ep:35 同じ夜空を見上げる二人の勇者
「こ、これは……!」
あれから数日が経った遠征日の当日、大勢の仲間達がいる前で、シドは愛しい彼女と向き合っていた。
彼女につけてもらったペンダントを片手に乗せ、目を見開いてそれを見つめている。
そんなシドを見つめながら、彼女は静かに微笑んだ。
「アナタの大好きな、サクラの花をイメージして作ってみたの」
ちなみに、そのサクラの形は実際の形とは違う。
でも、そんな些細な事シドにはどうでもよかった。
そのネックレスからは、彼女が込めてくれてる想いが溢れている。
「すごい……! 本当のサクラみたいだよ!」
「本当?」
「ああ本当さ。見た事あるんだから間違いないよ。それに、凄く綺麗だ……!」
「よかった……♪ 違うのかなと思ったけど、想像して作ってみたの。早くアナタとサクラを見たくて」
シドの仲間達がそれを優しく見守る中、彼女はもう一つ同じネックレスをシドに差し出した。
「シド、これを私にもつけてほしいの……」
「えっ?」
「アナタと同じのを……つけていたいから」
彼女は恥ずかしそうに顔を火照らすとサッと背中を向け、両手の甲で艶のある長い髪をかき上げた。
元々こうい事に奥手な彼女にとって、これはかなり勇気のいる事だ。
また、シドも同じな上、彼女からセクシーなうなじを見せられドキドキしている。
それにシドは、見た目はカッコいいがこういう事には慣れていない。
でも、彼女にここまでしてもらってるのにと思い、彼女の背中からそっと手を回しネックレスをつけた。
「こ、これでいいのかな……」
「ありがとうシド……♪」
彼女は艶のある長い髪を揺らし、こっちにクルッと振り向き凛とした瞳で微笑んだ。
その姿を目の当たりにした瞬間、シドはハッと目を見開き固まってしまった。
思わず錯覚してしまったのだ。
まるで彼女が、舞い散る桜の木の下にいるように感じた。
「どうしたのシド……?」
不思議そうに軽く覗き込んできた彼女にハッとしたシドは、優しく微笑みながら彼女を見つめた。
「今キミが、サクラの木の下にいるように見えたよ……!」
「えっ、私もよシド! さっき、アナタがサクラの木の下にいるように見えたの」
彼女は瞳に宿す光を揺らめかせて、シドを愛おしく見つめている。
その光に当てられたシドは、彼女をサッと抱きしめた。
周りに仲間達がいても関係ない。
彼女が愛おしくて堪らなかったのだ。
「俺はこの遠征から帰って、キミと今を生きる……!」
「うん……! 待ってるからね。シド……!」
こうしてシドは仲間達とホラムに旅立っていった。
彼女はその姿が見えなくなるまで、ずっと見つめながら心に誓う。
───シド……ちゃんと言えなかったから、帰ってきた時に必ず言うね。愛してる……!
◆◆◆
その頃、ノーティスはみんなと一緒にホラムに行く準備をしていた。
シド達がホラム攻めてくるので、教皇から援軍に迎えとの辞令が下りていたからだ。
急な辞令だったが何とか準備を終わらせ自宅に戻り、ルミと紅茶を飲み始めた。
「急ですね、ノーティス様」
「あぁ……そうだな。でも、平気だよ」
「そうですか……今回は凄く強い勇者が来るらしいですけど」
「ルミ、なんでそれを!」
ノーティスは、思わずカップをカチャンッとソーサーに強く置いてしまった。
その情報はまだ一部の者にしか知らされていない。
ルミに心配をかけない為に、ノーティスは敢えて言ってなかったのだ。
慌てるノーティスの前で、ルミは椅子に腰かけたまま軽く瞳を閉じて紅茶をすすっている。
「私を誰だと思ってるんですか。ノーティス様の執事ですよ……」
ルミは静かにそう告げてきたが、ノーティスはハッと気づいてしまった。
紅茶を顔の前で持っているルミの手が、小刻みに震えている事を。
「ルミ……」
ノーティスが椅子からスッと立ち上がると、ルミは開いた瞳に涙をブワッと浮かべた。
「なんで黙ってたんですかっ!!」
「そ、それは……心配かけたくなくて、ルミに……」
ノーティスがすまなそうに見下ろすと、ルミはカップをサッとテーブルに置き立ち上がり、クルッと背を向けた。
「私は教皇様を恨みます。そんな危険な戦場にノーティス様を行かせるなんて……うううっ……! 許せませんっ……!!」
ルミは小さな背中を震わせて泣いている。
もちろん、ルミだって分かってはいる。
アルカナートが引退している今、ノーティスはスマート・ミレニアムの最強勇者。
強大な敵が攻めてきたら、必ず行かなければいけない事を。
「……でも、でも私はノーティス様に死んでほしくないんですっ……!」
ノーティスは震える背中を見つめながらそっと近寄ると、ルミを後ろからギュッと抱きしめた。
「ルミ、心配かけてごめんな。でも……いつもありがとう」
「ううううっ……! ゆ、許しません。ギュウしたって、ダメですからね……!」
「じゃあ……必ず無事に帰ってくるよ。そしたら、許してくれるか」
「あ、当たり前じゃないですか……それ以外じゃ私……絶対許しませんからね……! ううっ……」
胸の中で涙を迸らせるルミを、ノーティスは優しく包み込む。
「分かったよ。じゃあ……戻ってからまた一緒に飲もう。ルミの淹れてくれたコスモティーを」
「はいっ……! 約束ですよ。ノーティス様……!」
「あぁ、約束だルミ」
その時、窓からフワッと入ってきた風に頬を撫でられ、ノーティスはスッと外を見つめた。
もう日は落ち、夜空には星がキラキラと煌めき、満月が優しく夜空を照らしている。
ノーティスはそれを静かに見上げていたが、その時奇しくもシドも同じ夜空を眺めていた。
その夜空の下で、ノーティスとシドは同時に同じ想いを心に思い巡らせる。
───大切な人の為に、俺は必ず生きて帰る……!
スマート・ミレニアムの勇者エデン・ノーティスと、トゥーラ・レヴォルトの勇者アルベルト・シド。
二人の想いと力がもうすぐ交わろうとしていた。
悲しき運命の歯車の中で。




