……?』
『彼女はノーティスの執事だから』
そこからルミはセイラと一緒に、アネーシャに話をしていった。
ノーティスがシドと友になろうとした事、またその場で墓を作り祈った事や真実を受け入れた事をだ。
それに加え……
『ユグドラシルの共有っ?!』
『そうです。ノーティス様はシド様から伝えられた真実を受け入れ、戦いをなくそうとしたんです』
『そんなっ……! そんな事、今まで考えた事すら……』
『そういう人なんです。ノーティス様は』
『じゃあなんで?! なんでシドは……!』
『言いにくいんですが……シド様は、ノーティス様からのご提案をお断りしたそうなんです』
『なんで?! なんでその提案を断ったのよ! それが出来ればもう、戦わなくて済むじゃない!』
『その通りです……ですが、シド様は仰ったようです。互いに背負った物は捨てれない。それが、本物であればこそだと……』
『……ハハッ……本当に、本当に不器用な人ね、シドは……』
『シド様は誇り高き最高の戦士だったと……ノーティス様はそう申されておりました』
『分かったわ。でも共有なんて、それは口だけでしょ。そんな事言ったら、彼も反逆者として処刑されちゃうもの……』
『アネーシャ様……今、まさにこの城内でノーティス様はそれを行なっているんです……!』
『うそっ?!!』
『だから、セイラさんに連絡をして来てもらったんです。ノーティス様がそうしているように、私達も命を賭けて今から行くんです!』
アネーシャはノーティスを見つめながら、この事を思い返していた。
二人への感謝の気持ちでいっぱいだ。
また先程アネーシャは、セイラとルミに伝えていた。
『セイラ、ルミ、アナタ達の話は疑ってない。けど、嘘だと判断したら、その時はノーティスを斬るわ』
『いいよ別に♪ その時はズバッとやっちゃいなよ』
『アナタ、ずいぶんな自信ね。そんなに信用してるの?』
『信用っていうか、あの子は分っかりやすいも〜〜ん。だから、見たらすぐ分かるわ。で、ダメならやっちゃえやっちゃえ♪ ねっ、ルミちゃん』
『えっ?! あっ……私は嫌ですけど。でも、アネーシャさんがノーティス様を斬る事には、決してならないと信じてます!』
『なんで? 私は彼を斬るかもしれないわよ』
『分かってます。でも、もし……もし斬るなら、その時は代わりに私を斬ってくださいっ!』
『べ、別に、アナタは斬らないわよ』
『嫌なんです! ノーティス様が斬られるぐらいなら、私が斬られた方がマシなんです!』
『ルミ、アナタ……』
『ルミちゃん……あーーーーもう大好きっ♪ 可愛いーーーーーーーーーっ♪』
『セ、セイラさんっ! あのっ……ちょ、ちょっとこういうのは……』
『大好き〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜っ♪』
アネーシャは全てを思い返すと、再びフウッ……と、ため息を吐いた。
「ノーティス、二人の女神に感謝しなさいよ」
「えっ?」
「アナタが生きてるのは、ルミとセイラのお陰なんだから」
「えっ、それってどういう……」
そこから大枠を聞いたノーティスは、ちょっとすまなそうにルミとセイラをチラッと見つめた。
二人とも、そんなノーティスに微笑んでいる。
そして、再び向き直ったノーティスにアネーシャは軽く微笑んだ。
「まずは、あの二人を倒さなきゃね」
「ああ、必ず。でも……失礼だけど、キミは戦えるのか?」
「アナタ見たんでしょ? 女神の記憶を」
「うん、でもそれが……あっ、まさかっ!」
「フフッ、やっと気付いたのね。私は子孫よ。あの悪魔達と命を賭けて戦った『メデュム・ソフィア』のね……!」
アネーシャがそう告げた時、セイラの作った防御壁がピシピシピシッ……と、音を立てていき、次の瞬間、ドアガアアアアンっ!!! と、砕け散った。
凄まじい轟音とまばゆい光が周りを照らす。
そして、そこから現れた。
悪鬼のような眼差しでこちらを見据える、アルカナートが。
それを見たノーティスが両手でジャキッと剣を構えると、セイラやアネーシャ達も再び臨戦態勢に入っていった。
「師匠っ……! 今、俺が救います!!」
「さっ、みんな揃った所で……いっくわよーーーーーーーーーっ♪」
「私も全力で戦うわ! シドの為に……!」
ここからラストまで、さらに怒涛の展開で進んでいきます!
最高の展開になっていきますので、ブクマと★★★★★で応援お願いします!
感想もドシドシ下さい( ^o^)/




