ep:13 天真爛漫なエレナと真面目なルミ
「むむむっ……なんて奴ニャ♪」
「フム、攻撃力測定試験も満点だな」
「まあ〜〜〜ポイントは0じゃがの。ニャハハッ♪」
アンリとロウは、とっても楽しそうに笑っている。
お店のVIPルームで、水晶玉を通じてノーティスの様子を見ていたからだ。
ただ、ルミは軽くうつむきため息を吐いた。
───ハァッ、やっぱり、こういう事に……
ノーティスとの付き合いは長い。
ルミはこれまで、いつも想像の斜め上をいく出来事を何度も経験をしてきた。
いや、経験させられてきたと言った方が正しいだろう。
───あの測定機いくらするのかな……そもそも破壊しちゃったからポイントは0だし……
ルミがどうしようかと悩んでいると、さらに斜め上をいく出来事が水晶玉に映し出された。
試験官がノーティスに土下座しながら、気の狂ったような金切り声を上げているのだ。
「キィィィィィッ!! お願いです! お願いですから合格を受け取ってくださいっ!!」
「あっ、いやでも0ポイントだし測定機も……」
「合格なんですっ!! 測定機のお代もいりませんっ!!」
「ホ、ホントですか?」
「本当ですっ!! 私は命は助かる私はウソは言うの無い無いんです! 無いの! 無いの! お願いしますうっ!!!」
もはやろれつも回らぬ程、試験官は狂ってしまっている。
もちろん、ノーティスは試験官に怒ったりはしていない。
むしろ、心配そうに上から覗き込んでいるだけだ。
けれど、凄まじい実力と平然とした態度によって、試験官からはサイコパスだと思われている。
───弁償のべの字でも出したら殺されるっ! あれは何の迷いもなく人を殺す目だ! 私は貝になるっ! いや、アンモナイトだっ! 黙る! 謝る! 黙る! 私は、かーーーーーーーーーーーーーーーいっ!!
狂ってしまった試験官を、ノーティスは悲しそうに見つめている。
───大丈夫かな……なんか、辛い事でもあったのかな……
ド天然ぷりを発揮していると、女の子達が顔を軽く火照らせながらソソッと近寄ってきた。
「あのっ……凄いですねっ!」
「あんなの見た事ありませんっ!」
「カッコ良すぎですっ!」
さっきまでとはうって変わり、女の子達は恋する瞳でノーティスに群がっている。
もちろん、ノーティスはエリスの時と同じで表情は変わっていない。
人間なんてそんな物だと分かってるから。
けれど、それを水晶玉を通じて見ているルミはそうはいかない。
ピキッと引きつった笑みを浮かべた。
「ず、ずいぶん楽しそうですね……ノーティス様は」
「ニャハハッ♪ モテモテじゃのう」
「フム、分かりやすい事例だな」
「はい……とっても分かりやす〜〜〜くおモテになってる事例ですね」
ルミは嫉妬でイライラしながら水晶玉を見ていた。
ノーティスが人から好かれるのは嬉しいが、女の子にモテてると嫉妬をしてしまう。
けれど、それとは別の意味でルミは突然ギョッと目を大きく開いた。
とある女の子が、ノーティスの手を引きその場から二人で駆け出したのを見たからだ。
「エレナっ!」
両手をテーブルにバンッ! と、叩きつけて立ち上がったルミを目の前に、ロウとアンリは軽く驚きながら謎めいた顔を浮かべた。
「どーした急に」
「もしかして、あの子は知り合いかニャ?」
「知り合いと言うより……妹なんですっ!」
「フム、妹さんか……!」
「ニャんと! そ~言われれば、少し似とるような気もするのう……」
ロウとアンリは興味深そうに水晶玉を見つめているが、ルミは気が気でない。
エレナの性格からして、ここからどうかなるかがよーく分かってしまうからだ。
───もうっ、今度はノーティス様の事を……
ルミはいてもたってもいられなくなり、ロウとアンリにサッと会釈をした。
綺麗なショートヘアがサラッと零れる。
「ロウ様、アンリ様申し訳ございません! ちょっと席を外させて頂きますっ!」
「気にしなくていい」
「大変そうだが、焦るでニャいぞ」
二人から優しい言葉を受けるとコクンと頷き、ルミはタタッとその場を後にした。
◆◆◆
「エヘッ♪ 二人っきりになれたね」
「ちょっ、キミは……」
ノーティスはエレナに突然手を引かれ、少し奥まった場所に連れてこられていた。
エレナは淡いピンクと白の混じった魔法服に身を包み、黄緑色の瞳でノーティスを見つめている。
全体から活発で可愛らしいオーラを放ち、額にある魔力クリスタルはホットピンク色だ。
「私『アステリア・エレナ』っていうの。よろしくねっ、ノーティス♪」
「い、いや、突然よろしくって言われても……」
グイグイ来られてちょっと顔を火照らせているノーティスに、エレナは可愛い顔をスッと近づけた。
纏っている香水から甘い薫りを漂わせながら、ノーティスを上目遣いに見つめている。
「アハッ♪ 照れちゃって可愛い〜〜〜♪」
エレナが小悪魔チックな笑みを浮かべ、人差し指でノーティスの頬をツンッとした時だった。
「エレナっ! こんな所で何してるの!」
その怒りの込められた声にサッと振り向くと、そこにはキツい眼差しでエレナを見つめているルミの姿が。
「お姉ちゃんっ! なんでここが分かったの?!」
「お、お姉ちゃん?!」
エレナの隣でノーティスがビックリして目を丸くする中、ルミは怒った顔でツカツカ足音を鳴らして近寄ってきた。
「た、たまたまそこに入るのが見えたのよっ!」
「ウソっ……!」
「それよりも、ノーティス様に何をしてるの!」
ルミからキツく詰め寄られたエレナは、ノーティスの腕にギュッと抱きついた。
そして、不満そうに軽く口を尖らせている。
「何って、ノーティスが大好きだから一緒にいるんだよ。ダメなの?」
「ダメとかじゃなくて……」
あまりにも直球な答えをもらい口ごもっているルミに、ノーティスは軽く身を乗り出した。
「ルミ、本当なのか? エレナが妹って」
「はい、そうですよ。いけませんか? 私に妹がいたら」
「いや、そーゆー訳じゃなくて……」
ルミがそうとう不機嫌になってるのをヒシヒシと感じ、ノーティスはバツ悪そうにしている。
もちろん、ノーティスはルミと付き合ってる訳じゃないし、エレナに手を出した訳でもない。
けれど、今そんな事を言った事でムダなのは明白。
また逆に、ルミもノーティスが何もしてないのは分かっている。
ノーティスがどんな人かを知っているからだ。
───ああっ、でもイヤなんです! ノーティス様に手を出されるのは!
ルミは嫉妬心が燃えて仕方ない。
けれど、そんなルミの心にエレナは油を注いでくる。
「ダメじゃないなら、いいんだよね♪」
「だからそうじゃなくて……」
「恋愛は自由でしょ。エレナはノーティスが好きなのっ! お姉ちゃんは関係ないじゃん!」
「そ、それはそうだけど……」
ルミは哀しそうに軽くうつむいた。
それと同時に、エレナにされてきた事が脳裏に蘇る。
エレナはエリスと違い悪女という訳ではない。
けれど、真面目なルミとは逆の天真爛漫な性格。
悪く言えばワガママだ。
───昔っからそうよね……
ルミは幼い頃から、活発なエレナに大切なものを奪われてきた。
『あっ、そのピンクのウサギのぬいぐるみは……』
『これエレナが欲しいの!』
『それはダメよ。だってそれは……』
『いいじゃん! これエレナのだからっ!』
『ルミ、お姉ちゃんなんだからエレナにあげなさい』
『ママっ! だって、あれはパパが私の誕生日に……』
『いいじゃない。それぐらい、我慢すれば』
『そんな……ううっ……』
そんな事から始まり、日々の細かな事もそう。
また、ルミが学生の頃に初めて好きになった人を、告白する前にエレナに取られた事もある。
『ごめんねお姉ちゃん。彼、私が好きなんだって♪』
『そう……よかったわね』
『言っとくけど、お姉ちゃんがグズグズしてるせいだからね。エレナは悪くないからっ♪』
そういった事に加え、エレナはルミの真面目さを小馬鹿にしていた。
『エレナ、ダメよそういう事しちゃ』
『え〜〜〜っ、お姉ちゃん真面目すぎ。そんなんだから、いつまで経っても彼氏出来ないんだよ』
『それは、関係ないでしょ……』
『あるよ。エレナみたいに楽しまなきゃ、人生損しちゃうよっ♪』
まあ、挙げれば切りが無い。
そして今ルミは、大好きなノーティスを奪われようとしている。
想いを伝える事も出来ないまま。
「前から言ってるでしょ。お姉ちゃんは真面目すぎるのっ! 私はそんな風に生きないから!」
エレナはルミにそう言い放つと、ノーティスに向かって微笑んだ。
「ノーティスだって、楽しい方がいいよねっ♪」
可愛い顔で見つめるエレナは内心、やった♪ と、思っている。
このやり方で落ちなかった男はいないからだ。
けれどその瞬間、ノーティスはエレナの腕をスッと離した。
「悪いけど……」
「えっ?!」
まったく予想外の対応に驚くエレナを見つめたまま、ノーティスは軽くため息を吐いた。
「キミとは付き合えない」
「なんでっ?」
「ルミの事を悪く言うからだ」
「だ、だって……!」
「それに、多分ルミは今までキミに色々譲ってきたり、アドバイスをしてきてくれたハズだ」
「ど、どうして……」
まるで見てきたように言い当ててきたノーティスに、エレナは驚愕している。
もちろん、ルミもそれは同じだ。
───ノーティス様、なぜその事を……!
そんな中、ノーティスは澄んだ瞳でルミをチラッと見つめ微笑んだ。
「ルミはそういう人だから」
「えっ?」
謎めいた顔を浮かべたエレナを、ノーティスは静かに見つめた。
「ルミのその優しさに、俺はこれまで何度も助けられてきた。キミが小馬鹿にてきた真面目さにもだ」
「そ、そんな……」
エレナがたじろぐ中、ルミは瞳にジワッと涙を滲ませている。
───ノ、ノーティス様っ……!!
嬉しくて仕方ないのだ。
ノーティスがこれまでの自分の努力を全て見抜いて、心を救ってくれた。
また、それがノーティスである事がルミにはたまらなく嬉しいのだ。
そんなルミの肩をノーティスは片手でそっと抱き、ニコッと笑みを浮かべた。
「ルミ、心配かけてごめん」
「い、いいんです……! 私こそ失礼な態度を取ってしまい申し訳ございません」
「いや別に気にしてないよ。それより早く一緒に戻ろう。二人を待たせてるし」
「はいっ♪」
ルミが嬉しさいっぱいに笑みを浮かべると、ノーティスはエレナにスッと振り向いた。
「ごめんなエレナ。けど、天真爛漫な事自体は悪くはないよ。じゃ」
そしてサッと向き直り、ルミと一緒にその場を後にした。
エレナはその場にポツンと立ち尽くし、二人の姿を悔しそうに見つめている。
───し、信じられない! 私よりお姉ちゃんを選ぶなんて……! でも……でも私、ぜーーーーったいに諦めないんだからーーーーーーーーっ!!
その想いをエレナが滾らす中、ノーティスにはさらなる波乱が待ち構えていた……




