ep:40 アンリの持つ戦士の誇り
「悪魔の魔導士エスカリーニ・アンリ! キサマはこの俺達が許さんっ!」
五人の戦士のリーダ格であるアルゴルは、剣を鞘からスッと抜きアンリを見据えながら前に出た。
それに続き他の四人の戦士達も、それぞれの武器を手に持ちアンリを見据えている。
「お主らは……」
アンリが彼らを謎めいた顔で見渡すと、彼らは武器をザッと構え戦闘態勢に入った。
それぞれの武器が、彼らの瞳と共にキラリと光る。
その光を背にアルゴルは胸を張った。
「我らは、シド様が率いるトゥーラ・レヴォルトの精鋭部隊『竜乃牙』!」
「ほほうっ、なかなかカッコイイ名前じゃの♪」
「ふざけるなよアンリっ!」
アルゴルは怒りに体をブルブルと震わせている。
脳裏によぎるのだ。
アンリの超重力の魔法によって目の前で押し潰されていった、仲間達の苦しむ姿が。
それを思い出すと胸が締めつけられてしまう。
「くっ……我ら戦士はいつでも正面から、正々堂々と戦う。だがアンリ……お前は違うっ!」
アルゴルに続き他の戦士達も、同じ怒りと悔しさを胸に抱えながらザッと前に歩み出てきた。
その瞳は怒りと復讐の炎に燃えている。
「そうだアンリ! お前は卑怯だ! 離れた場所から魔法を使って、相手の手の届かない所から攻撃をするんだからな!」
「その通りよっ! 同じ女としてアナタを心から軽蔑してるわ!」
「アンリっ! テメェはやられた事あんのかよ……大事な仲間を卑怯な手で殺された事がよ!」
「残虐に殺したくせに、悪びれる事もなく飄々としやがって……!」
アルゴルは皆の想いを聞き遂げると一瞬スッと瞳を閉じ、アンリに向かい剣をビュッと振り向けた。
鋭い剣先がキラリと光る。
「悪魔の魔導士アンリよ! キサマが使った悪魔の魔法陣で犠牲になった者達の恨み……今こそ我らが晴らしてみせるっ!」
アルゴルは剣を振りかぶり、アンリにダッと飛びかかった。
他の者達も同じだ。
仲間達の無念と共に顔を怒りに染め、アンリに向かって攻撃を仕掛けていった。
全方位からの一斉攻撃の前に、アンリの逃げ場は無い。
だが、アンリは防御の姿勢も取らず静かにうつむいている。
その姿にアルゴル達は一瞬違和感を感じたが、そのまま全力で同時に攻撃を仕掛けた。
「ようやく自分の過ちに気付いたか!」
「死ねっ! 卑怯者め!」
「正々堂々アナタを討つ!」
「アイツらの恨み、その身を持って感じやがれっ!」
「後悔して死ねーーーーーーーーーっ!」
アルゴル達の攻撃がアンリに一斉に降り注ぐ。
しかし、その攻撃がアンリに届く事は無かった。
「なっ!」
「くっ!」
「うっ!」
「チッ!」
「うおっ!」
アンリの魔力で創り出した魔力の障壁によって、全てはじき返されたからだ。
アルゴル達はダッと後ろに飛び退き、額からツーっと冷や汗を流しながらアンリを囲んでいる。
自分達の攻撃が、障壁に弾き返されたからだけではない。
震えるほど感じてしまうからだ。
未だうつむいたままのアンリから立ち昇る絶大な魔力と、静かだが強く哀しいオーラを。
「ううっ……アンリ、キサマこの期に及んで抵抗するというのか」
アルゴルと一緒に他の戦士達も訝しむ顔を浮かべる中、アンリは静かにうつむいたままだ。
「お前達の想いは、決して間違っておらんニャ」
「なっ、ならばなぜ抵抗する! 命か惜しいか!」
「命? そんな物とっくに捨ててるニャ。王宮魔道士になった時からの……!」
「ぐっ……!」
アルゴルは思わずたじろいだ。
アンリの今の言葉が嘘や誇張ではなく、心からそう思っている事が、ヒシヒシと伝わってくるからだ。
もちろん、他の戦士達もアルゴルと同じ事を感じている。
けれど、仲間の復讐を誓った彼らはここで退く訳にはいかない。
ギリッと歯を食いしばりアンリを睨んだ。
「な、ならばなぜそんな卑怯な戦い方をする!」
他の戦士達も同じ気持ちで睨んでいる。
そんな視線を一身に浴びながら、アンリは静かに零す。
「分からんのか。それが、アルカナートが教えてくれた戦士の誇りだからニャ」
「な、なんだとっ?!」
アルゴルが目を見開き謎めいた顔を浮かべると、アンリは静かに顔を上げて皆を見つめた。
凛とした決意を宿す瞳で。
「私は魔導士。だから私は全力で魔力を放つのじゃ。それが……戦いにおける相手への敬意ニャ!」
アンリの言葉を受けたアルゴル達は、その場から動けなかった。
別に魔法をかけられた訳でもない。
けれど、アンリの言葉がそれこそ魔法のように心を突き刺したからだ。
アンリはその様子を見渡すと、二ッと笑みを浮かべた。
「もちろん先に言った通り、お主達の仲間を想う気持ちは間違っておらんニャ。じゃが、五対一というのはどうかの? それは卑怯ではないのか?」
「うっ……!」
アルゴル達は、最初はそれでもいいと思っていた。
アンリの事を悪魔の心を持った、残虐非道な魔導士だと思っていたからだ。
悪魔に対してなら五人がかりでも許される。
むしろ、力を合わせて悪魔を退治するのだと。
けれど、アンリが戦士の誇りを持っている事を知った以上、何も言い返す事が出来ない。
「ううっ、確かにこうなった以上……」
「五対一は卑怯でしかない……」
「戦士としてそれはできないわ……」
「くっそ、ムカつくけどその通りだぜ……」
「ちくしょう、なんも言えねぇよ……」
悔しさに歯を食いしばるアルゴル達を見つめると、アンリはニパッとした笑みを浮かべた。
「じゃがお主らも、振り上げた物をそのままでは気持ちが悪かろう。じゃから……」
アンリは魔導の杖をサッ掲げ、額の魔力クリスタルからフューシャピンク色の輝きを溢れ出させてゆく。
その光に目を細めるアルゴル達を照らしながら。
「さーーーーーて、こうなったからには正々堂々勝負するしかないニャ♪」
アンリは楽しそうな顔で魔導の杖を斜め上に掲げ、ピカッと光らせた。
「歌って踊るニャ♪ いでよ! 『アンリ・シスターーーーーーーーーーズ』!!!」
ピカッと光った魔導のから、衣装だけ違うアンリそっくりな五人の女の子達が現れた。
これはアンリが魔力によって創り出したエネルギー体だ。
彼女達に向かいアンリは魔導の杖を前に突き出し号令をかけてゆく。
「ゆけーー! アンリ・シスターズよ♪ アイツらをやっつけるニャ♪」
その号令を受けたアンリ・シスターズは、元気に拳を掲げた。
「やってやるニャーーーー♪」
「負っけないニャ♪」
「ボッコボコにしてやるニャ♪」
「ドッカンドッカンいくニャ♪」
「今日のお歌は『トランプ・ダンス』でビシッと決めたるニャーーーー♪」
アルゴル達がその姿に目を丸くしている中、彼女達アンリシスターズは、アルゴルの仲間達に笑顔で飛びかかってゆく。
「一生ドキドキを止めれないニャ♪ ハートのA!」
「もうそこからは逃げれないニャ♪ ダイヤのA!」
「スパーンと体を刺しちゃうニャ♪ スペードのA!」
「ここに迷い込んだら出れんニャ♪ クローバーのA!」
四人の手の平から、それぞれのマークがピピピピピッ……! と、アルゴルの仲間達に放たれた。
一見ふざけた攻撃ではある。
しかし、これは複数相手には非常に有効な魔法の一つ。
アンリシスターズ達が相性の良い相手を瞬時に見分け、一番効果的な攻撃を加える事が出来るからだ。
見た目は可愛らしいが、やられた方は防ぐ事が非常に困難なアンリらしい必殺技。
そしてアンリの狙い通り、その攻撃にアルゴルの仲間達は顔をしかめて苦戦している。
そんな皆を目の当たりにしたアルゴルは、アンリをキッと睨んだ。
「アンリ、なぜ俺にだけ攻撃をしてこない?! もう一人そこにいるだろう……!」
「ニャハハハッ♪ お主は彼らのリーダーじゃろ。だからお主とはサシでいこうと思っての」
「なっ?! キサマ、舐めているのかっ!」
アルゴルはハッと目を見開くと、再びアンリを睨みつけた。
今さっき言った事と違うと思ったからだ。
けれど、アンリはケロッとした顔で軽く笑みを浮かべた。
「ニャハ♪ 伝染のかもしれんの」
「なんだと?」
「ノーティスなら、きっとこうすると思ったからニャ♪」
アンリはニコッと笑みを浮かべると、ノーティスの事を遠くからチラッと見つめた。
その目に映った状況は非常にマズい。
何とか再び立ち上り戦ってはいるが、防戦一方で受けたり躱したりするのが精一杯。
シドから告げられた事実に、大きなショックを受けているからだ。
───マズいの。このままじゃ、あ奴がやられるのは時間の問題。レイ、頼むニャ……!
しかしアンリの願いも虚しく、レイはノーティスの下へ辿り着けてはいなかった。
「ハアッ……! ハアッ……! くっ、このままじゃ……」
セクシーな魔導服をボロボロされ、レイは片手で肩を押さえながら美しい顔をしかめている。
目の前に立ちふさがるキースを前に、絶体絶命の状態だ。
そんなレイを、キースは尊大な顔で見据えた。
「女、ムダな事はよせ。痛い思いをするだけだ……!」




