ep:29 追放された美少女ヒーラー
「えっ?! イ、イクタス、今なんて?!」
可愛くパッチリした瞳を驚愕させ大きく見開いている美少女を、イクタスは額にある紫色の魔力クリスタルを静かにギラつかせながら嘲る顔で見下ろしている。
「ったく、聞こえなかったのかよ『メティア』お前はパーティーをクビだって言ったんだよ!」
イクタスはメティアに向かって首を掻っ切るポーズをして、二ッと歪んだ笑みを浮かべた。
それを目の当たりにして可愛い顔を真っ青にさせるメティアを、他のメンバーもイクタスの後ろから嘲る顔で見つめている。
「そーそーイクタスの言う通りよ♪ 私の攻撃魔法あれば、どんな相手も一撃だもん。メティアのショボい回復魔法とか出番ないしーーーーキャハッ♪」
「リィーテ! それは……」
「うむ。それにそもそも、ワシはお主が回復魔法を使ってるのを見た事がない」
「ヒカイト! それはボクが……」
「メティアーーーーーーーーー! もうっ、言い訳しようとしないで♪」
「ハティ……! 違うよボクは……」
メティアは可愛い顔に哀しみを浮かべながら、サッと身を乗り出した。
みんなに説明しようとしたのだ。
リィーテには魔法力アップの呪文をかけていたし、ヒカイトには自動回復の魔法をかけていた事を。
けれど、彼らは蔑む顔でメティアを見下ろしながら、誰も話を聞こうともさせようともしない。
「メティア~~~それにね、アナタが~~~~んにもしてなくても、私達のダンジョン攻略率は100%♪ だから、アナタはイ・ラ・ナ・イのっ。分かったかな~~~」
セクシーな衣装に身を包んでいるハティは、体をくねらせイクタスにもたれかかりながらメティアを下品な妖しい眼差しで蔑んだ。
その絡めとられるような眼差しに見つめられたメティアは、軽く身を引いている。
「ううっ……そ、それは」
けれど、メティアは言いたかった。
ダンジョンのトラップを事前に察知し、発動前に無効化していた事を。
それがあるからこそ、攻略率100%などという前代未聞の快挙を成し遂げてるのだ。
今でこそBランクではあるが、メティアが加わる前はただのEランクパーティーだった『暴虐の牙』がだ。
「みんな聞いてよっ! ボクはみんなの為に……」
「うるせぇっ!!」
「イ、イクタス……!」
「ったく、拾ってやった恩も忘れてサボってばっかいやがって」
「違うよっ! サボってたんじゃなくて……」
そこまで言った時、イクタスはメティアの胸倉を片手でグイッと掴みギロリと睨みつけた。
イクタスの黒い短髪が、歪んだ怒りと共に逆立っている。
「なんもしてねぇクソ荷物のクセに、言い訳だけはしようってのか? ああんっ!!」
「ううっ……違うよ、なんでイクタスそんな風になっちゃったの。前は、みんなで一緒に……」
「それは、テメェが役立たずだからだろーーーーーーーがっ!!」
イクタスは掴んでいた手をブンッ! と、振り抜きメティアを床に叩きつけた。
「うわっ! イ、イクタス……!」
額の黄色い魔力クリスタルを哀しく揺らめかせながら、メティアは尻もちをつきながら涙目でイクタスを見上げている。
だがイクタスも、他の皆の表情も変わらない。
メティアに蔑んだ眼差しを向けたままだ。
「キャハハハッッ♪ その姿お似合いじゃ~~~んっ」
「うむ、怠け者なゴミクズにふさわしい格好だな」
「アハッ♪ みんなの回復は私がやるから安心してねぇ。アナタはもう……いや、元々用無しなのっ♪」
「って、訳だ。じゃあな。役立たずの似非ヒーラーさんよ! キャハハハハハッ!」
イクタスはそう言い放つと、尻もちをついているメティアを残したままその場から立ち去った。
ちなみに、ここはギルド検定試験会場のすぐ真横に設置されている、ギルド本部一階にある休憩室。
他にも色んな冒険者達がいるが、皆すまなそうに顔をうつむけている。
実際はメティアのお陰なのだが、傍から見れば今破竹の勢いで急成長しているパーティー。
こういったパーティーに逆らうと、自分達にも被害が及ぶ可能性があるからだ。
その視線に晒されているメティアはしばらくうつむいていたが、スッと立ち上がり片手で後頭部を掻きながら笑みを浮かべた。
「アハハッ、なんか変な所見せちゃってごめん。クビになっちゃったけど頑張りまーーーーす♪」
皆はそれを哀れむように見ているが、メティアはそれでよかった。
自分のせいで、周りにこれ以上悲しい想いを充満させたくなかったからだ。
もちろん、心はズタズタ。
今まで自分のしてる事を言わなかったのは、大好きなみんなに自信を持ってもらう為だ。
けれど、それが完全に裏目に出て追放されてしまう事になってしまったからたまらない。
メティアはへらへら笑いながら休憩室を出ると街の片隅まで歩き、そこに体育座りでうずくまった。
───リィーテ、ヒカイト、ハティ……イクタス……!
メティアの脳裏に浮かぶ。
昔、まだランクは低かったけど、一生懸命力を合わせてダンジョンを攻略していった日々の思い出が。
───大好きなみんなと一緒に冒険して、楽しかったな……
しかし、同時に思い出してしまう。
追放してきた時にみんなから向けられた、悪魔のようなあの嘲る顔が。
───でも、もう戻れないんだよね……
メティアの滑らかな頬を涙がツーっと伝うと、そこから急に雨が降り出してきた。
雨は急速に強くなりザアザアと音を立て、その中を待ち行く人達は足早に駆けてゆく。
けれど、メティアはそこから動かず大声を上げて泣いていた。
「うわ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~んっ!!!」
冷たい雨と共に、我慢していた想いが一気に溢れてしまったからだ。
悲しみの涙と冷たい雨が、同時にメティアの頬を濡らす。
街の人達はそれをチラッと一瞥はするものの、駆け足で去ってゆく。
けれどそんな中、メティアの上から男の声が聞こえてきた。
「キミ、大丈夫か?」
「ううううっ……!」
メティアが涙をボロボロ零しながら振り向くと、男はハッと目を見開いた。
「どうしたんだ、一体」
「ひくっ……ひくっ……だ、大丈夫ですから」
「いや、大丈夫なら泣かないだろ。しかも、こんな大雨の中ズブ濡れでさ」
「ううっ……いいんです。ボクは役立たずなんだから……」
泣きながらサッと顔を横に向けると、傘を差した女の子がこちらにタタッと駆け寄ってきた。
「ハァッ……! ハァッ……! 突然車から降りたと思ったら、ここにいらしたんですかっ」
「ああごめん。車からチラッと見えたからさ」
「もうっ、急に止めてくれっていうからビックリしましたよ。ノーティス様」




