ep:19 闇への疑惑と誘拐されたルミ
「ニャハハハッ♪ ノーティス、よ~~~~頑張ったの」
「フム、なかなかいい伝え方だったと思うよ。極端な例ではあるけど、参考になった」
お店に戻ったノーティスを、アンリとロウは誇らしげに見つめている。
水晶玉を通じて、さっきの戦いを見ていたからだ。
ただ、ルミはブスッと頬をふくらませている。
口を尖らせたまま、かなり不機嫌な様子だ。
「そーですね。ノーティス様が、あんなはしたないのもよ〜〜〜〜く、分かりましたので」
「ルミ、だから違うって」
「違いませんっ! あの後レイ様から……キスされてたじゃないですかっ!」
ルミはプイッ! と、横を向いてふくれている。
まあ無理もない。
しかもあの戦いが終わった後、ノーティスはレイから交際を申し込まれたのだ。
ノーティスが自分の運命の相手だと、レイに確信されたから。
もちろんノーティスは断ったのだが、レイから仮予約だと言われ不意にキスされてしまっていた。
「でも、あれは不可抗力で……!」
「なーーにが不可抗力ですかっ。ノーティス様であれば避けれたハズです」
「いやまぁ……それは、そうだけどさ〜〜」
ノーティスがバツ悪そうに軽く横を向くと、ルミはバッと前を向いた。
「そーですよねっ! それをしなかったという事は、ノーティス様は確信犯という事です!」
ビシッと指をさしたルミは、まるで犯人を名指しした時の名探偵のようだ。
「もはや言い逃れは出来ませんっ!」
「は、はい……でも、俺からはしてないし、情状酌量の余地はあるだろ……」
頼むよという顔をしているノーティスを、ルミは顎に軽く片手を添えて唸っている。
「う~~ん……」
「カレッタを奢るからさ……」
「ば、買収ですかっ! 罪が重くなりますよっ!」
「いや、どちらかといえば、あま~~~くなるんじゃないか?」
「ぬぬぬっ……私の大好きなお菓子を出すとはズルいです」
「頼むっ! カレッタ……と、新作のマカロン!」
「うわぁ~~~そう、きましたか……!」
それを見ていたアンリはノーティスに顔をスッと近づけると、ルミをチラッと横目で見つめ、いたずらっ子のように微笑んだ。
「私もキスしてしまおうかニャ♪」
「ア、アンリ様っ! なにを仰ってるんですか」
「ニャハッ♪ いや、カレッタとマカロン出されて迷ってるようじゃから、いっそ罪を重くして確定させてやろうと思っての」
「そ、そんな! それは困りますっ」
顔を赤くして戸惑うルミに、アンリはニヤッと流し目を向けた。
「じゃ~~~どうするニャ?」
「分かりました……カレッタとマカロンの刑で、手を打ちましょう」
「さすがルミ。それが賢明だニャ♪」
「う~~~アンリ様こそじゃないですか」
アンリのお陰で何とか収まった光景を前に、ノーティスはホッと胸を撫で下ろしている。
───よかった……ルミが不機嫌になると大変だし。
ノーティスがそう思っていると、アンリが席からスッと立ち上がってニコッと笑みを浮かべた。
「じゃ~~そろそろ行くとするかの♪」
「フム、だいぶ長居してしまったしな」
それを合図に、ルミもノーティスを見つめ微笑んだ。
「じゃあノーティス様、私達も行きましょう♪」
「あぁ、そうするか」
ノーティス達は会計を済ませ店を出ると、そこで別れる事になった。
「ノーティス、本当に今日はよく頑張ったニャ♪」
「いえ、お陰様です」
「フム、後は一週間後の実技試験だけか」
「そうですね。全力で、頑張ります!」
「ニャハハハッ♪ 応援してるニャ」
「キミならきっと受かるよ」
「……はいっ!」
そうして別れた後、ロウとアンリはノーティスとルミに見送られながら話をしていた。
「ロウよ、とんでもない弟子が来たもんじゃの♪」
「あぁ、彼が勇者として僕達と戦ってくれる事になれば……」
「そうじゃの。未だにケリのつかんあの国『トゥーラ・レヴォルト』とも決着がつくかもしれん」
トゥーラ・レヴォルトはノーティス達の住む国『スマート・ミレニアム』と、昔から戦い続けてきている国だ。
その国は誰も魔力クリスタルを装着していない。
かつて、圧倒的武力と呪いの感染を武器に、世界を破滅寸前に追いやった悪魔王『アーロス』
トゥーラ・レヴォルトはその悪魔に操られ、魔力クリスタルの装着を拒んでいるのだ。
また、それだけでなく、彼らはスマート・ミレニアムの中核をなす神聖樹『ユグドラシル』を奪おうと、これまで何度も軍隊を差し向け攻撃を仕掛けてきている。
「しかし、あ奴らは魔力クリスタル自体を毛嫌いしとるクセに、なぜユグドラシルを欲しがるのかのぉ……」
「多分……彼らにとって、魔力以外に大切な何かがあるのかもしれない……」
「魔力以外に?」
「ああ、例えば……」
ロウは少し考えた。
いつも頭にあるこの答えを、言っていいものかどうか悩んだのだ。
───でも、アンリならもしかしたら……
そう思ったロウは呟くように答える。
「元々は彼らの物だったから」
ロウは、昔この答えを出した時に心の中で何度も否定しようとした。
けれど、否定しようとすればする分だけ、そうとしか思えないのだ。
ただ、これが本当だとしたら失言どころでは済まない。
国の根幹を揺るがす事になるからだ。
なので、ロウは今まで誰にも言った事が無かった。
───本来、確証も無しに言うのはあるまじき事だ。しかしアンリなら……いや、うかつだったか……?
ロウは珍しくドキドキしながら歩いている。
アンリはそんなロウの顔を、横からスッと覗き込んだ。
「この国随一の天才魔導軍師とは思えぬ発言じゃの」
「そうか……」
ロウがそっと見ると、アンリは快活で慧眼な瞳に光を揺らめかせた。
「じゃがやはり、お主と私は両想いだったようじゃの♪」
「アンリ……!」
「ニャハハハッ♪ まっ、憶測の域を出んがの。それに、私らはどちらにせよ、この国の民を守らねばならんニャ」
「フム……そうだなアンリ。僕らがあの国と決着をつければいい話だ」
「そーゆー事ニャ♪」
アンリとロウがそんな話をしてるとは全く想像してないノーティスとルミは、国の根幹とは程遠い事に直面していた。
「やっぱりノーティスは凄いよね~~~♪ もう大好きっ!」
「あぁ……ありがとう」
「だって、もうギルド中噂してるよっ! あのレイ様を倒した人がいるって!」
向かいの席で興奮しているのは、あのエレナだ。
さっきアンリとロウと別れた後、バッタリ出くわしたのだ。
そして、三人でさっきとは違う喫茶店に行く事になった。
ちなみに、カフェの名前は『アステール・ダスト』
星座がコンセプトのお店で、ニケのパンケーキやペガサスの流星パフェ、ドラゴンの昇龍ガレットやキグナスのダイヤモンドシャーベット。
また、アンドロメダのローリングピザやフェニックスの天翔ステーキと、メニューは様々だ。
「なんだこれ……どれもメッチャ美味いなっ!」
「そうですねノーティス様っ♪ 何か不思議な力が湧いてきます」
「アハッ♪ 二人とも……宇宙を感じたことはあるかなっ?!」
「へっ? 何言ってんだエレナ……」
「どゆこと……?」
そんな店内でテーブルの向かい側に座っているエレナは、前以上に目からハートマークを送っている。
もちろん、ノーティスは嬉しさは感じながらも軽く引いてるし、ルミはまたプンスカ中だ。
───もうっ、エレナったら本当に懲りないんだから……!
そう思っているルミの前にスッと影が差した。
ん? と、思いチラッと見ると、そこには抜群のスタイルから華美なオーラを放っている女が目に映る。
女は大きな茶色のサングラスをかけているが、ルミには一瞬で分かった。
「レ……」
思わず立ち上がりそうになったルミに、レイはシーのポーズを取り軽く微笑んだ。
(せっかくお忍びの格好で来てるんだから。ねっ♪)
(は、はい。すいません……!)
顔を火照らせ申し訳なさそうに上目遣いで焦る中、エレナはレイを見つめて目をキラキラさせている。
(あわわわわっ……! レ、レ、レイ様だ……!!!)
ノーティスに敗れたとはいえ、レイはこの国のトップクラスの人気を誇る王宮魔導士。
男からはもちろん、女の子達からの人気も絶大だ。
特にエレナのようなミーハーな性格であれば、神に会ったようなもの。
興奮せずにはいられない。
そんなエレナをスッと覗き込み、レイは軽く微笑んだ。
(アナタ可愛いわね。磨けばもっと光るわよ。頑張って♪)
「は、はいっ!!!」
思わず大きな声で叫んでしまったエレナに微笑むと、レイはノーティスの側に寄りサングラスをスッと下げて見つめた。
レイの華美な瞳がキラリと光る。
「ノーティス、今から少し付き合いなさい」
「えっ?」
「いいから。早く」
「いや、でも……」
ノーティスはルミをチラッと見つめた。
ルミは突然の事に緊張しているが、行き先を告げずに行けばまた心配するのは目に見えてる。
「レイ、どこに行くんだ?」
「ギルド本部よ」
「本部? なぜ?」
「行きながら話すわ。早くして」
「……わかったよ」
ノーティスはそう言って立ち上がるとルミに行先を告げ、ここで待ってるように伝えた。
ルミは少し心配しながらも承諾し、エレナと二人で待つ事に決定。
そして、レイと店を出てギル本部に向かう事になり、ノーティスはその途中で聞かされた。
レイはノーティスに一刻も早く自分達の仲間になって欲しい。
その為に、実技試験を免除させようとしている事と、ノーティスに危険な目に合ってほしくないという事をだ。
「私が言うのはおかしいのは分かってるけど、アイツは危険よ!」
レイの言うアイツというのは、スマート・ミレニアム随一の剛腕を誇る王宮魔導士『アンディーノ・ジーク』の事だ。
ジークは大の戦闘狂で、実技試験の際はノーティスに全力で挑みたいと意気込んでいる。
また、ジークはレイに惚れてるのでノーティスの事が許せない。
王宮魔道士の全力がどれだけの物かは、言うまでもないだろう。
いくらノーティスが強くてもタダでは済まない。
なのでレイは自分の強権を使い、実技試験無しで合格にさせようとしているのだ。
実際、自分を倒してるのだから資格は充分だという理屈を持って、ギルド本部の人間を説き伏せようと考えている。
「だからお願い。私は、アナタの事が……」
レイがそこまで言った時、エレナが血相を変えノーティスを呼びながら走ってきた。
「どうしたエレナ?!」
エレナの表情から只ならぬ物を感じ問いかけると、エレナは泣きながら告げてきた。
「ううっ……お姉ちゃんが……お姉ちゃんが拐われたの!」
「な、なんだって?!」
そこから話しを聞いたノーティスは、エレナとレイを連れ全力で駆け出した。
ルミをさらったジークの待つ闘技場へ向かって。




