ep:20 焦るノーティスとレイの叱咤
「おらおらっ! どーしたルーキー! そんなもんかい!」
「くっ……! ふざけるなジークっ! オオオオオオオオッ!!」
ノーティスは星空の下、狼のような目つきをした剛腕王宮魔導士のジークと戦っている。
ここは、ギルド試験会場のすぐ近くにある闘技場『グランド・コロッセオ』
けれど、ノーティスの旗色は良くない。
すでに額の魔力クリスタルを輝かせ、白輝の力を使っているにも関わらずだ。
ジークに躱された剣がズドオォォォン!! と、いう轟音と共に闘技場に大きな粉塵を巻き上げる。
しかし、ノーティスはいつもと違い冷静さを欠いていた。
そんな中、口を布で縛られ柱に縛られているルミの悲痛な声が聞こえてくる。
「んーんんんんんーーーー!!」
その必死な叫び声が、ノーティスの心をより焦りにかきたてた。
───ルミっ……!!
ノーティスが焦るのも無理はない。
実は、ルミはジークに毒を打たれているからだ。
一刻も早くジークを倒し血清を奪わなければ、ルミの命は失われてしまう。
───くそっ! なのになぜだ?!
ノーティスは心からイラついてた。
自分の見立てによれば、レイとジークにそこまでの差はない。
腕力は比べるまでも無いが、魔力でいえばむしろレイの方が上。
もちろん、レイとの戦いで消耗したとはいえ回復する時間は充分あったし、ここまで苦戦する道理が分からないのだ。
───なぜ俺の剣がジーク当たらない?!
焦り憤るノーティスを前に、ジークは金髪のショートヘアを軽く片手で掻きながら面倒くさそうにため息を吐いた。
「あ~~~ぁ、確かに強ぇけど、正直思ってた程ではねぇな」
「なんだと……!」
「お前さん、本当にレイを倒したのかい?」
「くっ……!」
ノーティスがギリッと歯を食いしばると、ジークは溜息混じりに呆れた顔を浮かべた。
「まっ、けど安心したぜ。お前さん程度の男なら、レイも本気で惚れる訳ねぇだろうしよ」
ジークはそう吐き捨てると、額の魔力クリスタルから赤いロッソ色の輝きを放ち自らの武器に込めてゆく。
両手に握る巨大な戦斧『ハルバード』が血塗られたように真っ赤に燃え上がる。
そのハルバードを大きく振りかぶり、ジークはノーティスを真っすぐ見据えた。
「もう、これで終わりにしてやるよ。喰らいな、期待外れのルーキーさんよっ!」
「なんだとっ……!」
「出直してきやがれっ! 『クリーシス・アックス』!!」
「くっ!!」
ノーティスは白輝の光を纏う剣で防御の体勢を取った。
それに向かい、ジークの振り下ろす巨大で真っ赤なハルバードが凄まじい魔力と共に襲い掛かる。
その威力は凄まじく、ノーティスは剣で受け止めたが堪えきれない。
「うわあああああああっ!!」
ノーティスはそれを受けきる事が出来ず、大きく吹き飛ばされてしまった。
金の刺繍が施された白いロングジャケットが、砂塵で汚れる。
白輝の光を纏う剣で受けた為、ギリギリ致命傷には至っていない。
なので何とか体は起こしたが、大きなダメージにより全身に痛みが走った。
「ぐあっ……!」
剣を地面に刺しながら跪く体勢で、ジークを苦しそうに見据えている。
「ハアッ……! ハアッ……! ハアッ……!」
苦しそうに吐息を漏らすノーティス。
それを見つめたまま、ジークはゆっくり近づいてくる。
ウザったそうに首をコキコキと鳴らしながら、トドメを刺す気が満々だ。
普段であればこういう状況でも、ノーティスは冷静に打開策を考える事が出来る。
だが、今はそれは出来ない。
ノーティスの心の中は、焦りと怒りが嵐のように渦巻いているからだ。
───くそっ! このままじゃルミが……! くそっ、くそっ……くっっっっそおおおおおお!!
もはやこの状態では勝つすべはない。
絶体絶命だ。
そんな様子をジッと見ていたレイは、ノーティスをキッと睨んで身を乗り出した。
「いい加減にしなさいっ!!」
「レイ……!」
ハッと見つめてきたノーティスに、レイは思いっきり檄を飛ばす。
「黙って見てれば、なんなのさっきから! 私と戦った時とは、まるで別人じゃないっ!! まったく美しくないわっ!!」
「うっ、それは……」
「ルミが人質に捕られて焦るのは分かるわ! でも、ルミを助ける為に必要なのは、怒りに任せて雑な剣を振る事なの?! それとも、アナタらしく最高の戦い方をして勝つ事なの?! 答えなさいノーティスっ!!!」
「レイ、俺は……!」
ノーティスはサッと目を閉じて思い返した。
この戦いが始まった所から今までの事を。
そして全てを悟ると、スッと目を開け立ち上がりレイに流し目を向けた。
「レイ、ありがとう。お陰で全て分かったよ」
「フフッ♪ まったく手のかかる子ね。まっ、でも分かればいいのよ」
レイは嬉しそうに微笑んだ。
ノーティスの心の中の嵐が収まり、いつも通りの明鏡止水の状態になっている事が分かったからだ。
その微笑みを受けたノーティスは、ジークの方へ向き直り真っすぐ見つめた。
澄んだ瞳は精悍な力強さに満ちている。
「ジーク、すまなかったな。俺が未熟なせいで、キミを失望させてしまった。だから……」
ノーティスは額の前に剣先を右斜め上に構え、瞳をキラリと光らせた。
全身から再び、白輝の輝きが大きく立ち昇ってゆく。
「その分、キミにはこの技で応えさせてもらうっ……!」
「おいおいおいっ!」
ジークは白シャツの上に纏っている赤いレザージャケットを震わせ、心から嬉しそうに笑みを浮かべた。
「なんだよお前さん、さっきまでとはダンチじゃねぇかよ! くぅ~~~~~っ! たまんねぇ! これを待ってたんだよっ!!」
ジークは嬉しそうに全身にぐーーーーーっと力を込めると、レイの方をスッと見つめた。
「ったく、これならお前さんが惚れちまったのも分からぁ」
「当然でしょ。ノーティスは私の運命の人なんだら」
「チッ、妬けるぜ。なんかよ、今度は俺の方がオカシクなっちまいそうだぜ」
軽く顔をしかめたジークを、レイは鷹揚な態度で見下ろした。
「あら? 惚てる女の前で無様な戦いをする気なの?」
「ハアッ……お前さんどっちの味方なんだよ」
すると、レイは片手で美しい髪をかき上げ妖しく微笑んだ。
「フフッ♪ 私にそんな事尋くなんて野暮ね」
「ハンッ、違ぇねぇ。いっちょ全力でやってやらぁっ! ウォォォォォォッ!!」
ジークは魔力クリスタルを滾らせ、赤いロッソ色の輝きを全身に纏ってゆく。
そして、ゴツゴツしたぶっとい両腕で真っ赤なハルバードをジャキッ! と、構え不敵に微笑んだ。
「いくぜルーキーっ!」
「ああジーク、俺も全力でいかせてもらう!」
二人は互いの武器を振りかぶり、ダッ! と、勢いよく真っ正面から跳びかかった。




