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ブレイキング・クリスタル ─光と闇の呪宝戦記─  作者: ジュン・ガリアーノ
cys-5 宿命のライバル! 銀色の勇者シド
34/71

ep:34 シドと彼女と咲かないサクラ

「今年も咲かないか……」


 ここはスマート・ミレニアムの宿敵国である、トゥーラ・レヴォルト。

 その国の少年『アルベルト・シド』はサラサラの前髪をそよ風に揺らしながら、窓辺から外を眺めていた。

 幼かった頃に父親と母親と出かけた時の憧憬が、シドの心を緩やかに巡る。


───父さん、母さん……


 哀しみと共にシドが目をスッと閉じた時、部屋のドアがコンコン……と、静かにノックされ、ガチャッと静かに開いた。


「シド、ここにいたのね」


 ドアから入ってきたのは、シドと同じ年ぐらいの女の子だ。

 彼女は漆黒で艶のある長い髪を軽く揺らしながら、美しく凛とした瞳でシドを見つめている。


「あぁ、やっぱり咲かないなと思って……」


 彼女の方へ振り向き哀しくスッと横を向いたシドに、彼女は少し近寄った。


「咲かないって、シドがいつも言ってる()()()の事……?」

「あぁそうだよ……キミにも話した事がある『サクラ』っていう花さ!」


 シドは今まで少し哀しくなっていたのが嘘みたいに、生き生きとした顔で彼女に語り出した。

 昔、両親と一緒に一度だけ見に行った事のあるサクラの事を。

 それを彼女は軽く微笑みながら聞いている。


「そんなに綺麗なんだ。そのサクラって」

「そうだよ。もちろん、ユグドラシルと……」


 その言葉を言うと、シドは一瞬言葉を止めてフウッ……と、ため息を吐いた。


「俺達が取り戻さなきゃいけないユグドラシルは何よりも雄大で、常に神聖な力を宿してる。けど、サクラは違うんだ」


 シドは再び嬉しそうに笑みを浮かべて続けてゆく。


「サクラはそこまで大きくないし、咲いてもすぐに散ってしまう。けど、柔らかく優しい色と儚げな美しさが、人の心を凄く幸せな気持ちにしてくれるんだ」


 嬉しそうに語りながら、シドは思っていた。


───そう、まるでキミのように……!


 それは彼女も同じだった。


───シド……そのサクラって花はシド、アナタみたいね……


 同じ想いを持つ二人の眼差しが切なく交叉する。

 それを数瞬続けると、シドはスッと哀しく瞳を伏せて拳をギュッと握りしめた。


「でも……そのサクラは殺されたんだ。スマート・ミレニアムの奴らにっ……!」

「殺された……? まさかっ!」

「そうさ。アイツらの新エネルギーのせいで……!」

「そ、そんな……」

「あぁ、アイツらはユグドラシルだけじゃないんだ。俺達の国が、昔から『心の花』と言ってたサクラまでも奪っていったんだ。俺の、父さんを殺して……!!」

「シド……!」


 瞳に涙を(にじ)ます彼女の前で、シドは話していった。

 スマート・ミレニアムが、今までどれだけ自分達を蹂躙してきたのか。

 また、それを食い止める為に戦い殺されたシドの父親『アルベルト・サガ』の事を。

 そこから話を全て聞いた彼女は、シドの事を涙を浮かべたまま見つめていた。

 シドとは幼い頃から一緒にいるが、サガの詳しい話は初めて聞いたからだ。


「シド……話してくれてありがとう」

「いいいだ。俺もキミは話しておきたかったから。サクラを殺した新エネルギーの真実と……俺の父さんが何を想って戦い、どう死んでいったのかを……」


 全身から溢れ出ている哀しみが、彼女の心にジワッと伝わってくる。

 彼女はそれに耐えきれず、シドの手をギュッと握った。

 その手から切ない愛が溢れ出す。


「アナタのお父さんは、間違いなく偉大な勇者だったわ」

「ありがとう。だからこそ、俺は父さんの無念を晴らす為に、ここまで修行してきたんだ……!」

「知ってるわ。アナタがどれだけ頑張ってきたかを」


 昔シドは明るくよく笑う男の子だった。

 けれど、今は違う。

 もちろん、あの頃よりも大人になったのもあるが、シドは昔ほど笑わなくなった。

 父親を殺されてから、シドは憑りつかれたように修行に打ち込むようになったからだ。

 変わっていくシドに哀しさを感じながらも、彼女はこれまでずっと近くで見守っていた。


「これまでごめん……」

「えっ?」

「キミが何度も心配して声をかけてくれたのに、俺は酷い事を言ってしまった事もあるし……」

「いいのよ、気にしないで」


 優しく笑みを浮かべる彼女の前で、シドはギュッと拳を握った。


「本当はキミに感謝してる。けど、俺は許せなかったんだ。キミの優しさに甘えて、奴らへの復讐心が少しでも和らいでしまいそうになる俺自身を……!」

「シド……」


 あまりに切ない告白を前に、彼女に切ない影が差す。

 そんな彼女の事を、シドは優しく精悍な眼差しで見つめて微笑んだ。


「でも、今は違う。俺にはハッキリと分かったんだ。ここまで来れたのは復讐心だけじゃない。キミの支えがあったからって事が」

「そ、そんな事ないわよ……! 私なんて……」

「いや、違わない。キミが、復讐に(すさ)む俺の心を救ってきてくれたんだ」

「ううっ……シドっ……!」


 心から込み上げてくる嬉しさに涙を浮かべる彼女の事を、シドはドキドキしながら見つめている。


───伝えるべきは今……!


 シドは彼女の事をサッと抱きしめた。


「いつかキミと見たいんだ。サクラを復活させて……!」

「シドっ……!」

「俺はその為に戦う。スマート・ミレニアムの奴らがどんなに強くても」


 彼女の心に、シドの気持が痛い程ヒシヒシと伝わってくる。

 これは、シドからのプロポーズだという事が。

 シドをずっと想い続けてきた彼女にとって、これは本当に心から嬉しくてたまらない。

 でも、だからこそ心が震えて上手く言葉が出て来ない。


「……無理しないでねシド」


 本当は言いたいのだ。

 『アナタがいればそれで充分よ』と。

 皮肉にもそれがシドの心を不安にさせ、彼女をスッと体から離す事になった。

 彼女を困らせてしまったと思ってしまったから。

 シドはその焦りから彼女の事を安心させようとして、逆に不安になる事を言ってしまう。


「でも、次の遠征できっと決着がつくハズなんだ」

「えっ?」

「今度、この国から一番近い奴らの第三都市『ホラム』に攻め込む」

「ホラムにっ?! ダメよっ! だってあそこは……」


 彼女は雷光に打たれたようなショックを受け、シドに身を乗り出した。

 ホラムは魔力クリスタルを科学利用している実験都市。

 確かに、あそこにある『クリスタルタワー』を破壊すれば、新エネルギーに晒され傷ついている精霊や生態系の回復も出来るし、スマート・ミレニアムの力を大きく削ぐ事が出来る。

 けれど、そこにシドがいくのはあまりにも危険なのだ。


「シド、アナタのお父さんが殺された場所でしょ。スマート・ミレニアムのイデア・アルカナートに!」

「そうだよ……でもだからだ。奴が父さんを殺し領土を奪い造ったあの国を、俺は必ず殲滅させる!」

「気持ちは分かるわ。でも危険すぎる! 嫌な予感がするの……!」


 彼女はすがるような顔でシドを見上げた。

 胸が締めつけられるように痛むのだ。

 けれど、シドの悲壮な決意に満ちた表情は変わらない。


「もちろん危険は承知さ。アルカナート(やつ)が出てくる可能性もあるし、アルカナート(やつ)の後継者エデン・ノーティスは必ず来るハズだ」

「だったら尚更……!」

「だからこそ晴らす事が出来る。父さんの無念を……!」


 シドは悲壮な決意に満ちている。

 彼女はそんなシドを哀しく見つめた。

 まさにサクラのような、強くも儚げな雰囲気をヒシヒシと感じながら。


「シド……もちろんその気持ちは分かるわ。でも、そこに囚われ過ぎていたら、きっとアナタは……今を生きれないと思うの。だから……」


 そこまで言った彼女をシドは再び抱きしめた。

 切なる想いと決意と共に。


「分かってる。だからこそ、俺は決着をつけるんだ。キミと、今を生きていく為に……!」

「シ、シド……!」

「だから、もう少しでいい。待っててくれ……俺はこの遠征を、必ず成功させてみせる!」

「……分かったわシド」


 彼女は震えるように声を絞り出しながら、スッと瞳を閉じた。

 滑らかな頬にツーっと涙が伝う。


───シド、私は生きたい。アナタとこれからもずっと……

この話は、以前と敢えてあまり変えていない一つてす。

ただ、次話からです。

一気に別展開の加速をしていくのは。

是非お楽しみください!


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