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ブレイキング・クリスタル ─光と闇の呪宝戦記─  作者: ジュン・ガリアーノ
cys-2 波乱と激闘のギルド検定試験
13/71

ep:13 天真爛漫なエレナと真面目なルミ

「むむむっ……なんて奴ニャ♪」

「フム、攻撃力測定試験も満点だな」

「まあ〜〜〜ポイントは0じゃがの。ニャハハッ♪」


 アンリとロウは、とっても楽しそうに笑っている。

 お店のVIPルームで、水晶玉を通じてノーティスの様子を見ていたからだ。

 ただ、ルミは軽くうつむきため息を吐いた。


───ハァッ、やっぱり、こういう事に……


 ノーティスとの付き合いは長い。

 ルミはこれまで、いつも想像の斜め上をいく出来事を何度も経験をしてきた。

 いや、経験させられてきたと言った方が正しいだろう。


───あの測定機いくらするのかな……そもそも破壊しちゃったからポイントは0だし……


 ルミがどうしようかと悩んでいると、さらに斜め上をいく出来事が水晶玉に映し出された。

 試験官がノーティスに土下座しながら、気の狂ったような金切り声を上げているのだ。


「キィィィィィッ!! お願いです! お願いですから合格を受け取ってくださいっ!!」

「あっ、いやでも0ポイントだし測定機も……」

「合格なんですっ!! 測定機のお代もいりませんっ!!」

「ホ、ホントですか?」

「本当ですっ!! 私は命は助かる私はウソは言うの無い無いんです! 無いの! 無いの! お願いしますうっ!!!」


 もはやろれつも回らぬ程、試験官は狂ってしまっている。

 もちろん、ノーティスは試験官に怒ったりはしていない。

 むしろ、心配そうに上から覗き込んでいるだけだ。

 けれど、凄まじい実力と平然とした態度によって、試験官からはサイコパスだと思われている。


───弁償のべの字でも出したら殺されるっ! あれは何の迷いもなく人を殺す目だ! 私は貝になるっ! いや、アンモナイトだっ! 黙る! 謝る! 黙る! 私は、かーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!


 狂ってしまった試験官を、ノーティスは悲しそうに見つめている。


───大丈夫かな……なんか、辛い事でもあったのかな……


 ド天然ぷりを発揮していると、女の子達が顔を軽く火照らせながらソソッと近寄ってきた。


「あのっ……凄いですねっ!」

「あんなの見た事ありませんっ!」

「カッコ良すぎですっ!」


 さっきまでとはうって変わり、女の子達は恋する瞳でノーティスに群がっている。

 もちろん、ノーティスはエリスの時と同じで表情は変わっていない。

 人間なんてそんな物だと分かってるから。

 けれど、それを水晶玉を通じて見ているルミはそうはいかない。

 ピキッと引きつった笑みを浮かべた。


「ず、ずいぶん楽しそうですね……ノーティス様は」

「ニャハハッ♪ モテモテじゃのう」

「フム、分かりやすい事例だな」

「はい……とっても分かりやす〜〜〜くおモテになってる事例ですね」


 ルミは嫉妬でイライラしながら水晶玉を見ていた。

 ノーティスが人から好かれるのは嬉しいが、女の子にモテてると嫉妬をしてしまう。

 けれど、それとは別の意味でルミは突然ギョッと目を大きく開いた。

 とある女の子が、ノーティスの手を引きその場から二人で駆け出したのを見たからだ。


「エレナっ!」


 両手をテーブルにバンッ! と、叩きつけて立ち上がったルミを目の前に、ロウとアンリは軽く驚きながら謎めいた顔を浮かべた。


「どーした急に」

「もしかして、あの子は知り合いかニャ?」

「知り合いと言うより……妹なんですっ!」

「フム、妹さんか……!」

「ニャんと! そ~言われれば、少し似とるような気もするのう……」


 ロウとアンリは興味深そうに水晶玉を見つめているが、ルミは気が気でない。

 エレナの性格からして、ここからどうかなるかがよーく分かってしまうからだ。


───もうっ、今度はノーティス様の事を……


 ルミはいてもたってもいられなくなり、ロウとアンリにサッと会釈をした。

 綺麗なショートヘアがサラッと(こぼ)れる。


「ロウ様、アンリ様申し訳ございません! ちょっと席を外させて頂きますっ!」

「気にしなくていい」

「大変そうだが、焦るでニャいぞ」


 二人から優しい言葉を受けるとコクンと頷き、ルミはタタッとその場を後にした。


◆◆◆


「エヘッ♪ 二人っきりになれたね」

「ちょっ、キミは……」


 ノーティスはエレナに突然手を引かれ、少し奥まった場所に連れてこられていた。

 エレナは淡いピンクと白の混じった魔法服に身を包み、黄緑色の瞳でノーティスを見つめている。

 全体から活発で可愛らしいオーラを放ち、額にある魔力クリスタルはホットピンク色だ。


「私『アステリア・エレナ』っていうの。よろしくねっ、ノーティス♪」

「い、いや、突然よろしくって言われても……」


 グイグイ来られてちょっと顔を火照らせているノーティスに、エレナは可愛い顔をスッと近づけた。

 (まと)っている香水から甘い薫りを漂わせながら、ノーティスを上目遣いに見つめている。


「アハッ♪ 照れちゃって可愛い〜〜〜♪」


 エレナが小悪魔チックな笑みを浮かべ、人差し指でノーティスの頬をツンッとした時だった。


「エレナっ! こんな所で何してるの!」


 その怒りの込められた声にサッと振り向くと、そこにはキツい眼差しでエレナを見つめているルミの姿が。


「お姉ちゃんっ! なんでここが分かったの?!」

「お、お姉ちゃん?!」


 エレナの隣でノーティスがビックリして目を丸くする中、ルミは怒った顔でツカツカ足音を鳴らして近寄ってきた。


「た、たまたまそこに入るのが見えたのよっ!」

「ウソっ……!」

「それよりも、ノーティス様に何をしてるの!」


 ルミからキツく詰め寄られたエレナは、ノーティスの腕にギュッと抱きついた。

 そして、不満そうに軽く口を尖らせている。


「何って、ノーティスが大好きだから一緒にいるんだよ。ダメなの?」

「ダメとかじゃなくて……」


 あまりにも直球な答えをもらい口ごもっているルミに、ノーティスは軽く身を乗り出した。


「ルミ、本当なのか? エレナが妹って」

「はい、そうですよ。いけませんか? 私に妹がいたら」

「いや、そーゆー訳じゃなくて……」


 ルミがそうとう不機嫌になってるのをヒシヒシと感じ、ノーティスはバツ悪そうにしている。

 もちろん、ノーティスはルミと付き合ってる訳じゃないし、エレナに手を出した訳でもない。

 けれど、今そんな事を言った事でムダなのは明白。

 また逆に、ルミもノーティスが何もしてないのは分かっている。

 ノーティスがどんな人かを知っているからだ。


───ああっ、でもイヤなんです! ノーティス様に手を出されるのは!


 ルミは嫉妬心が燃えて仕方ない。

 けれど、そんなルミの心にエレナは油を注いでくる。


「ダメじゃないなら、いいんだよね♪」

「だからそうじゃなくて……」

「恋愛は自由でしょ。エレナはノーティスが好きなのっ! お姉ちゃんは関係ないじゃん!」

「そ、それはそうだけど……」


 ルミは哀しそうに軽くうつむいた。

 それと同時に、エレナにされてきた事が脳裏に蘇る。

 エレナはエリスと違い悪女という訳ではない。

 けれど、真面目なルミとは逆の天真爛漫な性格。

 悪く言えばワガママだ。


───昔っからそうよね……


 ルミは幼い頃から、活発なエレナに大切なものを奪われてきた。


『あっ、そのピンクのウサギのぬいぐるみは……』

『これエレナが欲しいの!』

『それはダメよ。だってそれは……』

『いいじゃん! これエレナのだからっ!』

『ルミ、お姉ちゃんなんだからエレナにあげなさい』

『ママっ! だって、あれはパパが私の誕生日に……』

『いいじゃない。それぐらい、我慢すれば』

『そんな……ううっ……』


 そんな事から始まり、日々の細かな事もそう。

 また、ルミが学生の頃に初めて好きになった人を、告白する前にエレナに取られた事もある。


『ごめんねお姉ちゃん。彼、私が好きなんだって♪』

『そう……よかったわね』

『言っとくけど、お姉ちゃんがグズグズしてるせいだからね。エレナは悪くないからっ♪』


 そういった事に加え、エレナはルミの真面目さを小馬鹿にしていた。


『エレナ、ダメよそういう事しちゃ』

『え〜〜〜っ、お姉ちゃん真面目すぎ。そんなんだから、いつまで経っても彼氏出来ないんだよ』

『それは、関係ないでしょ……』

『あるよ。エレナみたいに楽しまなきゃ、人生損しちゃうよっ♪』


 まあ、挙げれば切りが無い。

 そして今ルミは、大好きなノーティスを奪われようとしている。

 想いを伝える事も出来ないまま。


「前から言ってるでしょ。お姉ちゃんは真面目すぎるのっ! 私はそんな風に生きないから!」


 エレナはルミにそう言い放つと、ノーティスに向かって微笑んだ。

 

「ノーティスだって、楽しい方がいいよねっ♪」


 可愛い顔で見つめるエレナは内心、やった♪ と、思っている。

 このやり方で落ちなかった男はいないからだ。

 けれどその瞬間、ノーティスはエレナの腕をスッと離した。


「悪いけど……」

「えっ?!」


 まったく予想外の対応に驚くエレナを見つめたまま、ノーティスは軽くため息を吐いた。


「キミとは付き合えない」

「なんでっ?」

「ルミの事を悪く言うからだ」

「だ、だって……!」

「それに、多分ルミは今までキミに色々譲ってきたり、アドバイスをしてきてくれたハズだ」

「ど、どうして……」


 まるで見てきたように言い当ててきたノーティスに、エレナは驚愕している。

 もちろん、ルミもそれは同じだ。


───ノーティス様、なぜその事を……!


 そんな中、ノーティスは澄んだ瞳でルミをチラッと見つめ微笑んだ。


「ルミはそういう人だから」

「えっ?」


 謎めいた顔を浮かべたエレナを、ノーティスは静かに見つめた。


「ルミのその優しさに、俺はこれまで何度も助けられてきた。キミが小馬鹿にてきた真面目さにもだ」

「そ、そんな……」


 エレナがたじろぐ中、ルミは瞳にジワッと涙を滲ませている。


───ノ、ノーティス様っ……!!


 嬉しくて仕方ないのだ。

 ノーティスがこれまでの自分の努力を全て見抜いて、心を救ってくれた。

 また、それがノーティスである事がルミにはたまらなく嬉しいのだ。

 そんなルミの肩をノーティスは片手でそっと抱き、ニコッと笑みを浮かべた。


「ルミ、心配かけてごめん」

「い、いいんです……! 私こそ失礼な態度を取ってしまい申し訳ございません」

「いや別に気にしてないよ。それより早く一緒に戻ろう。二人を待たせてるし」

「はいっ♪」


 ルミが嬉しさいっぱいに笑みを浮かべると、ノーティスはエレナにスッと振り向いた。


「ごめんなエレナ。けど、天真爛漫な事自体は悪くはないよ。じゃ」


 そしてサッと向き直り、ルミと一緒にその場を後にした。

 エレナはその場にポツンと立ち尽くし、二人の姿を悔しそうに見つめている。


───し、信じられない! 私よりお姉ちゃんを選ぶなんて……! でも……でも私、ぜーーーーったいに諦めないんだからーーーーーーーーっ!!


 その想いをエレナが(たぎ)らす中、ノーティスにはさらなる波乱が待ち構えていた……

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