ep:37 対峙するノーティスとシド
「ハアアアアアアアアッ……!!」
ノーティスの振りかぶった剣が、白輝の光と共に巨大化してゆく。
「巨人よ……! 冥府へと還れっ!! 『エクス・ギル・スラーーーーーーーーーーッシュ』!!!」
振り下ろされた巨大な光の剣が、巨人の身体を頭頂部からズシャアアアアアアアアアッ!!! と、真っ二つに斬り裂いた。
声を上げる間もなく真っ二つになった巨人の身体は、ズズズズッ……と、左右に倒れていく。
そして、ドオオオオオオンッ……!! と、轟音を立てて地面に倒れ大きな砂塵を立ち昇らせた。
慌てて避けたトゥーラ・レヴォルトの兵士達を、大きな振動と舞い上がる砂塵が襲う。
「うわっ!」
「うわああっ!」
「ぐうっ!」
苦しそうに顔をしかめていたが、砂塵が晴れてゆくと目を大きく見開いた。
ノーティスの姿が瞳に飛び込んできたからだ。
白輝の光を纏い片手に剣を下げ、ノーティスは兵士達を静かに見据えている。
その静かな眼光に当てられた兵士達は、恐怖に顔を引きつらせた。
「うっ!」
「くうっ!」
「ああっ……!」
兵士達は充分過ぎるほど分かっていたからだ。
自分達がいくら束になろうとも、ノーティスには決して勝てない事を。
逆に、ノーティスもそれを分かっている。
「もう退いてくれ。今ので分かっているハズだ。俺はむやみに人を殺したくない……」
兵士達は、ううっ……! と、たじろぎながらもグッと踏みとどまり、剣を握りしめたままノーティスを睨みつけた。
「い、いかにキサマが強かろうと……ここで退く訳にはいかん!」
「そ、そうだ! 俺達には使命があるんだ!」
「お前達の『クリスタルタワー』を破壊するという、使命がな……!」
必ず成し遂げるという使命感が兵士達の恐怖心を押さえ、闘気を滾らしてゆく。
ただの勝ち負けではなく、こうなった時の人間は強い。
例え、それがどのような物であったとしてもだ。
そんな気概を持つ大勢の兵士達を見据えたまま、ノーティスは剣の柄をギュッと握り、剣先を右斜め上に向けて構えた。
「分かったよ。キミ達の想いに、俺も全力で応えさせてもらう……!」
ノーティスの澄んだ瞳に混じる哀しみが、キラリと光る。
だがその時、トゥーラ・レヴォルトの兵士達の後ろから精悍な声が響いてきた。
「お前達は下がっていろ。残念だがその男は強い。お前達がいくらかかっていっても、ムダに命を落とすだけだ……!」
その声に兵士達は嬉しそうな顔を浮かべて、バッと後ろを振り向いた。
「あっ!」
「おおっ!」
「来てくれたのですね!」
「我らトゥーラ・レヴォルト最強の勇者……アルベルト・シド様っ!」
兵士達の悦びの視線を一身に受けているシドは、サラサラと靡く銀髪の奥から、精悍な瞳で皆を見つめている。
その綺麗なつり目と整った顔立ちは、まさに眉目秀麗という言葉がピッタリだ。
だが、銀色の鎧を纏うシドから放たれているオーラは、決して優男のそれではない。
相手を真正面から鋭い爪と牙で狩る、孤高の狼のようなオーラだ。
そのオーラを放ちながら、シドはノーティスを真っすぐ見据えている。
「お前達の命を、ここで散らさせる訳にはいかない……!」
ノーティスはシドと対峙した瞬間、敵兵達が声を上げる前に分かっていた。
この男……いや、歳は恐らくノーティスと同じぐらいの少年だが、彼こそがこの国最強の勇者である事を。
「俺はスマート・ミレニアムの……」
そこまで言った時、シドはノーティスの言葉を遮った。
「知っている。貴様がスマート・ミレニアムの勇者『エデン・ノーティス』だろう」
「なんでそれを……!」
「……今しがた、貴様が俺をそうだと思ったのと同じだ」
シドは据えた眼差しでノーティスと見つめている。
その眼差しにノーティスは一瞬たじろいだが、スッと精悍な眼差しでシドを見返した。
「フッ、そういう事か。さすがだよ、トゥーラ・レヴォルトの勇者『アルベルト・シド』……!」
ノーティスの澄んだ精悍な眼差しと、シドの孤高の狼のような眼差しが静かにぶつかり合う。
「だがノーティス、残念だったな」
「なんだと?」
軽く訝しむ顔を浮かべるノーティスを見据えたまま、シドは鞘からスッと剣を抜いた。
刀身が太陽の光に照らされてキラリと光る。
「俺がお前の人生にとって、最後の相手になるからだ」
「フッ、それはどうかな……!」
ノーティスも血にまみれた剣をビュッと振り、シドを真っ直ぐ見据えた。
その瞳に宿る決意と共に。
「シド、俺は負けない。キミがいくら強くても、魔力クリスタルを拒否し、悪魔アーロスの手先になっている国の勇者には……!」
その言葉を受けたシドは一瞬瞳を閉じ微苦笑を浮かべると、ノーティスをキッと睨みつけた。
「この、愚か者めっ!」
「なっ……!?」
困惑した顔を浮かべたノーティスを、シドはキツく睨みつけている。
ただの敵としてだけではない。
シドの瞳は、それ以上の何かに燃えている。
「俺達が悪魔の手先だと? どの口が言っている。悪魔は貴様らスマート・ミレニアムだろう!」
「バカなっ! 俺達は、キミ達が侵略しようとしてくるのを防いでるだけだ!」
ノーティスは思わず身を乗り出した。
自分達が悪魔だなんて、言いがかりも甚だしいと思ったからだ。
けれどシドは怯むどころか、むしろ言葉通り愚か者を見るような眼差しを向けている。
「……やはり、何も見えていないのか。哀れな奴だ」
「どういう意味だ?!」
「何も見えていないと言ったのだ。偽りの歴史にまみれた国の勇者ノーティス、貴様にはな……!」
「偽りの歴史?」
「フンッ……どうせ言った所で、信じる事もない。貴様達はそういう人間だ……!」
「シド、キミは一体なにを言っている……」
ノーティスには分からなかった。
シドが自分に何を言おうとしているのかが掴めない。
しかし同時に、心の奥がヒリつく何かを感じてもいる。
───分からない。いや、俺は分かろうとしていない……?
一瞬そう思った時、ノーティスはハッと意識を戻した。
シドから立ち昇っているからだ。
魔力クリスタルをつけていないにも関わらず、気高く強大な銀色の闘気が。
「ノーティス、どちらにせよ貴様が真実を知る必要はない。今日ここで……死ぬのだからな! いくぞっ!!」
シドは両手で剣先を後方に構え、ノーティスに向かいダッ! と、真っすぐに跳びかかった。
ここからの戦いは必見……!




