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ep:26 騎士達への想い

「くそがっ……! なんなんだアイツは! この俺様の事を睨みつけやがって!! くそがーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」


 バルガスは騎士に向かい、ガラスのコップを思いっきり投げつけた。

 騎士の額に当たったガラスのコップが割れ、騎士の額から血がツーっと流れ落ちる。

 けれど騎士は微動だにしない。

 ここで痛がれば、それによってバルガスからより理不尽な仕打ちを受けるのを分かっているから。

 その騎士をバルガスは狂気をはらんだ目つきで、息を斬らしながら睨みつけている。


「フウッ……! フウッ……! 絶対に許さんぞ!! お前らっ!! あのガキを始末してこいっ!!」


 バルガスが騎士達に怒声をぶつけた時、鍵のかかってるドアがドガッ!! と、そのままぶっ飛んできた。


「ヒイッ!!」


 騎士達が誰も声を上げない中で一人情けない叫び声を上げたバルガスを、ノーティスは据えた瞳でギロッと睨んだ。


「よお、誰を始末するって?」

「お、お、お前はさっきの!!」

「質問に答えろよ、バルガス」

「き、貴様っ! この俺様を呼び捨てにしやかって……その罪万死に値するっ!!」


 バルガスは歪んだ怒りを沸騰させ、ノーティスを怒鳴りつけた。

 頭から出る熱で髪をグシャとさせながら。

 そして、騎士達をギロッと見下ろした。


「おいお前らっ! この無礼なガキをさっさと始末しろ!!!」


 騎士達は恐怖と悔しさに顔をしかめながら、ノーティスに対峙してゆく。

 さっきの戦いを見て、自分達じゃ絶対勝てない事は分かっている。

 だが、やるしかないのだ。

 これまで誇りを持って行ってきた仕事と、家族を守る為に。

 その様子を見下ろしたバルガスはハッと閃くと、ニヤッと嗤いノーティスを見下ろした。

 下卑た瞳がドス黒く光る。


「おい白服。多少腕は立つようだが、これだけの騎士達を前にして勝つ事は出来まい! もし出来たとしても、お前は貴族に逆らった罪で死刑だ!!」

 

 ノーティスがウザったそうな顔でそれを聞いている中、バルガスは両手を斜め上にサッと広げた。


「だがそんな哀れな貴様を助けてやってもいい。あのフェクターを倒したのを俺にすればいい」

 

 ノーティスはそれを黙って聞いているが、騎士達はギョッとしている。

 騎士や冒険者達にとって手柄とは名誉ある宝。

 それを、事件を引き起こした張本人が横取りしようとしているからだ。

 けれど、バルガスはむしろ自分の閃きを自慢するかの如く、醜悪な顔でニタニタしながらノーティスを見下ろしている。


───クククッ……もちろん、譲ったとて助けはしない。貴様の悩み苦しむ顔をたっぷり眺めてから処刑台に送ってやる。これが俺様の力だ! ハーッハッハッハッ!!


 心の中で醜悪な笑みをまき散らしているバルガス。

 ノーティスはそれをウザったと哀れみの混じった眼差しで見据え、フウッ……と、ため息を吐いた。


「勝手にすりゃいいだろ。んなもん欲しけりゃくれてやるよ」

「なんだと貴様。あれだけの手柄だぞ? 金と名誉が惜しくないのか?!」


 予想外の言葉に、バルガスだけでなく騎士達も謎めいた顔を浮かべている。

 フェクターの、しかも実質単身での討伐。

 どれだけの名誉と報奨金になるかは、誰にでも簡単に想像がつく。

 それだけの物を、ノーティスがあまりにもあっさりと手放したからだ。

 皆からその謎めいた視線が集まるが、ノーティスの表情は変わらない。


「別に金や名誉の為にやった訳じゃない」

「なんだと? だったらなんの為にやったと言うのだっ!!」

「決まってんだろバルガス。フェクターとみんなを救う為だ」


 その言葉が騎士達の心に、スピアで貫かれたかのように突き刺さる。

 ノーティスの心が、かつて騎士達が持っていた理想そのものだから。

 騎士達がそれによりグッと力を込める中、バルガスは顔をギリッとしかめて身を乗り出した。


「き、綺麗ごとを言いやがって……! 金と名誉が無ければ何も出来んだろうがっ!!」

「確かに金と名誉はあれば便利さ。けどバルガス、それはただの道具だ」

「なっ? ど、道具だと」

「そうだ。俺は困ってる人達を助ける為に剣の腕を磨いてきた。この荒んだ世界で、一人でも多くの人を幸せにする為に」


 ノーティスはそこまで言うと、騎士達の事をスッと見渡した。


「アナタ達だってきっとそうだろ。もちろん、家族や大切なものを守る為、より幸せにする為に金と名誉だって必要だ。けどそれだけじゃ、騎士になんて絶対なれてやしない……」


 体を震わせながら話を聞いている騎士達を、ノーティスは澄んだ瞳で見つめた。

 その瞳には決して否定ではなく、騎士達の今までの努力と理不尽さに耐えてきた辛さを認め、優しく包み込む精悍な光が宿っている。


「もちろん、現実には理不尽な事や辛い事もいっぱいあって、日々生きていく事に精一杯になって当然だよ。けど、少なくとも、騎士になったばかりの時は貴方達も持っていたハズだ。騎士としての誇りを……!」


 そこまで告げた時、騎士達の手から剣が床にカシャン……! と、落ちた。

 そして、同時に聞こえてくる。

 騎士達がすすり泣く声が。


「くうっ……!」

「俺達は……」

「今まで、一体何をしてきたんだ……!」


 また、ついさっき駆けつけていたルミとクロエも、この光景をドアの外からジッと見つめている。


「ノーティス様……!」

「ノーティス、アナタは……」


 二人も瞳に涙を(にじ)ます中、騎士達はノーティスに一斉に背を向けバルガスに向き合った。

 その瞳に卑屈さではなく、騎士としての誇りを持つ精悍な光を宿して。


「バルガス様、私はノーティス(かれ)を討つ事は出来ません。いや……いたしません!」

「な、な、なんだと貴様っ! 何を言ってるか分かってるのかっ!!」

「はい。ノーティス(かれ)を討つ事はしない。そう申し上げたのです」

「き……貴様ぁっ!! 許さんっ!! 即刻処刑してやる!! お前ら、あの白服のガキの前にコイツを今すぐ処刑しろっ!!」


 バルガスは下卑た怒声を張り上げたが、騎士達は誰も動かない。

 皆、据えた瞳でバルガスをジッと睨みつけている。


「お……お前らっ、な、なんだその目は! 俺は、俺様は貴族なんだぞ!!」


 恐怖に引きつった顔でたじろぐバルガス。

 ノーティスはそれを見据えながらゆっくり近寄ると、不敵な笑みを浮かべた。

 まるで、アルカナートを彷彿させるような笑みを。


「バルガス、なにを慌ててんだよ。やりゃいいだろ。テメェの大好きな金を名誉を使ってよ」

「ぐぐっ! き、貴様っ……!」


 恐怖と怒りに目を血走らせいるバルガスの瞳を、ノーティスは圧倒的な力を宿した瞳で覗き込んだ。


「出来るんだろ? テメェ自身でそう言ってたじゃねぇか……バルガスっ!」

「ヒイッ!!」


 情けない叫び声を上げドシャッと尻もちをつくと、バルガスは完全に青ざめ怯えきった顔でノーティスに向かい両手を向けた。


「来るなっ! 来るなっ!! 来るなぁっ!!」


 ノーティスは、それを冷酷かつ哀れんだ眼差しで見下ろしている。

 すると、ルミが後ろから身を乗り出し声をぶつけてきた。


「ノーティス様っ! もう行きましょう! 今ならまだ就任式に間に合うので!」

「ルミ……」


 ノーティスがチラッと振り向き見つめると、ルミはタタッと駆け寄ってきた。


「さっき、『マジック・ポータル』でアンリ様に協力をお願いしたんです」


 マジック・ポータルとは魔力による通信機器。

 高価な物なので皆が持ってる訳ではないが、ルミは執事としてロウとアンリとは連絡先を交換していたのだ。


「そうか……ありがとうルミ」

「当たり前じゃないですか。私は、ノーティス様の執事ですからっ♪」

「さすがだな、頼りになるよ」

「それに、ノーティス様が正式に勇者になられる就任式、遅刻させる訳にはいきませんから♪」


 ルミはニコッと微笑んだが、その話を聞いたバルガスはあまりの恐怖に尻もちをついたままガタガタと体を震わせ始めた。


「ゆ、ゆ、ゆ、勇者様っ?!! ウ、ウソだ! そ、そんな事があるわけない……!」


 バルガスはあまりの驚きと恐怖にそれ以上言葉が出て来ない。

 勇者は貴族よりも身分が上の、王宮魔導士に他ならないからだ。

 ノーティスがそんなバルガスを再び見下ろしていると、ルミのマジック・ポータルが振動した。

 キラキラとピンク色に光っている。


「あっ、アンリ様だ。ノーティス様、ちょっと失礼いたします」


 ルミが軽く断りを入れボタンを押すと、マジック・ポータルのクリスタル部分から半透明の映像が浮かび上がった。


「ニャハハハッ♪ ルミよ、どんな感じじゃ」

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