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ブレイキング・クリスタル ─光と闇の呪宝戦記─  作者: ジュン・ガリアーノ
cys-5 宿命のライバル! 銀色の勇者シド
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ep:47 シドの愛と涙の桜

「ぐっ!!」


 ノーティスはギリッと歯を食いしばり剣を押し返しているが、シドの剣に押され競り負ける寸前だ。 

 技の威力が凄いからだけではない。

 シドから痛い程伝わってくるのだ。

 魂から溢れ出ている、これまでの想いがヒシヒシと。


───シド、これが……キミの魂に込められた想いかっ! なんて、なんて気高く美しいんだ!! これに比べたら俺は……!


 その光景を、レイ達も全身に力を込め心が軋む想いで見つめている。

 また、兵士達の回復を終えて駆けつけたメティアもここに来ていた。

 けれど、ノーティスとシドの間には誰も入っていけない。

 凄まじい威力が溢れているだけではなく、邪魔してはいけない神聖な物がその場に満ちているからだ。

 でもメティアは我慢出来ず、涙を(にじ)ませ身を乗り出し叫ぶ。


「ノーティスーーーーーーーーーーーー!! 頑張れーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 その声援が、ノーティスの折れそうな心をスッと支えた。


───メティア……! そうだ。俺は、シドのように気高くはなれない。いつだって、泥と蔑みにまみれて生きてきた。でも、俺を支えてくれてる仲間達がいる。必要としてくれている人達がいる。そして、いつも俺の側で……


 ノーティスの心に浮かんだ。

 いつも側で支えてくれている、愛しいルミの笑顔が。


『ノーティス様、一緒にコスモティーを飲みましょう♪』


 その笑顔が浮かんだ時、ノーティスはカッと目を見開いた。


「ォォオオオオオオオオオオッ!!」

「な、なんだとっ?! ノーティス、お前まだそれだけの力が……! だが俺は負けない!!」


 シドは一瞬押された剣を再び押し返してゆく。

 しかし、その時だった。

 

「シド、俺は全ての想いと力でキミを超えて進んでいく……! ウォォォオオオオオオ! 今こそ究極にまで輝け!! 俺の魔力クリスタルよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 ノーティスの魂からの咆哮と共に、白輝(びゃっき)の魔力クリスタルの色が変わっていったのだ。


「バ、バカなっ! この輝きはゴールド!!」

「シド、これが俺が師匠から授かった究極の力『ゴールド・クリスタル』だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」

「なんだとっ?!! これが奴の光か……! ならば、お前もろともこの剣で斬り決着をつける!! オオオオオオオオオオオオオオッ!!!」


 ノーティスとシドは互いに全力で魂からの力を輝かせ、剣を押し合ってゆく。

 そして、その激突する力が完全に限界を超えて膨れ上がり弾け飛んだ。

 その瞬間、ノーティスとシドはガキインッ!! と、剣を振り抜き身体を交叉させて背中同士で向き合った。

 二人は剣を振り抜いた姿勢のまま固まっている。

 その周囲を数瞬の静寂が支配した。

 ノーティスとシドはもちろん、他の皆もそうだ。

 誰も口を言葉を発しない。

 目を大きく見開いて、二人を見つめたまま固まっている。

 だがその静寂を破ったのは、ノーティスの左肩からブシュゥウウウウウッ!! と、大きく噴き出す鮮血だった。

 噴き出す血しぶきと共に、ノーティスに激痛が走る。


「うあっ!! ぐうっ……!」


 ノーティスは思わず片手で肩を押さえ、その場にドシャッと(ひざまず)いた。

 シドの桜神滅牙(おうしんめっき)(かす)め、左胸の上部から肩を斬り裂いていたのだ。

 噴き出す鮮血が、ノーティスの頭から足元に血しぶきをまき散らす。

 鮮血を浴びながら、ノーティスは剣を地面に刺して(ひざまず)き、苦しそうな顔で息を切らしている。


「ハアッ……! ハアッ……! シド……!」


 勝ったのはシドなのか?!

 皆がそう思った瞬間、シドの胸が斜め下から大きく裂け、バシュウウウウウウウッ!! と、鮮血が大きく噴き出した。


「ぐはあっ……!!!」


 ノーティスのテオス・フォース・スラッシュが、シドの胸を斜め下から上に大きく斬り裂いていたからだ。

 大量の鮮血が、シドの足元にあっという間に大きな血だまりを作ってゆく。

 シドはその血だまりの中に、前から崩れ落ちるようにドシャッ! と、倒れていった。 

 目が霞み意識が薄れてゆく。


───もう、助からないな。これで終わりか……だが……


 自らの敗北とこれから死ぬ事を悟ったシドは、血だまりの中に倒れたままググッと上半身を浮かせた。

 最後の力を必死に振り絞る。


「う、ああっ……! ぐっ……!」


 シドは血まみれの手を震えさせながら、胸のペンダントを片手で掴んだ。

 ペンダントも血にまみれ、まるで血の涙を流しているようだ。

 シドはそのペンダントを、霞みゆく視界の中で涙を流しながらジッと見つめている。


「す、すまない……俺は、キミと今を……生きて、いきかった……! 愛してるよ……アネーシャ……!!」


 シドの流したあまりにも悲しい涙。

 それが血まみれのペンダントに(こぼ)れて血を僅かに洗い流した時、シドはハッと目を見開いた。

 まるで、そこにハッキリと見えたからだ。

 満開の桜の花びらが舞い散る下で、彼女が嬉しそうに微笑む姿が。



 シド、これがサクラね。本当に綺麗っ……!


 ああ、ずっと一緒に見たかったんだ。愛してるよ。


 私もよシド。愛してるわ。


 ありがとう。今まで、ずっと待たせてごめんな。


 ううん、いいの。これからは一緒に今を生きましょ。


 そうだな。これからは、ずっと一緒に……



 シドの意識はそこで途切れ、微笑みながら永遠に瞳を閉じた。

 流れる涙を横に伝わせたまま……

 

◆◆◆


「これは……!」


 その頃、シドの帰りを待つ彼女の元に、一片の花びらが舞い落ちてきた。

 彼女にはそれがすぐに分かった。

 この花こそがシドの教えてくれたサクラだと。

 ハッとした彼女は、舞い落ちてくるその花びらを両手の平に乗せようとした。

 けれどその花は、彼女の手の中に舞い落ちた瞬間に消えてしまったのだ。


「えっ?」


 その時、彼女の心が直感した。

 今のは別れの挨拶だと。


「シドっ……!」


 理屈ではなく伝わってきたからだ。

 消えた花びらからシドの愛がハッキリと。

 彼女は消えた花を両手でギュッと握りしめながら、その場にドシャッと両膝をついてへたり込んだ。


「うっ……! ううううっ……! シ、シドっ……! あああああっ、ううううっ……! シドっ……! あああっ! シドっ……! シドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 彼女は嗚咽を漏らし泣き叫んでいる。

 シドに伝る事が出来なかった愛を、胸が張り裂ける悲しみと共に抱きしめながら。

 それを証明するかのように、彼女の涙の(しずく)はボタボタと地面に落ちると、まるで桜の花びらのように広がっていった……

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