ep:47 シドの愛と涙の桜
「ぐっ!!」
ノーティスはギリッと歯を食いしばり剣を押し返しているが、シドの剣に押され競り負ける寸前だ。
技の威力が凄いからだけではない。
シドから痛い程伝わってくるのだ。
魂から溢れ出ている、これまでの想いがヒシヒシと。
───シド、これが……キミの魂に込められた想いかっ! なんて、なんて気高く美しいんだ!! これに比べたら俺は……!
その光景を、レイ達も全身に力を込め心が軋む想いで見つめている。
また、兵士達の回復を終えて駆けつけたメティアもここに来ていた。
けれど、ノーティスとシドの間には誰も入っていけない。
凄まじい威力が溢れているだけではなく、邪魔してはいけない神聖な物がその場に満ちているからだ。
でもメティアは我慢出来ず、涙を滲ませ身を乗り出し叫ぶ。
「ノーティスーーーーーーーーーーーー!! 頑張れーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
その声援が、ノーティスの折れそうな心をスッと支えた。
───メティア……! そうだ。俺は、シドのように気高くはなれない。いつだって、泥と蔑みにまみれて生きてきた。でも、俺を支えてくれてる仲間達がいる。必要としてくれている人達がいる。そして、いつも俺の側で……
ノーティスの心に浮かんだ。
いつも側で支えてくれている、愛しいルミの笑顔が。
『ノーティス様、一緒にコスモティーを飲みましょう♪』
その笑顔が浮かんだ時、ノーティスはカッと目を見開いた。
「ォォオオオオオオオオオオッ!!」
「な、なんだとっ?! ノーティス、お前まだそれだけの力が……! だが俺は負けない!!」
シドは一瞬押された剣を再び押し返してゆく。
しかし、その時だった。
「シド、俺は全ての想いと力でキミを超えて進んでいく……! ウォォォオオオオオオ! 今こそ究極にまで輝け!! 俺の魔力クリスタルよーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
ノーティスの魂からの咆哮と共に、白輝の魔力クリスタルの色が変わっていったのだ。
「バ、バカなっ! この輝きはゴールド!!」
「シド、これが俺が師匠から授かった究極の力『ゴールド・クリスタル』だーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
「なんだとっ?!! これが奴の光か……! ならば、お前もろともこの剣で斬り決着をつける!! オオオオオオオオオオオオオオッ!!!」
ノーティスとシドは互いに全力で魂からの力を輝かせ、剣を押し合ってゆく。
そして、その激突する力が完全に限界を超えて膨れ上がり弾け飛んだ。
その瞬間、ノーティスとシドはガキインッ!! と、剣を振り抜き身体を交叉させて背中同士で向き合った。
二人は剣を振り抜いた姿勢のまま固まっている。
その周囲を数瞬の静寂が支配した。
ノーティスとシドはもちろん、他の皆もそうだ。
誰も口を言葉を発しない。
目を大きく見開いて、二人を見つめたまま固まっている。
だがその静寂を破ったのは、ノーティスの左肩からブシュゥウウウウウッ!! と、大きく噴き出す鮮血だった。
噴き出す血しぶきと共に、ノーティスに激痛が走る。
「うあっ!! ぐうっ……!」
ノーティスは思わず片手で肩を押さえ、その場にドシャッと跪いた。
シドの桜神滅牙が掠め、左胸の上部から肩を斬り裂いていたのだ。
噴き出す鮮血が、ノーティスの頭から足元に血しぶきをまき散らす。
鮮血を浴びながら、ノーティスは剣を地面に刺して跪き、苦しそうな顔で息を切らしている。
「ハアッ……! ハアッ……! シド……!」
勝ったのはシドなのか?!
皆がそう思った瞬間、シドの胸が斜め下から大きく裂け、バシュウウウウウウウッ!! と、鮮血が大きく噴き出した。
「ぐはあっ……!!!」
ノーティスのテオス・フォース・スラッシュが、シドの胸を斜め下から上に大きく斬り裂いていたからだ。
大量の鮮血が、シドの足元にあっという間に大きな血だまりを作ってゆく。
シドはその血だまりの中に、前から崩れ落ちるようにドシャッ! と、倒れていった。
目が霞み意識が薄れてゆく。
───もう、助からないな。これで終わりか……だが……
自らの敗北とこれから死ぬ事を悟ったシドは、血だまりの中に倒れたままググッと上半身を浮かせた。
最後の力を必死に振り絞る。
「う、ああっ……! ぐっ……!」
シドは血まみれの手を震えさせながら、胸のペンダントを片手で掴んだ。
ペンダントも血にまみれ、まるで血の涙を流しているようだ。
シドはそのペンダントを、霞みゆく視界の中で涙を流しながらジッと見つめている。
「す、すまない……俺は、キミと今を……生きて、いきかった……! 愛してるよ……アネーシャ……!!」
シドの流したあまりにも悲しい涙。
それが血まみれのペンダントに零れて血を僅かに洗い流した時、シドはハッと目を見開いた。
まるで、そこにハッキリと見えたからだ。
満開の桜の花びらが舞い散る下で、彼女が嬉しそうに微笑む姿が。
シド、これがサクラね。本当に綺麗っ……!
ああ、ずっと一緒に見たかったんだ。愛してるよ。
私もよシド。愛してるわ。
ありがとう。今まで、ずっと待たせてごめんな。
ううん、いいの。これからは一緒に今を生きましょ。
そうだな。これからは、ずっと一緒に……
シドの意識はそこで途切れ、微笑みながら永遠に瞳を閉じた。
流れる涙を横に伝わせたまま……
◆◆◆
「これは……!」
その頃、シドの帰りを待つ彼女の元に、一片の花びらが舞い落ちてきた。
彼女にはそれがすぐに分かった。
この花こそがシドの教えてくれたサクラだと。
ハッとした彼女は、舞い落ちてくるその花びらを両手の平に乗せようとした。
けれどその花は、彼女の手の中に舞い落ちた瞬間に消えてしまったのだ。
「えっ?」
その時、彼女の心が直感した。
今のは別れの挨拶だと。
「シドっ……!」
理屈ではなく伝わってきたからだ。
消えた花びらからシドの愛がハッキリと。
彼女は消えた花を両手でギュッと握りしめながら、その場にドシャッと両膝をついてへたり込んだ。
「うっ……! ううううっ……! シ、シドっ……! あああああっ、ううううっ……! シドっ……! あああっ! シドっ……! シドーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
彼女は嗚咽を漏らし泣き叫んでいる。
シドに伝る事が出来なかった愛を、胸が張り裂ける悲しみと共に抱きしめながら。
それを証明するかのように、彼女の涙の雫はボタボタと地面に落ちると、まるで桜の花びらのように広がっていった……




