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ブレイキング・クリスタル ─光と闇の呪宝戦記─  作者: ジュン・ガリアーノ
cys-5 宿命のライバル! 銀色の勇者シド
43/71

ep:43 ノーティスの復活と本物の光

「くっ……!」


 シドの刃が頭上に迫る中、レイはギュッと目を閉じ思い返していた。

 まるで、走馬灯のように……


 レイの絶大な魔力と圧倒的美貌、それに加えての勝ち気な性格とプライド。

 どれもレイを表す物であり、周りからはいつも恐れと憧れの混じる羨望の眼差しを向けられていた。

 幼い頃からずっとだ。


『生まれながらにして天才』

『誰もがひれ伏す美しさ』

『高いプライドと華美なオーラ』


 これだけあれば、さぞや幸せであるに違いない。

 誰もがそう思っていたが、レイ自身は全くそうではなかった。

 むしろ不安だった。

 圧倒的な魔力も美しさも、それにより生まれている華美なオーラも永遠ではない。

 歳と共に朽ちていくからだ。

 むしろ、最初にそれがあっただけ失う恐怖は計り知れない。


───いつか、誰にも見向きされなくなる……


 誰にも言わないし決して見せないが、レイは日々それに怯て生きていた。

 けれど、そんな日々の中で出会ったのだ。

 それらにまるで見向きもしないアルカナートに。

 レイは夢中になった。

 アルカナートは、ありのままのレイを見ていてくれたからだ。

 ただ、レイは分かっていた。

 だからこそ自分には無理である事をだ。


───それに知ってるわ。この人にはナターシャ(忘れられないひと)がいるのを……


 切なく激しいレイの恋。

 ただ、アルカナートが突然自分の前からいなくなり、諦めと共に恋が憧れに変わりつつある頃にレイは出会った。

 昔アルカナートから問いかけられた答えを、これ以上ない方法で伝えてくれた男『エデン・ノーティス』に。 


───ノーティス(かれ)こそ私の運命の相手!


 レイはそう確信したが、その『運命』は決して結ばれる運命ではなかった。

 ノーティスはルミを愛しているからだ。

 しかも、本人は自覚に乏しいのがより腹立たしい。

 でも、だからこそレイは心に誓ったのだ。

 報われなくてもノーティスを全力で愛すると。

 自分ではどうにも出来ない皮肉な運命に全力で立ち向かう為に、レイは全力で愛を貫いてきた。


───でも、結局最後まで勝てなかったわ……


 レイはギュッとつぶった瞳から涙を流した。

 死ぬからでも、ましてやシドに斬られるのが恐ろしいからではない。

 その身ごと斬り裂かれ『愛していけなくなるという結末』が、たまらなく悲しくて悔しいのだ。


───ノーティス……私はアナタを愛したまま死ぬわ!


 しかし、その無惨な結末は直前で消え去った。

 誰よりも澄んだ精悍な声と、白く神々しい一筋の閃光によって。


「『エッジ・スラッシュ』!!!」


 その閃光に剣を弾かれたシドは体を大きくよろめかせると、ギリッと顔をしかめた。


「ノ、ノーティス! お前なぜっ……!」


 シドは不可解な気持ちのまま、ノーティスを強く見つめている。

 今こうして自分の前に立っている事が、シドには信じられない。

 ついさっきまで、ノーティスの瞳からは完全に光が消えていたからだ。


───だが、今の奴の力は……!


 ギリッと歯を食いしばるシド。

 それとは逆に、レイは瞳に涙を浮かべ震えて見つめている。

 風にマントを(なび)かせているノーティスの背中を。


「ううっ……! ノーティス……!!」


 レイは嬉しくて仕方がない。

 もちろん、ノーティスの服は破けて傷だらけになっている。

 けれと、そこから立ち昇っている強く精悍なオーラをハッキリと感じるからだ。

 その涙声の方にノーティスはスッと振り向いた。

 キースから受けた攻撃でボロボロになり、勝気な瞳に涙を溢れさせているレイの姿が瞳に映る。


「レイ……」


 それを静かに見つめたノーティスは、心で感じた。

 レイがどんな想いでここまで戦ってきたのかを。

 なので多くは語らない。

 金色の刺繍が入った白いロングジャケットを脱ぎ、そっとレイに被せた。


「エロすぎだ。刺激が強すぎる」

「なっ、なに言ってんのよ! こんな時に……!」


 顔を真っ赤に火照らせたレイに、ノーティスはニコッと微笑んだ。


「フッ、やっとらしくなったな」

「ノーティス、アナタ……!」


 レイはハッとした瞳でノーティスを見つめた。

 今とは真逆のやり方だが、ノーティスが自分の心を覚醒めさせてくれたあの日の光景が脳裏に浮かんだからだ。

 その事に思いを巡らせたながらノーティスを見つめたまま、レイは華美な笑みを浮かべた。


「フフッ♪ それはノーティス、アナタの方でしょ」

「そうだなレイ。キミにはいつも、目を醒まさせてもらってばかりだよ」


 優しさと力強さに満ちたノーティスを、レイは黙って見つめている。

 なんで復活したかなんて尋かなくていい。

 その姿だけで全て分かるからだ。

 もちろん、ノーティスもそれは同じ。

 レイがここまで、どんな想いで戦ってきたのかをわかっている。

 言葉などいらない。

 だから、レイを一瞬ギュッと抱きしめた。


「レイ……」


 突然抱きつかれたレイは、思わずウルッと涙しそうになってしまった。

 心から込み上げてくるあまりの嬉しさと愛しさに、胸が温かくなる。

 けれど、ノーティスがその先の言葉を言うのは許さない。

 軽くうつむきながら両手でスッと体を離した。

 

「ダメよノーティス……」


 レイは小さく震えながら切なく(こぼ)すと、顔を上げ胸を張った。

 これはレイの矜持であり、強さと美しさの源に他ならない。


「いいわね、必ず勝ちなさい。()()()()から」


 レイの全身からは華美で凛としたオーラが立ち昇っている。

 その姿を見つめると、ノーティスは力強く微笑んだ。

 

「ああレイ、必ず勝つよ」


 ノーティスはそう答えるとクルッと背を向け、そのまま告げる。


「俺は、キミの想いを抱いてるから」


 破けたマントが風に揺れる。

 その背中をレイが見つめる中、ノーティスはシドに向かい両手でジャキッと剣を構えた。

 斜め上を向いてる剣が静かに煌めいている。


「シド、俺はもう迷わない」

「なんだと?」


 軽く顔をしかめたシドに向かい合いながら、ノーティスは剣の柄をギュッと握った。


「もちろん、キミの言った事が嘘だとは思っていない。俺には分かる。ユグドラシルが……本当は元々キミ達の物だったって……」

「そうか……ならばなぜ戦う。それを隠蔽し、偽りの歴史で塗り固めている国の為に!」


 シドの言葉が、ノーティスだけでなく皆の心に響いてくる。

 それにより、皆哀しく瞳を落とした。

 皆も、もう分かっているからだ。

 シドの言葉が本当であり、自分達が今まで国に騙されてきた事を。

 けれど、ノーティスは決して瞳を逸らさない。


「本物だから……」

「本物だと? ノーティス、キサマ何を言っている」


 訝しむ顔をしたシドを前に、ノーティスの白輝(びゃっき)のオーラが揺らめく。

 ノーティスに、もう迷いは無い。

 胸を張ってシドに言い放つ。


「たとえ真実の歴史がそうだったとしても、俺とみんなの光は偽りなんかじゃない!」

「なっ……?!」

「この光でみんなと一緒に戦ってきた道は……紛れもなく本物なんだ!!」


 その言葉がレイ達の心に一瞬で光を射し、顔を上げてノーティスを凛々しく見つめた。


「やっぱりアナタは最高の男よ」

「ったく……敵わねぇな、ちくしょう」

「ニャッハー♪ やはり勇者じゃのう」


 レイ達が感嘆の声を漏らし見つめているが、シドはギリッと歯を食いしばっている。


「ノーティス、お前っ……!」


 シドには許せないのだ。

 ノーティス達がした事ではないとはいえ、スマート・ミレニアムは自分達からユグドラシルを奪い蹂躙してきた。

 そして、クリスタルタワーから放たれる新エネルギーの影響により、自然や精霊達も傷ついている。

 もちろん、それだけではない。

 彼らに大切な父親を卑怯な手で殺され、親友のキースも殺された。

 それなのにノーティスが自分達を肯定するのは、シドにとって最大の屈辱に他ならない。


「ふざけるな……」


 少なくともシドにとってはそれが真実。

 その想いと共に、シドは全身をブルブルと震わせている。


「ふざけるなよノーティス!!」


 シドはノーティスに片手で剣先をビュッと突きつけた。


「これまで歩んできた道が本物である事は、俺達も同じだっ!」

「シドっ……!」

「ならば、お前のそれごと斬り裂くまで!!」


 切なく激しい怒りを全身に(たぎ)らせシドはダッ! と、ノーティスに跳び向かった。


「オオオオオオオッ!」


 シドが斜め上段から振り下ろした剣をノーティスが顔をしかめながら受け止め、ガキインッ!! と、いう激しい金属音が周囲に響き渡る。


「くっ! シド」

「どうしたノーティス、見せてみろ。お前がいう本物を!」

「……どうしても、やるしかないのか」

「当然だ。俺達は決して相容れない運命(さだめ)なのだからな!」


 そこからノーティスとシドの激しい討ち合いが始まった。

 二人の速さと激突する剣の威力に、他の皆は誰も入っていけない。

 ただ、勝利を信じて見つめるだけだ。

 その眼差しの中、ノーティスは剣を突きの形に構えた。


「ハァアアアアア! 貫け! 『エッジ・スラッシュ』!!!」


 一筋の閃光と化し、シドに向かいとてつもない速さで突き進む。

 だが、シドにそれをサッと躱されズザァァ! と、前に足を滑らせた。


「なっ?! 完全に(かわ)された!」


 ハッと目を見開き後ろを振り向いた瞬間、ノーティスは背中をシドからザシュ!! と、斬りつけられてしまった。


「うあっ!!」


 間一髪身体を逸らし致命傷は免れたものの、マントと金の刺繍が入った白のロングジャケットの裂け目から、鮮血がバッ! と、噴き出す。

 ノーティスはその激痛に耐えながら素早く振り返り、ハアッ……! ハアッ……! と、息を切らしながら剣を構えた。

 その姿をシドは片手で剣を斜め下に向けたまま、キッと据えた瞳で見つめている。


「ノーティス、その技は何度も見せてもらった。もはや俺には通用しないっ!」

「くっ、だったら……!」


 苦しそうに顔をしかめるノーティスの前で、シドは剣の柄をギュッと握った。


「だが、他の技も同様だ。お前の剣筋は見切っている」

「なんだとシド……!」


 ノーティスは、息を切らしながら謎めいた顔を浮かべた。

 シドが決してハッタリをいう男でないのを分かっているからだ。

 きっとシドがああ言った以上、他の技も躱される可能性が高いだろう。

 逆にノーティスはシドの技を見切ってはいない。

 

───どうしたらいい……! だが、そもそもなぜシドはあんな事を……


 その事にノーティスが思いを巡らす中、シドの身体は怒りで小刻みに震えている。


「何度も、何度も見てきた……」

「どういう事だ……!」

「目に焼き付いて離れないのさ……! 俺の父さんを惨殺したお前の師『イデア・アルカナート』の剣筋がなっ!」

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