ep:48 仲間達の想いとノーティスの誓い
「う、うそだっ……! あのシド様が負けたなんて!」
「そんなっ……!」
「くうっ……! シド様っ!」
トゥーラ・レヴォルト軍の敵兵達は、シドの死に深い怒りと悲しみの声を漏らしている。
誰よりも強く気高く皆の心の支えであったシドが倒されたなんて信じられないし、信じたくもないのだ。
城のテラスからその様子を見ていたロウは一瞬スッと瞳を閉じ、魔導の杖を片手でサッと上に掲げた。
「トゥーラ・レヴォルトの勇者『アルベルト・シド』は、スマート・ミレニアムの勇者『エデン・ノーティス』が討ち取った! この戦、我らスマート・ミレニアムの勝利だ!!」
ロウの声が周囲に響き渡ると同時に、スマート・ミレニアム軍からはドッと歓声が沸いた。
みんな嬉しそうな顔で、ロウの方を見上げている。
そんな彼らを見下ろしながら、ロウは額の魔力クリスタルからエメラルドグリーン色の魔力を大きく煌めかせてゆく。
「勝利は魔力クリスタルと共に!!」
ロウの勝鬨に兵士達も拳を振り上げた。
「勝利は魔力クリスタルと共にっ!!!」
そこからスマート・ミレニアム軍の悦びと安堵の声が広まる中、それを背に受けながらトゥーラ・レヴォルト軍は肩を落として撤退していく。
追撃しないのはロウの采配だ。
───これ以上の血を流す事は必要ない……みんな、よくやってくれた。だが……
ロウはノーティス達を静かに見つめると、サッと背を向け城の中へ入っていった。
◆◆◆
「くうっ……! シドっ……!! 俺はキミを……!」
ノーティスは血だまりの中に倒れているシドの亡骸の前で跪いたまま、目をギュッとつむり涙を零している。
斬られた肩の傷よりも、心の方がずっと痛い。
シドを斬らなければいけなかった事が、ノーティスにとって遥かに重傷だ。
まるで、ノーティスの裂けた心から流れ落ちる血が見えるように感じてしまう。
瞳からは涙を、心からは血を流しているのだ。
そんなノーティスの脳裏に、以前セイラから言われた時の事が浮かぶ。
『勇者合格おめでとう♪ さっすが私のノーティスね』
『あ、ありがとうセイラ』
『アハッ♪ いいのよ。でもノーティス、勇者として本当の戦いはここかからだからね』
『うん……! 分かったよセイラ』
あの時言われた言葉が、ノーティスの心に沁みる。
───セイラ、あの時俺は分かってなんてなかった……! これが勇者として本当の戦いなのか……! 俺は、こんな想いはもうしたくない……!
歯を食いしばり涙するノーティスを、レイは後ろからそっと抱きしめた。
華美な瞳が優しい光で揺らめいている。
「ノーティス、アナタは何も間違ってない。誰よりも美しいわ」
「レイっ……でも俺は……俺は、共になるべき相手をこの手で……!」
ノーティスが震えながら見つめている血にまみれた右手を、レイはギュッと握しめた。
レイの白いオペラグローブも真っ赤な血に染まる。
まるで、ノーティスの悲しみを自分も引き受けるかのようだ。
「いいのよノーティス。勇者として最後まで全力で戦ったアナタを、誰が責めれるのよ……」」
「ううううっ……! レイ……!」
「そんな人いたら、私が絶対に許さないから……!」
心にレイの愛が染み渡ってくる中、ノーティスの体が黄色く優しい光に満たされてゆく。
メティアがノーティスに両手をかざして回復魔法をかけたのだ。
「ノーティス……」
「メティア……!」
スッと見つめると、メティアは優しく笑みを浮かべた。
「ボクは体の傷を治す事しか出来ないけど、レイの言う通りだよ。キミは何も悪くないし、悪くいう奴はボクだって絶対許さない……!」
「くっ……!」
「ノーティス、それにボクらは誓ったハズだよ。もう、うつむく事は決してないって」
「メティア……!」
あの日の事を思い出しハッと見上げると、横からジークが二ッと笑みを浮かべ覗き込んできた。
ジークの大きな体がノーティスを陰で覆う。
「そうだぜノーティス。レイやメティアの言う通りだし、お前さんにうつむかれてちゃ俺も立つ瀬がねぇじゃねぇか」
「ジーク……」
「それによ、お前さんは真正面から全力で戦って勝ったんだ。何も恥じる事も悔やむ事もねぇ。だから、もう胸張ろうぜ……!」
「あぁ……分かったよジーク。ありがとう」
ノーティスがスッと立ち上り見つめる中、ジークはいきなりメチャメチャ痛そうな顔をしてピンッ! と、背筋を伸ばした。
「いってーーーーーーーーーーーーーーーっ!」
アンリがジークの裂けた背中に、消毒液をぶっかけたからだ。
「何すんだよアンリっ!」
「ニャハハッ♪ 消毒ニャ消毒。背中がパックリ裂けたままじゃからのう」
「ちっ、あんがてーけど、いきなりはないだろ。てか、どこにそんなもん持ってたんだよ」
「私は空間収納魔法があるからの。そこには色々入っとるニャ♪」
「ったく、お前さんは何でもありだな」
「ニャッハー♪ 見られたくない物があったら預かってあげてもよいぞ。例えば~~~」
猫口のまま人差し指を唇に当て斜め上に視線を向けると、ニパッと笑みを浮かべた。
「レイに渡しそびれたネックレスとかの♪」
「いいっ?! アンリ、お前さんなんでそれを?!」
「ん? お主がこの前飲んだ時言っておったろ。『買ったけど渡せなかったんだよ〜〜〜』って」
「えっ?! 言ったか、んな事!」
「ニャハハッ♪ くだ巻きながら泣いておったではないか」
「マジかよ〜〜〜〜〜っ!」
その光景を見てスッと立ち上がったレイは、顔を真っ赤に火照らせている。
直接的に言われるよりも、こういう方がずっと恥ずかしいし嬉しいからだ。
でも、素直に嬉しいとは決して言わない。
「はあっ?! ジーク、アナタバカじゃないの。買ったのに渡さないってどういう事よっ!」
「い、いや、それはだな……」
気まずそうな顔で軽く体を後ろに逸らすジークに、レイはグイッと身を乗り出した。
軽く訝しむ顔でジークを下から覗き込んでいる。
「なんなのよっ! 体は大きいのにグジグジして、男らしくないわよっ」
詰め寄られたジークは観念した顔で溜息を吐くと、胸の鎧の内側から小さなケースに入ったペンダントを取り出した。
きっと恥ずかしいのだろう。
ジークの顔は照れて真っ赤だ。
「これなんだけどよ……」
「あっ、高級ブランド『サンクチュアリ』! 私の一番好きなブランドじゃない。なんで渡さなかったのよ。もうっ……えっ?」
ジークが気まずそうに額をポリポリ掻く中、レイは目を見開いてネックレスを見つめている。
「こ、これって……」
そのネックレスは以前、レイの誕生日にノーティスとデートした時に一緒に買ったお揃いの物だったのだ。
「いや……誕生日に渡そうとしたら、もうお前さんつけてたからよ」
ジークを見つめるレイの瞳が揺らめく。
「バカね……ホントに……」
「ちっ、しゃーねーだろ。俺はこーゆーシャレたもんは、お前さんの好きなもんしか知らねぇんだからよ」
軽く口を尖らすジークを見つめると、レイはネックレスを付け替えた。
「レイ、お前さん……!」
「勘違いしないで。前のは戦いで壊れちゃったから、修理に出すだけだから」
「いいっ?! そ、そういうことかい。んだよ、てっきり俺は……」
軽く肩透かしを食らったジークに、レイは妖しく微笑んだ。
「フフッ♪ まっ、いつ修理出来るか分からないけど」
「へっ?」
「ジーク、アナタ次第よ。いつ修理出来るかは」
「……ったく、やっぱお前さんはいい女だぜ」
ジークがニッと笑みを浮かべた時、ロウがザッと現れた。
「フム、修理もいいがまずは回復だ」
「ロウっ、お前さんもうこっち来ていいのかい」
「まあ、細かい作業はこれからだが大枠はあらかた済んだ」
「そうかい」
「あぁ、ただ……」
ロウは慧眼な眼差しでノーティスをスッと見つめた。
「ノーティス、ありがとう。キミのお陰でスマート・ミレニアムが勝利出来たんだ」
「ロウ、こちらこそだよ。けど、俺はシドから……」
切なく見つめながらノーティスは考えていた。
シドから告げられたユグドラシルの真実を、ロウに話すべきかどうかをだ。
それを感じたロウは、静かに口を開いた。
「聞くよ。シドから何を言われたんだ」
「シドから俺は聞いてしまったんだ。ユグドラシルの真実を……!」
その言葉にロウが一瞬目を大きく見開くと、ノーティスは語り出した。
シドとの戦いの全てを……
それを全て聞き終えるとロウは一瞬瞳を閉じ、深く静かにため息をついた。
───やはりそうだったのか……元々、あの神聖樹ユグドラシルは彼らの物。で、あるならば……!
ロウは分かっていた。
もう、決意をしなければいけない時が来た事を。
「ノーティス、全て分かった。ならば、これからキミはどうするつもりだ」
「ロウ、みんな。俺はこれから……」
そこから皆にどうするかを告げたノーティスは、みんなと一緒にシドとキースの墓を作り手を合わせた。
夕暮れの光が、ノーティス達をオレンジ色に照らしている。
───シド、俺は誓う。キミの死を決してムダにしない……!
ノーティスは心に誓いを立てた。
そして同時に願う。
───生まれ変わったら、今度は敵じゃなく親友と過ごそう。必ず……!
次話から最終章です。
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