ep:30 ルミとメティアのお風呂話
「いや、雨の中座り込んでる人がいたら気になるだろ」
「まあ、そうですけど……」
ルミは斜め下を向きながら零した。
ノーティスが色んな人を家に連れてきた事を、色々と思い出してしまうのだ。
ジークと酔いつぶれて帰ってくるのは日常の一コマだが、それ以外にも色々ある。
『ノーティス様、誰ですかそのご老人は?』
『あぁ、なんか倒れて寝てたから……』
『衛兵さん達に任せましょうっ!』
『えっ、またクロエに言うの?』
『クロエ様は総指揮官ですので、別の方に言いましょう』
『いや、でもクロエこういうの全然いいって言ってたし……』
『それはノーティス様だから、そう仰ってるんです!』
『う~~~ん、そうなのか……』
またある日は……
『ルミ、治してやってくれ!』
『えっ?』
『このネコ、ケガしてるんだっ!』
『わあっ、可愛いネコちゃん♪ って、私ヒーラーじゃないですよ!』
『えっ、そうだったっけ?』
『違いますっ!』
『じゃあ、今すぐアンリに連絡してくれっ!』
『アンリ様もヒーラーじゃありませんっ!』
『いや、でもいつもニャーニャー言ってるし……!』
『それは口癖です。ネコちゃんが心配なのは分かりますが、落ち着きましょう! え~~っと、この近くでヒーラーがいるのは……』
等々……挙げていけばキリがない。
ただ、今日のこの少女はいつもとは何か違う。
───なんだろう……なんか上手く言えないけど、この方は……
ルミは白い傘を差したまま、少女を少し謎めいた顔で見下ろしている。
上手く言えない運命のような物を感じながら、ルミはサッとその場にしゃがみメティアを優しく見つめた。
「ノーティス様が突然声かけちゃってごめんなさい。ビックリしたよね」
「ううん、別に……」
チラッとこちらを見たメティアに、ルミはちょっとすまなそうに微笑んだ。
「ありがとう。ノーティス様は悪い人じゃないんだけど、こういう人だから」
「そうなんだ……」
メティアはまたチラッとうつむいた。
元々人見知りはしない性格だが、あんな事があったのであまり人と話す気にならないのだ。
ルミはそんなメティアを優しく見つめている。
「私はノーティス様の執事をしてる『アステリア・ルミ』っていうの。アナタは?」
メティアは再びチラッとルミを見つめた。
雨と涙に濡れた中、可愛らしい瞳を揺らめかせながら。
「ボクは……『フロラキス・メティア』っていいます。さっき……」
そこまで言ってメティアは言葉を止めてしまった。
追放された今、冒険者ではあってもどこのパーティーにも属していないから。
ルミはその先の言葉を強要はしない。
その代わりに、スッと片手を差し出した。
「メティアさん、とりあえずウチに来ませんか」
「えっ?」
サッとこちらを向いたメティアを優しく見つめながら、ルミは話を続けてゆく。
「ここにいたら風邪引いちゃいますから」
「いや……いいですよ。ボクはここにいます」
「メティアさん……」
もちろん事情は知らないものの、とても辛い事があったのを感じたルミは差してた傘をスッと閉じた。
「えっ、なんで?」
「こうしたらメティアさんの気持ち、少しは分かるかなって」
「ル、ルミさんっ……!」
メティアが目を丸くしている中、ノーティスはルミに傘をサッとかざした。
「ルミ、らしくないな」
「う〜〜ん、ノーティス様の性格がちょっと伝染っちゃったのかも知れません♪」
「そっかそっか。それはよかった……のか?」
「さぁ、どうなんでしょう♪」
それを見ていたメティアは思わずクスッと微笑んだ。
二人の事はまだ知らないけど、悪い人じゃないのが伝わってきたら。
「なんか、ルミさんもノーティスさんも面白いね♪」
「そ、そーですか」
「俺は普通だと思うけど……」
「いーえ、ノーティス様は普通ではございません。この前ネコ拾ってきた時も大変だったんですから」
「悪かったよ。でも、ネコがケガしてたらああなるだろ」
「それはそーですけど……」
二人のやり取りを見ていたメティアは、思わず吹き出してしまった。
「アハハハッ♪ ノーティスさん、じゃあボクはネコと一緒って事ですか」
「いやメティア、そーは言ってないよ。けど、ネコも大事だ」
「そーですよね♪」
メティアはニコッと笑みを浮かべると、軽く上を向いてスッと瞳を閉じた。
「色んな人がいるんだなぁ……」
そう零しながら、メティアは感じている。
追放されて荒んでいた気持ちが、ノーティスとルミのお陰で癒されていくのを。
「ノーティスさん、ルミさん、少しだけお世話になっていいですか」
メティアがこっちを向いて軽く笑みを浮かべると、ノーティスとルミは一瞬サッと顔を見合わせて嬉しそうに笑った。
「もちろんだよ! よかったーーーー」
「そうですね、ノーティス様っ♪」
「ふ、二人ともなんでそんなに喜んでるの?」
メティアがなんで? と、いう顔を浮かべてる中、ノーティスとルミは本当に嬉しそうだ。
「そりゃそうだろう。ようやくキミが濡れずにすむんだから」
「そーですよ♪」
「ハハッ♪ 二人とも本当に変わってるねっ」
「まっ、とりあえず行こう。ルミ、運転頼む」
「お任せください、ノーティス様♪」
こうしてメティアは車に乗り込んだ。
そしてルミの運転に揺られる中、ノーティスは助手席から振り向きメティアにスッとハンカチを差し出した。
「メティア、これを使ってくれ」
「えっ? ノーティスさんこれは?」
「魔法のハンカチさ」
「ま、魔法のハンカチ?」
少し目を丸くしたメティアを見つめたまま、ノーティスは軽く微笑んだ。
「そっ、魔法のハンカチ。後、俺の事はノーティスって呼んでくれていいよ。固いのは無しで」
「う、うん。分かったよノー……ティス」
「それでいい」
「でも、魔法のハンカチってどういう事?」
「あぁ、それは……」
ノーティスはそこから、メティアに簡単にだが話した。
このハンカチをもらった日の事を。
メティアはその話を驚きと感動を交えながら聞き入っていた。
「そんな事があったんだね……」
「あぁ……俺はその子がくれた人の温かさを忘れた事は無い。ずっと覚えてる」
「そっか……なんか、ノーティスに比べたらボクの悩みなんてちっぽけだね」
ちょっとすまさそうに笑みを浮かべたメティアに、ノーティスは首を振った。
「それは違うよ」
「人は人。誰かと比べてマシなんて、それで気持ちが少しでも軽くなるならいいけど、メティアにとってそれは大事なことさ」
「ノーティス……!」
メティアは瞳が感動で揺らめく。
ノーティスが自分の事にちゃんと向き合ってくれてるのが、凄く嬉しいから。
それからしばらくして自宅に着くと、ルミとメティアは濡れた身体を温める為お風呂に入った。
二人は大きな浴槽に隣り合って浸かっている。
「ルミさん、今日ありがとうございました。初めて会ったばかりなのに、ここまでしてもらっちゃって……」
「いいですよメティアさん♪ お役に立ててこちらこそ嬉しいですから」
ルミがニコッと微笑むと、ルミは少し火照らせた顔を軽くうつむけた。
「ルミさんもノーティスも、本当にいい人だよね……」
「う〜〜ん、そうですか? ノーティス様は確かに変わってますけど、私はいたって普通ですよ」
「そんな事ないよ。実はボク、今日……」
メティアはそこからルミに話し始めた。
今まで何をしてきて、今日どうなったのかまでを。
ルミはそれを真剣に聞いているが、話が進むにつれてだんだん表情が変わってゆく。
「ちょっと待ってメティアさん、それって本当ですか?」
「う、うん。そうだけど……」
少し謎めいた顔を浮かべた瞬間、ルミはメティアにバッと抱きついた。
「ル、ルミさんっ! な、なにを……!」
突然抱きつかれ、メティアはビックリして顔を赤く火照らせている。
「ボ、ボクそういう趣味は……!」
あわあわしているメティアの肩にルミは両手を乗せ、凛とした瞳で見つめた。
「やりましょうっ!」
「い、いや、だからボクそういう趣味は……!」
「もう、メティアさんは私達の仲間ですっ!」
「えっ、ノ、ノーティスもぉっ?! ルミさん、それ目的だったんですかっ!」
「へっ? どーゆ―事ですか」
「ど、どーゆー事ですかって……あっ」
ルミは顔を真っ赤にしてメティアからバッと離れた。
完全に誤解するような言葉と態度だった事を悟ったからだ。
なので、顔を火照らせたままコホンと咳ばらいをして、メティアを再び見つめた。
「メティアさん、大変失礼いたしました。今のはそーゆ―事ではなく……」
そこから話しをしてお風呂から上がると、ルミはメティアを連れノーティスの下へ向かった。
ちなみに、メティアは普段ボーイッシュな格好。
ただ、さっきずぶ濡れになってしまったので、ルミの服を借りている。
服のサイズがちょうど合っていたたからだが、さっきとは違いお姉さんぽい服装だ。
「なんか、女の子になったみたい……」
「メティアさんは元々立派な女の子でしょ♪」
「そーだけど、普段あまりスカートとか履かないから」
「そーなんですね。でも、凄く似合ってて可愛いですよっ♪」
「あ、ありがとうルミさん……♪」
ルミは照れているメティアの隣に座り、ノーティスに向き合って話を始めた。
そして全てを聞き終えたノーティスは、感嘆のため息を漏らしメティアに向かい微笑んだ。
「メティア、明日会ってもらう。俺の仲間、王宮魔導士達に……!」




