ep:16 心を殺す青薔薇の断罪
「ここは……」
ノーティスは気付くと見覚えのある場所にいた。
そこは、ノーティスがまだ無色の魔力クリスタルと判明する前に過ごしていた学校の講堂の中。
クラスメイト達が楽しそうに笑みを浮かべている。
───なぜ俺はここに……!
そう疑問が浮かんだ瞬間、頭の中でプツンッ! と、何かが切れノーティスは思い出した。
───そうだ、今日は魔力クリスタルの解放儀式『クリスタル・サフォス』の日だ!
皆、それぞれの魔力クリスタルの色を儀式によって判明させ興奮している。
───俺は、どんな色なんだろう……
そう思っていると、そこに凄く綺麗な女の子が二人の男の子を引き連れてノーティスの下へやってきた。
「ノーティス、もうすぐアナタの番でしょ。頑張ってね♪」
「そーそー、神官様にビシッと開放してもらえよっ」
「きっと大丈夫だよ。ぼ、ぼく達も無事に終わったからさ」
「エリス……! それに、リゲルとオルフェも……ありがとう! 行ってくる」
ノーティスが神官の下へ向かい始めると、その背にみんなの温かい声が響いてきいた。
それを受けたノーティスは神官の前に行き跪くと、ドキドキしながら見上げた。
神官はそんなノーティスを優しく見つめながら、魔力クリスタルの解放の呪文を唱えてゆく。
しかし、何度呪文を唱えてもノーティスの魔力クリスタルは全く光らず沈黙したままだった。
「そんな……! なんで、なんで俺の魔力クリスタルだけが……!」
ノーティスはあまりのショックに両拳をギュッと握りしめ、体を震わせている。
しかし、そうしている暇すらもう無かった。
無魔力だと判明してしまった瞬間、あんなに優しく声をかけてくれたエリス達は、まるで穢れた汚物を見るような眼差しに変わったからだ。
「み、みんな……!」
また何より、神官が兵士達と話しながら怪訝な顔でこちらをチラチラ見ている。
それを見たノーティスは講堂からバッ! と、駆けだした。
すぐに分かったからだ。
自分が『浄化対象』になってしまった事が。
───このままじゃ捕まって殺される!
ノーティスは悔しくて涙を堪えながら自宅に駆け戻ったが、そこで最悪な出来事が起こった。
両親と弟からも忌み嫌われ追い出されたのだ。
そこからノーティスは涙を迸らせながら必死で逃げた。
ちなみに、ここまでは悪夢であると同時に、ノーティスの身に実際起こった出来事だ。
しかし、レイの放った必殺技はこんな物では済まない。
ここらの出来事をもさらに悪夢に変えてゆくのだ。
───逃げなきゃ……! 国を出るんだ!
その想いを抱え逃げていると、ノーティスはとある少女にぶつかってしまった。
実際にはこの少女から人の温かさを教えてもらう事になったのだが、悪夢はそれさえも変えてゆく。
なんと、その少女はノーティスを匿うフリをして、報奨金と引き換えに兵士達にノーティスを売り渡したのだ。
「バイバ~~~イ♪ きったならしい無色の魔力クリスタルさん。これから、ちゃ~~~~んと浄化してもらってね~~~キャハハハッ!」
ノーティスは絶望に打ちひしがれながら連行されてゆく。
だが、途中で隙をみて何とか逃げ出す事が出来た。
フェクターが現れ、街が大混乱に陥ったからだ。
しかし、その途中で出会ったクロエから穢れた者を見る眼差しで睨まれ、背中を思いっきりザシュッ! と、斬りつけられてしまった。
ノーティスの背中が裂け、吹き出す鮮血と共に激痛が走る。
「うぐっ……!!」
「穢らわしい子ねっ! さっさと死にさいよっ!!」
クロエがトドメを刺そうとしてきたが、その剣はノーティスには届かなかった。
フェクターが放った一撃によって、ノーティスとクロエは一緒に共に吹き飛ばされたからだ。
ノーティスは顔をしかめながら立ち上がるが、クロエが倒れたまま瀕死の状態になりながらも、ガシッと足を掴んで睨みつけてきた。
その顔は、恐ろしい怨念のこもっている。
「アナタのせいよ……! アナタなんかいなければよかったのに!! 呪われた穢らわしい悪魔め!!」
ノーティスはグッと歯を食いしばりその手を振り払い走り出した。
すると、今度は目の前になんとアルカナートとセイラが現れた。
どちらもノーティスを育ててくれた、本当の両親以上の存在だ。
その二人を目の当たりにしたノーティスは嬉しくなり駆け寄った。
しかし、悪夢はそこも許さない。
アルカナートは駆け寄ってくるノーティスを、殴り倒してきたのだ。
「近寄んじゃねぇよ。テメェみてぇなカスに用はねぇんだよ!」
「そーそー。ホント、こういう奴って社会のゴミよね。大っ嫌い!」
「師匠、セイラ……なんで、なんでこんな事を!」
ノーティスが涙目を浮かべて見上げていると、そこになんとルミまで加わってきた。
「あの、マジで無理なんですけど。このゴミの世話するの」
「ルミ、なにを……!」
「あの、喋りかけないでもらっていいですか。マジでキモいんで!」
「なんでだよ。ウソだろルミ……!」
ルミにまで穢れたもの見るような眼差しで見下ろされ、ノーティスがへたり込んでしまう。
けれどそれだけでは収まらず、ルミは街の人達に呼びかけた。
「みなさーーーん、ここに無色の魔力クリスタルを持つ、浄化対象がいまぁーーーーす!」
その声に反応し、街の人達がゾロゾロと近寄ってくる。
そしてノーティスをボコボコにし始めた。
「きたねぇんだよ! 消えろ!」
「浄化対象になった奴に人権はないんだからなっ!」
「マジでキモ過ぎだから早く死んでよっ!」
呪詛のような言葉と共に全身痛めつけられもう動けないノーティスの下へ、あの時の少女やクロエ、アルカナートとセイラ、そしてルミが再び現れ呪詛を吐きかけてゆく。
ノーティスは涙し目をギュッとつぶるが、それは止まらない。
どこまでもノーティスを追い詰め、心をえぐり続ける。
「やめてくれ……みんなもう、やめてくれーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」
◆◆◆
悪夢の世界で地獄の責め苦にあっている中、現実世界では、倒れているノーティスの瞳からツーっと涙が流れていた。
「ノーティス様っ! ノーティス様っ! 目を、目を覚ましてくださいっ!!」
ルミは涙を迸らせながら、ノーティスの体を必死に揺さぶっている。
「ノーティス様! お願いですノーティス様っ!!」
けれど反応はまるでなく、ノーティスは微動だにしない。
その光景を、エミリオは目を見開き見つめている。
「姉さん、あの技は一体……」
エミリオには分からない。
ノーティスの体に傷は付いていないにも関わらず、全く目を覚ます気配が無いからだ。
外から見る分には、ただ固まっているように思えてしまう。
そんなエミリオの隣で、レイはノーティス達を見つめたまま不敵に微笑んだ。
「もう、彼が目を覚ます事は無いわ」
「えっ?」
「彼の精神は廃人同然。覚めない悪夢の中で地獄を味わい続けるの。フフッ♪ 素敵でしょ」
レイの笑みに、エミリオは思わず背筋をゾクッとさせてしまった。
やはり王宮魔道士の力は絶大だ。
「姉さん……さすがです!」
「フフッ♪ 彼に相応しい世界をプレゼントしただけよ」
レイは勝ち誇った笑みを浮かべたまま、ルミの側に近寄りスッと見下ろした。
「アナタ、確かルミって言ったわよね」
「レイ様っ!!」
バッと振り向いたルミの瞳は、怒りと悲しみに満ちている。
「ノーティス様の目を覚まして下さいっ!!」
「ダメよ」
「何でですかっ!? もう、勝負はついたハズです!!」
ルミは涙を零しながら訴えるが、レイの表情は変わらない。
冷酷な眼差しで見下ろしたままだ。
「意味も無いし」
「ど、どーゆー琴ですかっ!」
「もう廃人だからよ。彼のいる悪夢の世界は、時の流れが違うの」
「えっ?」
ルミが驚いた顔を浮かべると、レイは冷た笑みを浮かべた。
「こっちの五分は向こうでの一日。もう十五分経ってるから、三日も味わってるの。途切れる事の無い悪夢をね」
「そ、そんな……」
「こうしてる間にも彼は地獄を味わってるわ」
レイはそう告げると、ノーティスの顔を上から覗き込み妖しく微笑んだ。
「フフッ♪ 気に入ってもらえたかしら。私からのプレゼント」
それを聞いたルミはブチ切れて、レイに掴みかかった。
身を焦がすような怒りと、涙が迸る。
「いい加減にしてくださいっ!!」
「ちょっと、なんなのよっ! 離しなさいっ!」
「イヤです! ノーティスを、元に戻してーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!」
ルミの悲しみと怒りに満ちた叫び声が響き渡る。
レイはそれを疎ましく見下ろしていたが、その時だった。
「レイ。せっかくだけど、このプレゼントは……返品させてもらうよ」
その声にルミがサッと振り向くと、涙で濡れる瞳に映った。
悪夢の世界にいるハズのノーティスが目を覚まし、ググッ……と、立ち上がってゆく姿が。
その姿を見たルミはバッと身を乗り出した。
「ノ、ノーティス様っ!!!」




