ep:42 レイの愛とシドの慟哭
「なんだと?!」
キースは訝しむ顔を浮かべた。
それを見つめるボロボロの姿のレイから、静かに立ち昇ってきている。
燃え上がるような強大な魔力が。
レイはその魔力を立ち昇らせたまま、キースに告げてゆく。
「本命から愛されない? そんなの昔からよ……」
脳裏にアルカナートとの日々を蘇らせながら、レイはキースを見つめている。
また、ノーティスの気持ちも分かっている。
あれから何度も分かりやすくアプローチしているのに靡かないし、そのくせルミの事になるとすぐに顔色を変えるからだ。
「けど、それがなんだって言うの……愛は、そんなの関係ないわ!」
「なっ、なんだと?!」
ハッと目を見開いたキースの前で、レイの魔力がより大きく燃え上がってゆく。
「たとえノーティスが振り向いてくれなくても、私の愛は変わらない。それが……私の愛し方だから!」
「バ、バカなっ……!」
キースは思わずたじろいでしまった。
今の言葉に込められた決意は決して砕けない事を、ヒシヒシと感じるからだ。
また、レイの全身から立ち昇る熱く燃え盛るオーラが形作ってゆく。
たじろぐキースを真っ赤に照らしながら。
「あ、あれは……不死鳥!」
ドラゴン・フォースの構えを取ったままたじろぐキースを、レイは華美な瞳で見つめている。
「アナタに教えてあげるわ。本当の愛と……その強さを!!」
レイはスッと両手を掲げて、スラリとした両足を交叉させた。
華美な瞳と頭上に煌めく不死鳥と共に。
その姿をキースはギリッと睨みつけている。
「おのれっ……! 魔性の女が愛だと?! ふざけるなっ!」
キースの脳裏に浮かぶ。
愛する女の姿が。
それは決して想いを告げてはならぬ相手。
「愛は……愛はキサマのような女が口にしていい物ではないのだ!!」
切ない怒りと共にキースのドラゴン・フォースの力が膨れ上がり、レイを激しく照らす。
しかし、レイも負けてはいない。
「言ってくれるじゃない……けど、私の愛は私が決めるの! アンタなんかに決めさせないわ!!」
レイの瞳が華美に煌めく。
キースはそれを完全に否定する眼差しで、強く睨みつけている。
「ほざくな魔性の女め! 消え去れっ!! 『ドラゴン・フォーーーーーーーーース』!!!」
振り下ろしたキースの両手から、全力のドラゴン・フォースが放たれた。
全てを食い破る勢いの、白く輝くドラゴンがレイに襲いかかる。
同時にレイも両手を振り下ろし交叉させた。
「絶対に消えないっ! 私は自分の愛をどこまでも貫くわ!! 『ディケオ・フレアニクスーーーーーーーーー』!!!」
キースの白く輝くドラゴンに、レイの不死鳥が飛び向かう。
その二つがドガアアアアン!!! と、中間で激突し激しく押し合ってゆく。
周囲が赤白の光で大きく輝く。
「オォォォォオオッ……!!」
「ハァァァァアアッ……!!」
キースとレイは互いにブルブルと腕を食いしばり、ギリッと顔をしかめ全力で技を放ち続けている。
「キ、キサマのどこにこんな力がっ……!」
「あ、当たり前でしょ……女はね、愛でどこまでも強くなれるんだから!」
レイの不死鳥がキースのドラゴンをググッ……! と、押していく。
だが、キースも簡単にやられはしない。
心に大切な想いがあるからだ。
「み、認めぬ……! キサマのような魔性の女が愛などと……!」
ギリッと顔をしかめるキース。
それ見つめたまま、レイは腕を震わせながらも妖しく微笑んだ。
「アナタ……本当に、分かってないわね……!」
「な、なん……だと!」
「愛は、どこまでも気高く自由なの。だから……私は絶対に退かない! この愛を……究極に高めてみせるわ!」
レイのアクアマリンの魔力クリスタルがより強く鮮やかに、そして華美に煌めいてゆく。
その輝きは止まらない。
「いくら強くても、人の愛を否定するアナタに私は負けないっ!! ハアアアアアアアッ!!!」
レイはありったけの力で魔力を放出した。
不死鳥の炎が限りなく滾り、アクアマリンの煌めきを内側から溢れさせてゆく。
「ぐっ! こ、こんな奴に……!!」
キースは必死に力を込めている。
だがドラゴンは完全に押し返され、レイの不死鳥にかき消された。
燃え盛る不死鳥が、アクアマリンの輝きと共にキースを直撃する。
「ぐわぁああああああっ!!」
大きく上空に吹き飛ばされたキースは魔導服も消滅し、その下に着込んでいた鎧も砕け散った。
「ガハッ!!」
地面に叩きつけられ血ヘドを吐いたキースを、レイはハアッ……! ハアッ……! ハアッ……! と、激しく息をつきながら見つめている。
だが完全に力尽き、その場にガタッと跪いてしまった。
「うっ……! くっ……」
何とか勝利したものの、レイは苦しく顔をしかめている。
全身ボロボロで魔力も体力も使い切り、もう動く事が出来ない。
倒れているキースを見つめるだけだ。
その光景を見たシドは血相を変えダッ! と、キースの下へ駆け出した。
「キーーーーーーーーーーーーーーース!!!」
シドはキースの下へ駆けつけるとガシッと抱きしめ、悲壮な顔で必死に呼びかけている。
「キース! しっかりするんだキース!!」
「うっ……シ、シドか……」
瀕死のキースには、もはやシドの姿もハッキリとは見えていない。
もはや、その命は風前の灯だ。
「す、すまん……とんだ失態を、さらして、しまった……」
「もう喋るなキース! まだ助かる!! 俺を見ろっ!!」
シドが必死に呼びかける中、キースの脳裏に浮かぶ。
キースの最愛の女が、シドをずっと想い続け見守っている姿が。
───結局、最後まで告げる事はなかったが……それで、いい……シド、お前になら……
心で哀しく笑みを浮かべたキースは、霞む視界の中でシドに片手を震えながら伸ばした。
頬を横に伝う涙と共に。
「シド……アイツを大切に、しろよ……」
「キースっ……! 分かってる。分かってるから!」
「……次に、生まれ変わったら……三人で、見よう……サクラを……」
キースはニコッと笑みを浮かべると、スッと瞳を閉じてガクッと首を横に落とした。
その瞬間、シドはより大きな声でキースを呼びかける。
「キース!! 目を覚ませキース!!!」
けれど、キースもう二度と覚醒めない。
「キース……キーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーース!!!!!」
シドはキースを胸に抱えたまま、上を向いて張り裂けそうな声で叫んだ。
血の混じった砂塵の舞う戦場に、シドの慟哭の叫びが空を切り裂くように響き渡る。
「うわあああああああああっ!!! キース!! キースーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」
喉が枯れるどころではない。
シドは喉が裂けてしまうぐらい泣き叫んだ。
キースはシドにとって無二の親友。
今まで苦楽をずっと共に過ごしてきた。
そのキースが殺された事は、シドにとってあまりにも耐え難い。
しばらく泣き続けたシドは、涙の乾かぬ瞳を一瞬ギュッとつぶるとレイを刺し殺すようにギリッ! と、睨みつけた。
「キサマっ……!! よくも、よくも俺の親友を……!!」
シドの全身から、深い悲しみと激しい怒りのこもった銀色の闘気が立ち昇っていく。
まるで、その身を焦がすかのようだ。
その瞳と姿に当てられたレイは、体の震えが止まらない。
苦しさに顔をしかめながら震えている。
嫌でも感じてしまうからだ。
今からシドに確実に殺されてしまう事を。
「うっ、ううっ……!」
だがその時、ジークが少し離れた場所からハルバードを振りかぶりシドに飛びかかってきた。
怒りに目を血走らせながらシドを狙う。
「レイは殺させねえっ!! うらあああああっ!!!」
「ジーク!」
レイはハッと振り向いたがシドは動じない。
無言のまま銀色の刃を飛ばし、ジークを一撃で吹き飛ばした。
「ぐおおおおおおっ!!」
ジークは咄嗟にハルバードを盾にして、致命傷は防いだ。
しかし、大きなダメージを受けてしまった。
全身に凄まじい痛みが走っている。
元々フェンリルとの戦いでダメージを負っているジークに、今の一撃は重い。
けれど、ジークはグッと上半身を起こして苦しそうにシドを睨んだ。
「な、なんて強さだよ。くそったれが……」
「ジーク、しっかりするニャ! お、お主……!」
そんな中、アンリは目を見開き見つめている。
背中からドロドロ血を流しているジークの背中を。
シドはその光景を怒りの眼差しで見つめた。
「舐めるなよ。いくら王宮魔道士といえど、フェンリルに深手を負わされた体で、この俺に勝てるハズがないだろう……!」
ジークはフェンリルに背中を爪で引き裂かれても、レイを助ける為にそのまま駆けてきたのだ。
しかし、それでもレイを助けられなかった。
その悔しさに全身が震えるが、ジークはもう立つ事が出来ない。
「くそっ! う、動きやがれ……俺の体っ!!」
シドはそれを数旬の間見据えると、ジーク達にクルッと背を向けた。
「悔しがる事はない。すぐに送ってやる……この女と同じ場所にな」
静かにそう告げると、シドはレイを再びギリッと睨んだ。
精悍な瞳に、激しい怒りの炎がメラメラと燃えている。
「キサマだけは許さんっ……!!」
レイを射抜くような眼差しで見据えたまま、シドは片手でスッと剣先を天に掲げた。
苦しそうな顔でそれを見上げるレイの前で、シドの剣をゆっくり光がなぞってゆく。
「王宮魔道士の女よ……キースの無念、その命で償えっ!!!」
剣先がギラリと光ると同時に、シドは両手でレイに剣を振り下ろした。




