ep:45 心に問いかけるシドとノーティス
「なんだとっ?!」
シドが大きく目を見開く中、レイ達も同じくノーティスを見つめている。
今、ノーティスシドにが言った事は、あまりにも危険すぎる事だからだ。
けれどノーティスの表情は変わらない。
決意に満ち、澄んだ瞳でシドを見つめている。
「シド、俺達が戦う理由はもうなくなる。ユグドラシル自体は返せなくても、魔力の供給を出来るようにすればいい」
「ノーティス、お前は何を言ってるか分かってるのか?! そんな事をしようとすれば……」
「あぁ、下手したらなるだろうな。教皇から『国家反逆者』の烙印を押される事に……!」
その言葉にレイ達が何も言葉が出ない中、シドはギリッと顔をしかめ身を乗り出した。
「なぜだ……なぜそこまでするっ! 俺はお前の敵であり、全力で殺そうとしてるんだぞ!」
謎めき憤るシドを見つめたまま、ノーティスは力強く微笑んだ。
「シド、俺はキミと友として過ごしていきたい」
「と、友だと?! バカな。何を……」
「感じるからだよシド。確かに今は敵だけど、キミから気高く立ち昇る戦士の誇りが……!」
「ノーティス、お前……!」
シドも逆に感じていた。
ノーティスは確かに敵ではあるが決して邪悪ではなく、誰よりも強く優しく澄んだ戦士の誇りを持つ勇者である事をだ。
「それにシド、きっと師匠も同じ事を思っていたハズだ。キミの偉大なお父さんであるサガと、敵としてでなく友として肩を並べたいと……!」
そう告げられた瞬間、シドの脳裏に昔サガから教えてもらった事が蘇った。
『父さんは、なんでいつも真正面から戦うの?』
『ん?』
『だって、アイツら悪い奴らなんだからもっと別の方法でも……』
『まあ、そうだな。でもなシド、悪い奴らでも友や家族や恋人がいる』
『それは、そうだけど……』
『相手を斬るって事は、相手の事を愛する人達から奪うって事なんだ。分かるか』
『うん……』
『だから、父さんは真正面から戦うんだ。それが戦士の誇りだから』
『戦士の誇り?』
『そうだ。それが戦う者には何よりも必要なんだ。けどな……』
『けど、なぁに?』
『一番いいのは、そんな物なくてもいい世界だ』
『えっ?』
『敵として斬り合うより、友として肩を並べた方が人生は遥かに楽しく豊かになるからな。けど、今の戦乱の世は皮肉だ』
『どういうこと?』
『そういう相手とは、きっと戦場で出会うからだ。分かり合えたとしても斬らなきゃいけない』
『だったら、そこで斬り合うのを辞めたらいいんだよ!』
『確かにそうだが、互いに剣を向けてる状態でそれは中々厳しい。先に剣を下げた方が斬られるからな』
『そうかぁ……』
『ただシド。もし激闘の中でそれを願い、お前の前で先に剣を下げる相手が現れたら……そいつは本物の勇者だ』
幼き頃に話した事を思い返たシドはスッと瞳を閉じ、心でサガに問いかけていた。
───父さん……ノーティスは本物の勇者なの? だとしたら、アルカナートは卑怯な手で父さんを殺してないの?
シドの心の中で、サガは力強く微笑んだ。
───父さんっ……!
けれど同時に浮かんでくる。
これまでスマート・ミレニアムに蹂躙されてきた歴史と、それにより目の前で泣き崩れてきた多くの人々の悲痛な叫び。
また、父の無念を晴らそうと修行してきた日々。
そして、咲かなくなった桜とキースの涙に濡れた最後の顔が。
それらが浮かんだ時、シドは目を開きノーティスをキッと睨んだ。
「ノーティス、戯言の時間はもう終わりだ」
「シド?!」
心が通じなかった哀しみにノーティスは目を見開いた。
そんなノーティスの前で、シドの身体から気高い銀色の闘気が大きく立ち昇ってゆく。
「ここは戦場だ。敵に情けなど無用!」
「違うシド! 俺達は友になるべきなんだ!」
「……本当になれると思っているのか?」
「もちろんだ! 俺とキミなら……」
「無理だ! 俺もお前も背負ってきている物は決して捨てれん。お前の言う通り、それが本物であるならばな……!」
シドは両手で剣先を右斜め上に向け、額の前でジャキッと構えた。
もう、シドの表情に迷いは無い。
またそれは同時に、完全なる決裂を意味する。
「ノーティス、俺達の決着はこれでしかあり得ないんだ。いくぞっ……!!」
シドは剣を横に構えたまま、ノーティス目掛けて真っ直ぐ飛びかかった。
こうなれば、ノーティスも戦うしかない。
哀しさに身を震わせながらも、白輝の力を滾らせ迎え撃つ。
「くっ、シド……俺も負ける訳にはいかなんだっ!!」
哀しみを乗り越え、ノーティスもシドに真っすぐ跳び向かった。
二人はそこから激しい乱打戦を繰り広げてゆく。
そして、互いを見据えたまま後ろに飛び退くと、必殺技の構えを取った。
「数多の流星よ! 今こそ一つになり彗星と化せ!! 『バーン・コミュテクス・フォーーーーーーーーーーース』!!!」
「精霊と古からの神々よ! 敵を討つ銀牙の力を示せ!! ケトゥス・二乃牙! 『神狼光牙』!!!」
ノーティスの剣から放たれた彗星のような白輝の斬撃と、シドの剣から放たれた銀色の狼が牙を向くかような斬撃が中間で激突した。
白銀の輝きが周囲をバチバチバチバチンッ!!! と、激しく照らす。
「シド、どうしても分かり合う事はできないのかっ……!」
「ノーティス、戦場で情けは無用と言ったハズだ。クールに徹しろ……!」
「くっ……オオオオオオオオオッ!!」
「……ハアアアアアアアアッ!!」
二人がそのまま技を押し合うと、白銀の光は限界を超え中間でバシュンッ!! と、大きく弾けて消し飛んだ。
周囲に激しい衝撃波と砂塵が巻き起こり、それを見ていたレイ達は咄嗟に片腕を上げてガードした。
「うっ……! なんて威力なの」
「やっべぇな、アイツら……!」
「ニャニャッ! あ奴ら力は完全に互角ニャ……!」
その衝撃波が去り砂塵が晴れてゆく中、ノーティスとシドは互いに息を切らしながら見つめている。
「ハアッ……! ハアッ……! シド……!」
「ハアッ……! ハアッ……! ノーティス……!」
「シド、キミの力にはずっと驚かされてる。でも、もう終わりにしよう! 俺は必ず教皇を説き伏せる」
「あぁ、終わりにしてやるさ。俺の最高の技でな……!」
「シド……! どうしても、やるのか」
ノーティスは悔しさと共にグッと瞳を閉じた。
───師匠……貴方も同じ気持ちだったんですか……!
その時ノーティスの心の中で、アルカナートはニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
ノーティスの気持を全て見透かし、肯定しているかのようだ。
その笑みを受けた時、ノーティスの心が決まった。
───師匠……!
もう、何があろうと決して迷わない。
ノーティスはスッと瞳を開き、シドを見つめたまま抜刀術の構えを取った。
魔力クリスタルから溢れ出している白輝のオーラを全身に纏い、それが大きく立ち昇る。
「シド、俺はキミの想いに全力で応える……!」
「そうだノーティス。それでいい……!」
シドも抜刀術の構えを取りノーティスを見据えたまま、全身から銀色の闘気を滾らせてゆく。
ノーティスとシドから立ち昇る、絶大なエネルギーに満ちたオーラの輝き。
それが互いを照らしてゆくのを、レイ達はジッと見つめている。
今は見守る事しか出来ない。
そんな中、ノーティスはシドと向き合いながら感じていた。
シドから立ち昇る絶大なオーラ。
そこに微かに混じる、儚げな想いを……




