ep:46 心に浮かぶ大切な人
「大丈夫かな……ノーティス様……」
ノーティスとシドが互いに全力で向き合っている頃、ルミは窓辺からチラッと外を見ていた。
外は雨がシトシト降っていて、灰色の雨雲がレンガ造りの街を覆っている。
傘を差して歩いている人達は老若男女様々だ。
その光景を見ていると、窓の外にある木の枝から青い小鳥がチチチッ……! と、羽ばたいた。
「あっ……」
それを静かに見つめていると、部屋のドアがコンコン……! と、ノックされてエレナが入ってきた。
紅茶とお菓子の乗ったトレイを両手で持っている。
ちなみに、トレイは円形。
ニケのデザインが施された金色のトレイだ。
「お姉ちゃん、これ一緒に食べよっ♪」
「わぁっ、エレナありがとう!」
「エヘッ♪ お姉ちゃんの好きな『ローリング・バームクーヘン』と『ユニコーン・ドロップ』持ってきたよ」
「嬉しいっ♪ この組み合わせいいよね~~~紅茶によく合うし」
「うんっ♪ ユニコーンをジャブジャブっとして、バラバラにしちゃおっ!」
「へっ? ん?」
「ギャラクシーだよお姉ちゃん♪」
「は、はぁ……?」
そんなこんなで、ルミとエレナは紅茶を飲みながら、美味しそうにお菓子を食べ始めた。
ちなみに、紅茶はエレナが淹れたコスモティー。
「エレナ、ありがとう♪ お菓子も紅茶も美味しいよっ」
「よかったぁ、お姉ちゃん元気になってくれて♪」
嬉しそうなルミを優しく見つめていたエレナは、しばらくすると、紅茶のカップをソーサーにそっと置いて軽く微笑んだ。
「きっと大丈夫だよ」
「えっ?」
「心配してたんでしょ。ノーティスの事」
「エレナ……!」
突然言われてちょっと驚いたが、ルミは紅茶のカップをソーサーにスッと置いて軽くうつむいた。
雨雲のせいもあり、ルミの背中に灰色の影が差し込んでるように見える。
「うん、そうね。ノーティス様とは、ずっと一緒にいたから余計にね……」
ルミはそう零しながら、この前の事を思い出していた。
ノーティスの出立前日に、思いっきり泣きじゃくってしまった事を。
それを優しく包むかのような眼差しで、エレナはルミを見つめている。
「だよね。でも、きっとすぐに元気で戻ってくるよ」
「うん、そうだよね……ただ、今回は敵方に凄く強い人がいるって聞いたから……」
聡明なルミは分かっていた。
ノーティスが派遣されるという事は、それだけ相手が強いからだと。
それに、想像力も豊かだから色々と考えてしまうのだ。
心配な気持ちが、どうしても顔に出てしまう。
エレナはそれを見つめたまま、優しくニコッと微笑んだ。
「お姉ちゃん、ノーティスが今までピンチにはなっても、負けた事はある?」
「エレナ……!」
サッと顔を上げたルミを、エレナは力強い笑みを浮かべたまま見つめている。
「だよね♪ だから大丈夫。それに約束したんでしょ。必ず無事に帰ってくるって」
「うんっ……!」
ルミの脳裏に、あの時の事がハッキリと映し出された。
『分かったよ。じゃあ……戻ってからまた一緒に飲もう。ルミのコスモティーを』
『はいっ……! 約束ですよ。ノーティス様』
『あぁ、約束だルミ』
それを思い返したルミは心でそっとエールを送る。
心から愛しいノーティスに。
───ノーティス様、早く一緒に紅茶を飲みましょう。待ってますから……!
◆◆◆
その頃、シドと向かい合っていたノーティスの心にルミの事がフト浮かんだ。
───ルミ、元気にしてるかな。すまないが、俺はキミと紅茶を飲めないかもしれない……
ノーティスの額を冷汗がツーっと伝う。
それを見たシドは、心を見透かしたかのように問いかけてきた。
「ノーティス、何を考えている」
「……故郷にいる、俺の大切な女さ」
「そうか。この期に及んで女の心配とはな」
「シド……でも、キミにもいるだろう。大切な人が」
ノーティスに静かに告げられたシドの脳裏に浮かぶ。
愛する彼女の事が。
『今、キミが、サクラの木の下にいるように見えたよ』
『えっ、私もよシド。さっき、アナタがサクラの木の下にいるように見えたの』
『俺はこの遠征から帰って、キミと今を生きる……!』
『うん……! 待ってるからね。シド……!』
それを思い返したシドは、抜刀術の構えを取りながら胸のペンダントの温かさを感じていた。
『よかった……♪ 違うのかなと思ったけど、想像して作ってみたの。早くアナタとサクラを見たくて』
彼女の美しく儚げな優しい笑顔が浮かぶと同時に、シドの心に大切な人への想いが沁みてゆく。
それは、シドが唯一愛する彼女の事だ。
───俺はここで決着をつけて、キミと……今を生きていく!
シドは全身から立ち昇る気高い銀色のオーラを、より強く大きく立ち昇らせた。
もちろん、ノーティスも同じだ。
全身に纏う額の魔力クリスタルから放たれる白輝の光を、より強く大きく滾らせている。
「シド、俺は全力でキミと決着をつける。ただ、本当はキミと友になりたかった……!」
「ノーティス、先にも言った通り戦場に情けは無用。だが、もし許されるのなら……俺もお前とは友でいたかった……!!」
「シドっ!!」
ノーティスの瞳に涙が滲んだ瞬間、シドは精悍な瞳にキッと力を込め、凄まじいスピードで真っすぐ跳びかかった。
「いくぞノーティス!! オオオオオオオオオオッ!!!」
「シドっ!! ハアアアアアアアアッ!!!」
二人の突進スピードは互角。
抜刀の速度はシドが僅かに上だった。
「ティターン・終乃牙『桜神滅牙』!!!」
シドの鞘から素早く抜かれた剣が巨大な銀色に光る刃と化し、ノーティスに襲いかかる。
だが、ノーティスは空中で横に回転し、その勢いで抜刀術を繰り出した。
「俺の全てて答える! 『テオス・フォース・スラ――――――――――――ッシュ』!!!」
白輝の光を纏った巨大な白刃の剣が、空中での回転力を加えシドに振り向かう。
威力はノーティスの方が上。
周りで見ているレイ達はそう思ったが、その剣同士がガキインッ!!! と、ぶつかるとシドがノーティスをググッと押していった。
周囲の皆が、なぜ?! と、驚愕し見つめる中、ノーティスと激しい鍔迫り合いをしているシドの銀色の闘気に、桜色の闘気が混じってゆく。
「こ、これはっ……!」
「ノーティス、これは俺達の心の花の力……!!」
「サクラ……?!」
「そうだ。だが、それだけではない。先に言った通り俺はお前の剣筋を見切っている。ノーティス、これで……終わりだっ!!」




