ep:55 運命の対峙
「セイラよ、何かと思えばこんな小娘を連れてくるとはな。クククッ……」
クリザリッドは、軽く体を震わせながら失笑を漏らしている。
セイラの醸し出す凛とした雰囲気とは裏腹に、出てきたのは戦闘力などまるで感じないルミだったからだ。
けれど、当のルミはそんな事は気にしていない。
ノーティスの所へ駆け寄りると、軽く息を切らしながら微笑んだ。
「よかったノーティス様……ご無事だったんですね♪」
「あぁ、お陰様で……って、だからルミ、ダメだって! ここにいたら!」
ノーティスは困惑しながらルミを見つめている。
ここにいるのが、どれだけ危険なのかを分かっているからだ。
けれど、ルミは動じない。
むしろ、スッと胸を張ってノーティスを見つめた。
「それは、危険だからですか?」
「そうだよ!」
「じゃあ、ノーティス様にとってはここは危険じゃないんですか?」
「えっ?」
ルミから軽く詰め寄られたノーティスは、ちょっと気まずそうな顔をしてしまった。
なんか嫌な予感がするからだ。
でも、嘘は言えない。
「……そりゃ危険だよ」
「ですよね。なのに、ノーティス様はよくて私はダメなんですか?」
「いや、それは……」
「どうなんです!」
そこまで言われたノーティスは、もうルミの言う事を認めざる得ない。
「……ダ、ダメじゃ……ないな」
「ですよねっ♪」
ルミはニコッと微笑んだ。
逆にノーティスは、参ったなという顔をして片手で軽く頭を掻いている。
完全にルミにしてやられたからだ。
それを見ていたジークは、吹き出すように笑いだした。
「ガッハッハッハッ! ノーティス、お前さん完全にやられたな。こりゃ結婚したら、嬢ちゃんの尻に敷かれるな」
「あぁジーク、それについては的中率100%だと思う……」
ノーティスは仕方がないという感じで、優しくため息を零した。
もちろんルミを危険には晒したくないが、こう言われてしまってはどうしようもない。
その側で、ルミは顔を真っ赤に火照らせている。
「けっ、結婚っ?! そ、そんなつもりじゃ……!」
そんなつもりじゃないどころか、周りからしたらそうなる未来しか見えない。
レイもそれを感じて、半ば諦めたように微笑んだ。
「フフッ♪ ルミ、アナタにならノーティスの事任せられそうね」
「レ、レイ様っ……!」
ルミは思わずうるっときてしまった。
レイがノーティスを想っている事を、前々からよく知っているからだ。
もし、自分が逆の立場だったとしたら自信がない。
今のレイのように、ちゃんと相手の目を見て言うなんて無理だろう。
───レイ様は、やっぱり素晴らしい女性です……!
ルミはレイの心の強さと美しさをヒシヒシと感じている。
そんなルミの事を、メティアが横からスッと覗き込んできた。
メティアは嬉しそうに笑みを浮かべている。
「ルミさん、ノーティスと結婚するの?」
「メ、メティアさんまでなにをっ」
「あははっ♪ だって顔にそー書いてあるし。それに……結婚式にはボクも呼んでね」
「メティアさん……!」
ルミは、またうるっときてしまった。
メティアもノーティスを好きな事を、ルミは知っているからだ。
そんなルミを、メティアは祝福するように見つめている。
「ボクがスピーチしてあげるから。ノーティスの事を大好きなボクからって♪」
「もうっ! そ、そんなスピーチ困りますよっ」
「アハハッ。ほら、やっぱりする気じゃん♪」
「あっ……!」
ルミは顔を火照らせて片手を口に当てた。
やってしまった感が溢れている。
それをアンリとロウも一瞬微笑ましく見つめたが、すぐにクルフォスに向き直った。
今は戦いの最中。
いくら微笑ましい光景でも、油断したら命取りだ。
その気持ちを代弁するかのように、セイラは凛とした眼差しでクルフォスとクリザリッドを見つめた。
「ルミちゃんから教えてもらったのよ。マジックポータルでね♪」
「そうか……なるほどな。それでわざわざ余に殺されに来たという訳か。大した度胸だ」
「クククッ……セイラよ。大人しく孤児院だけしていれば、静かに過ごせたものを」
二人ともセイラを嘲笑っている。
けれど、セイラは気にしない。
真っ正面から二人を見つめたまま、軽くおどけた顔を浮かべた。
「あ~~あ二人とも、街で騒ぎになってるのに、何も知らないようね」
「なんだと?!」
「どういう事だ」
「まっ、こんな事あったんだから知らなくても当然だけど」
セイラの言葉に謎めいた顔を浮かべているのは二人だけではない。
ノーティス達も、何の事なのか全く分からない。
「セイラ、どういう事だ。街で騒ぎ?」
謎めいた顔を浮かべているノーティスを、セイラは凛とした眼差しで見つめた。
「助っ人はルミちゃんじゃないの」
その瞳が告げている。
今から凄く大事な事を告げてくる事を。
「彼女に話はしてあるけど、もしかしたら酷い言葉をぶつけられるかもしれないわ。場合によっては、斬り……いえ、きっとそれはないわ。ちゃんと話したから」
「どういう事だ? まったく分からないよセイラ」
セイラが何を言いたいのか、本当に分からない。
けれどノーティスの胸を、言いようのない不安が襲ってくる。
心が最大級の警戒音を発しているようだ。
ノーティスの顔が不安に顔が曇る。
すると、ルミもノーティスに真剣な眼差しを向けてきた。
セイラと同じ事を伝えようとしているのが、一目で分かる。
「ノーティス様。私がセイラ様に無理を言ってここに来させてもらったのも、それが理由です」
「ルミ、どういう事だ? セイラと一緒で、何言ってるのか全く分からないよ……!」
ノーティスは軽く苛立ち、片手で頭をクシャッと掻いた。
言いようのない不安が募る。
その隣で、セイラは再びクルフォスとクリザリッドの方へ振り向いた。
「彼女は乗り込んできたのよ。たった一人で、このスマート・ミレニアムに……!」
「なんだと?」
「その小娘がか?」
「違うわよ」
「ならば、誰だと申すのだ」
「そうだセイラ。さっさと言え。その命知らずな者の名を!」
セイラは二人からだけでなく、みんなからの眼差しも一身に受けている。
その中で一瞬瞳を閉じると、凛とした瞳に光を宿した。
「『メデュム・アネーシャ』よ……!」
聞いた事の無い名前に、ルミ以外の皆は謎めいた顔を浮かべている。
だがその中で、ノーティスだけは少し考えてからハッと目を見開いた。
「まさかっ……!」
あまりの衝撃に胸が一気にドキドキと波打つ。
とてつもない不安が襲ってくるのだ。
それを背中で感じたセイラは、一瞬スッと流し目を向けてコクンと頷いた。
そして、再び前を見つめて話をしていく。
「彼女は……復讐の為に乗り込んできたの」
復讐という言葉に、クリザリッドとクルフォスは一瞬眉をひそめた。
「復讐だと?」
「トゥーラ・レヴォルトの者か?」
「そうよ。もちろん、本当は軍隊で攻め込むのが一番効率がいいに決まってる。でも、彼女は敢えてそうしなかったの。なぜだか分かる?」
クルフォスもクリザリッドも、その問いの答えが分からず黙っている。
確かに国への復讐ならば、軍隊を引き連れた方が遥かに効率的だからだ。
むしろ単身で攻め込んでくるなど、自殺行為に等しい。
けれど、そんな二人と違いノーティスはすぐに理由を悟った。
「そういう事か……!」
ノーティスはセイラの隣にザッと歩み出た。
その瞳には哀しい光が宿っている。
アネーシャの正体を、もう分かっているのだ。
「自分の復讐に、人を巻き込みたくなかったから……」
「さっすが私のノーティス♪ 大正解よ」
嬉しそうに微笑んだセイラを、クルフォスとクリザリッドは一笑に付した。
「愚かな……」
「くだらん……」
「そうでしょうね。自分の野望の為なら、人の事なんて何とも思わないアナタ達からしたら」
セイラの皮肉めいた言葉に、クリザリッドもクルフォスも邪険な顔を浮かべている。
「フンッ……」
「そんな事、分かりたくもない」
だがその直後、二人はハッと悟った。
ここに来る者の正体を。
「いや待てセイラ、という事は!」
「まさか……!」
「そうよ」
セイラは二ッと力強い笑みを浮かべると、サッと入口の方へ振り向いた。
「出てきて!」
その声が響くと同時に、教皇の間の入口からスッと入ってきた。
桜色の鎧を身に纏い、艶のある長い黒髪から凛とした瞳を覗かせる美少女剣士『メデュム・アネーシャ』が!
アネーシャはサッと周りを見渡すと、ノーティスを見つめた。
そのまま、カツン……! カツン……! と、静かに足音を立てて近寄ってゆく。
心臓をバクバクさせているノーティスを、凛とした瞳で見つめたままゆっくりとだ。
そしてノーティスの目の前まで近づくと、真っ直ぐ見つめた。
「アナタね、エデン・ノーティスは」
「あぁ、そうだ……」
「ずっと会いたかったわ。私の愛する、シドを殺したアナタに……!」




