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ブレイキング・クリスタル ─光と闇の呪宝戦記─  作者: ジュン・ガリアーノ
cys-5 宿命のライバル! 銀色の勇者シド
35/71

ep:35 同じ夜空を見上げる二人の勇者

「こ、これは……!」


 あれから数日が経った遠征日の当日、大勢の仲間達がいる前で、シドは愛しい彼女と向き合っていた。

 彼女につけてもらったペンダントを片手に乗せ、目を見開いてそれを見つめている。

 そんなシドを見つめながら、彼女は静かに微笑んだ。


「アナタの大好きな、サクラの花をイメージして作ってみたの」


 ちなみに、そのサクラの形は実際の形とは違う。

 でも、そんな些細な事シドにはどうでもよかった。

 そのネックレスからは、彼女が込めてくれてる想いが溢れている。


「すごい……! 本当のサクラみたいだよ!」

「本当?」

「ああ本当さ。見た事あるんだから間違いないよ。それに、凄く綺麗だ……!」

「よかった……♪ 違うのかなと思ったけど、想像して作ってみたの。早くアナタとサクラを見たくて」


 シドの仲間達がそれを優しく見守る中、彼女はもう一つ同じネックレスをシドに差し出した。


「シド、これを私にもつけてほしいの……」

「えっ?」

「アナタと同じのを……つけていたいから」


 彼女は恥ずかしそうに顔を火照らすとサッと背中を向け、両手の甲で艶のある長い髪をかき上げた。

 元々こうい事に奥手な彼女にとって、これはかなり勇気のいる事だ。

 また、シドも同じな上、彼女からセクシーなうなじを見せられドキドキしている。

 それにシドは、見た目はカッコいいがこういう事には慣れていない。

 でも、彼女にここまでしてもらってるのにと思い、彼女の背中からそっと手を回しネックレスをつけた。


「こ、これでいいのかな……」

「ありがとうシド……♪」


 彼女は艶のある長い髪を揺らし、こっちにクルッと振り向き凛とした瞳で微笑んだ。

 その姿を目の当たりにした瞬間、シドはハッと目を見開き固まってしまった。

 思わず錯覚してしまったのだ。

 まるで彼女が、舞い散る桜の木の下にいるように感じた。


「どうしたのシド……?」


 不思議そうに軽く覗き込んできた彼女にハッとしたシドは、優しく微笑みながら彼女を見つめた。


「今キミが、サクラの木の下にいるように見えたよ……!」

「えっ、私もよシド! さっき、アナタがサクラの木の下にいるように見えたの」


 彼女は瞳に宿す光を揺らめかせて、シドを愛おしく見つめている。

 その光に当てられたシドは、彼女をサッと抱きしめた。

 周りに仲間達がいても関係ない。

 彼女が愛おしくて堪らなかったのだ。


「俺はこの遠征から帰って、キミと今を生きる……!」

「うん……! 待ってるからね。シド……!」

 

 こうしてシドは仲間達とホラムに旅立っていった。

 彼女はその姿が見えなくなるまで、ずっと見つめながら心に誓う。 


───シド……ちゃんと言えなかったから、帰ってきた時に必ず言うね。愛してる……!


◆◆◆


 その頃、ノーティスはみんなと一緒にホラムに行く準備をしていた。

 シド達がホラム攻めてくるので、教皇から援軍に迎えとの辞令が下りていたからだ。

 急な辞令だったが何とか準備を終わらせ自宅に戻り、ルミと紅茶を飲み始めた。

 

「急ですね、ノーティス様」

「あぁ……そうだな。でも、平気だよ」

「そうですか……今回は凄く強い勇者が来るらしいですけど」

「ルミ、なんでそれを!」


 ノーティスは、思わずカップをカチャンッとソーサーに強く置いてしまった。

 その情報はまだ一部の者にしか知らされていない。

 ルミに心配をかけない為に、ノーティスは敢えて言ってなかったのだ。

 慌てるノーティスの前で、ルミは椅子に腰かけたまま軽く瞳を閉じて紅茶をすすっている。


「私を誰だと思ってるんですか。ノーティス様の執事ですよ……」


 ルミは静かにそう告げてきたが、ノーティスはハッと気づいてしまった。

 紅茶を顔の前で持っているルミの手が、小刻みに震えている事を。


「ルミ……」


 ノーティスが椅子からスッと立ち上がると、ルミは開いた瞳に涙をブワッと浮かべた。


「なんで黙ってたんですかっ!!」

「そ、それは……心配かけたくなくて、ルミに……」


 ノーティスがすまなそうに見下ろすと、ルミはカップをサッとテーブルに置き立ち上がり、クルッと背を向けた。

 

「私は教皇様を恨みます。そんな危険な戦場にノーティス様を行かせるなんて……うううっ……! 許せませんっ……!!」


 ルミは小さな背中を震わせて泣いている。

 もちろん、ルミだって分かってはいる。

 アルカナートが引退している今、ノーティスはスマート・ミレニアムの最強勇者。

 強大な敵が攻めてきたら、必ず行かなければいけない事を。


「……でも、でも私はノーティス様に死んでほしくないんですっ……!」


 ノーティスは震える背中を見つめながらそっと近寄ると、ルミを後ろからギュッと抱きしめた。


「ルミ、心配かけてごめんな。でも……いつもありがとう」

「ううううっ……! ゆ、許しません。ギュウしたって、ダメですからね……!」

「じゃあ……必ず無事に帰ってくるよ。そしたら、許してくれるか」

「あ、当たり前じゃないですか……それ以外じゃ私……絶対許しませんからね……! ううっ……」


 胸の中で涙を(ほとばし)らせるルミを、ノーティスは優しく包み込む。


「分かったよ。じゃあ……戻ってからまた一緒に飲もう。ルミの淹れてくれたコスモティーを」

「はいっ……! 約束ですよ。ノーティス様……!」

「あぁ、約束だルミ」


 その時、窓からフワッと入ってきた風に頬を撫でられ、ノーティスはスッと外を見つめた。

 もう日は落ち、夜空には星がキラキラと煌めき、満月が優しく夜空を照らしている。

 ノーティスはそれを静かに見上げていたが、その時奇しくもシドも同じ夜空を眺めていた。

 その夜空の下で、ノーティスとシドは同時に同じ想いを心に思い巡らせる。


───大切な人の為に、俺は必ず生きて帰る……!


 スマート・ミレニアムの勇者エデン・ノーティスと、トゥーラ・レヴォルトの勇者アルベルト・シド。

 二人の想いと力がもうすぐ交わろうとしていた。

 悲しき運命の歯車の中で。

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