ep:24 極悪貴族とクロエの叫び
「あの女、なんて強さだっ……!」
「もしかしたら俺達と同じか……それ以上かもしれないっ!」
バルガスを守っている騎士達は、クロエの戦いを見ながら驚嘆の顔を浮かべている。
衛兵とは基本、誰一人としてギルド検定試験に合格していない。
合格後は冒険者になりBランクまで昇格すれば、ほとんどの者が王国正規兵に志願するからだ。
なので、衛兵は冒険者になれなかった者達の集まり。
それは衛兵上位の者でも変わらない。
けれど、クロエの強さは騎士達をも凌いでいる。
「こんな事ありえるのか?! あんな凄い奴が、なんで総指揮官とはいえ衛兵の仕事に就いてるんだ?!」
騎士達の驚嘆は止まらない。
ただ、クロエは特殊だった。
ノーティスと出会ったあの日から血の滲むような修行を積み、ギルド検定試験に合格していたのだ。
けれど、それは冒険者になる為ではない。
あの日、セイラとコスモティーを飲みながら誓った事を果たす為だ。
クロエは騎士達が驚嘆する斬撃で、フェクターを着実に追い詰めていっている。
───これなら、何とか倒す事は出来るわ。けど……!
クロエは素早く動き回りながら、メイの事をチラッと見つめた。
聡明なクロエには分かっていたのだ。
父親までとは分からないまでも、このフェクターがメイの大切な人である事が。
───でも、私だけじゃなくあの人達と協力すれば、殺さずに魔力クリスタルの破壊を出来るはず……!
クロエはバルガスを守っている騎士達の方へ、真剣な顔でサッと身を乗り出した。
「お願い! 協力して! 私達で力を合わせれば、あのフェクターを殺さなずに済むわっ!」
騎士達は互いにどうしようか悩みながら、顔を見合わせている。
分かっているからだ。
クロエの言う通り力を合わせれば、フェクターの魔力クリスタルを壊し救う事が出来るのを。
けれど、バルガスはそんな騎士達を歪んだ顔でギロッと見下ろした。
「おい、あの女の事は無視しろよ」
そう命令してきたバスガスに、騎士達は悔しそうな顔を向けている。
「で、ですが……」
「我々の力を彼女と合わせれば……」
「なんとか協力を……」
騎士達が恐れながらもそう言いかけた時、バルガスは片足でダンッ! と、床を叩きつけた。
「ふざけるなよお前らっ!! そのせいで万が一俺に危険が迫ったら、どうするつもりだっ!!!」
あまりにも身勝手で思いやりの欠片も無い言葉を浴びせられ、騎士達は拳をギュッと握りしめ身を震わせている。
本当は今すぐバルガスをブッ飛ばしてやりたい。
けれど、貴族には逆らえないのだ。
逆らえばクビになるのはもちろん、反逆罪とみなされ投獄。
もしくは処刑になる事すらある。
もちろん、それをよく分かっているバルガスは騎士達を冷酷な眼差しで見下ろした。
「おい、ウェルテ、ライラ―、ギルト、お前らは行っていいぞ」
思いがけぬその言葉に彼らが驚いた顔を浮かべた瞬間、バルガスはニヤアッと邪悪な笑みを浮かべた。
「その代わり殺せ。あの女を」
あまりにも予期してなかった残虐極まりない指示に、ウェルテ達は言葉を失っている。
一瞬頭が真っ白になり、剣の柄に手を回してしまいそうになるぐらいだ。
けれど、バルガスはそんなウェルテ達を蛇のように見つめている。
「あの女は俺の身を一瞬でも危険に晒そうとした。その罪は万死に値するんだ……」
バルガスはそこまで言うと、バッと片腕を前に伸ばした。
庶民では決して買えない高級な服の袖が揺れる。
「分かったら……サッサと行けーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
ウェルテ達は全身の血が沸騰してしまうかの如く怒りを滾らせながら、クロエの下へ向かった。
けれど、そんな事は露にも思っていないクロエは、ウェルテ達が来たのを見て力強く微笑んだ。
「ありがとう! 私達で力を合わせて救出しま……」
そこまで言った瞬間、クロエは驚愕の表情を浮かべサッと身を躱した。
ウェルテから突然、剣で突き刺されそうになったからだ。
「くっ……! い、一体なにを……!」
自体を飲み込めず困惑してウェルテを見つめた瞬間、クロエは背中に激痛を感じた。
「うあっ!!」
顔をしかめサッと振り向くと、そこには怨念に塗りつぶされた顔して剣を構えているライラ―とギルトの姿が瞳に映る。
「アナタ達、なんで……?!」
苦しく謎めいた顔を浮かべるクロエの前で、ライラ―とギルトは震えている。
「やるしか……ないんだ!」
「やらなきゃ……やらなきゃ俺達は……!」
二人から漂ってくる只ならぬ気配を感じ一瞬たじろいだ瞬間、クロエはウェルテに後ろからガシッとはかいじめにされてしまった。
「くっ……!」
顔をしかめながらもがくクロエをガシッと掴んだまま、ウェルテは涙を頬に伝わせている。
悔しくて悲しくて仕方ないのだ。
「ごめん……! キミに恨みなんて何もないんだ。でも……キミを殺さないと俺達が……」
クロエはその言葉にハッとしてライラ―とギルトと見ると、全てを悟った。
二人ともウェルテと同じく慟哭のような涙を流しているからだ。
「アナタ達……!」
クロエにはもう分かっていた。
これが彼らの本意では全くない事を。
けれど、そうであっても許せない。
「何の為に……何の為に騎士になったの?! 大切なものを守る為じゃないの?!」
その言葉が三人の胸を締めつける。
クロエの言う通りだからだ。
ウェルテはクロエをはかいじめしながら、嗚咽を漏らしている。
「うぐっ……ううっ……俺だって、俺だって嫌だよ……! でも、でも俺がクビになったら家族が……!」
「くっ、そんな……!」
心の優しいクロエは激しい怒りに身体を震わせた。
ウェルテ達ではなく、こんな残虐な指示した上の者に対してだ。
───くっ、一体だれなの? こんな悪魔みたいな事を命じた奴は……!
激しく憤る中、クロエは邪悪な視線を感じハッと振り向いた。
すると、その瞳に映った。
クロエをニタアッと見下ろすバルガスの下卑た醜悪な笑みが。
───あの男は、バルガスっ……!
バルガスの事をクロエは知っていた。
直接話した事は無いが、冷酷かつワガママで暴虐な貴族だと有名だったからだ。
クロエはウェルテに掴まれながらも、グッと身を乗り出した。
「バルガスっ! いい加減にしなさいっ! 貴族の地位はこんな事をする為にあるんじゃないわっ!」
けれどバルガスの表情は変わらない。
むしろ、切なる叫びを上げたクロエをより蔑んだ眼差しで見下ろしている。
「バカめ、俺様は貴族だぞ。何をしても許されるんだ! 貴様ら下等な者共と違ってな! クククッ……ハハハッ……ア―――――――ッハッハッハッ!!!」
バルガスの下卑た嗤い声が広間にこだまする。
それを見ていたロバートは、クロエに向かって駆けだした。
もう、我慢する事が出来なかったからだ。
「クロエ総指揮官ーーーーーーーーーーーーーーーっ!!」
だが、ライラ―とギルトに止められ地面にドシャッと取り押さえられてしまった。
「ぐっ……! は、放せっ!!」
ロバートは取り押さえられたままギリッと顔しかめたが、ライラ―とギルトは放さない。
ウェルテと事情は同じだからだ。
そんな中、フェクターがズシンッ……!! ズシンッ……!! と、近づいてくると、比較的安全な場所にいたバルガスはスッと背を向けた。
「もう飽きた。そろそろここから離れるぞ」
「あ、あの、ウェルテ達がまだ……」
「それがどうした。奴らを残していくのに何か問題があるのか」
「そ、それは……」
それを見ていたクロエはギリッと歯を食いしばり、割れんばかりの声を上げた。
「部下を……自分の部下を置いて逃げるなーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
その声がウェリテ達の心を閃光のように貫く。
だが、もうどうしようもない。
ウェリテ達の心はズタズタだし、クロエも背中に深手を負っている。
この状態では強大なフェクターになど決して勝てない。
さらにそんな中、メイが涙を迸らせながら駆け寄ってきた。
「おじちゃんと、おねえちゃんをはなしてーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!」
「ダメっ! 来ちゃダメよ!!」
悲壮な顔でメイに向かい片手を伸ばすクロエを、フェクターの大きな影が、ぬっ……! と、覆う。
それを見上げてウェリテ達は一目散に逃げだした。
クロエとロバートは解放されたが、フェクターは剛腕を振り上げ血のような赤い瞳で見下ろしている。
メイを抱きしめているクロエの事を。
「グルルルルルルルルルルルッ……!」
「くっ……! この子だけでも何とか逃がさなきゃ……」
クロエは背中から鮮血をボトボト流しながらも立ち上がり、こちらに駆けてくるロバートを見つめた。
「お願いっ! この子だけでも……」
クロエがメイをロバートに託そうとしたが、その瞬間フェクターの剛腕が振り下ろされドゴオオオオオッ!!! と、いう轟音が周囲に響き渡った。
目の前でクロエとメイを失ったロバートは、四つん這いの姿で顔をうつむかせ涙を地面にボトボト零している。
「くそおっ! ちくちょう!! なんで……! なんで……! なんで……あんないい奴らが……!」
ロバートは目の前にフェクターがいる事よりも、それが悔しくて悲しくて仕方ない。
けれど、ロバートはその姿勢のまま思わずハッと顔を上げた。
あまりに眩しい白い光が自分を照らしている事に気づいたからだ。
「えっ……!」
すると、その瞳に映った。
全身に神々しい大きな白い光を纏い、その光の満ちた剣でフェクターの巨大な拳を受け止めている凛々しい少年の姿が。
「フウッ、よかった。ギリギリだけど間に間に合った。ここまでありがとう」
ノーティスはそう零すと、フェクターの拳を剣で受け止めたまま不敵な笑みを浮かべた。
「後は、俺がやる……!」




