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ブレイキング・クリスタル ─光と闇の呪宝戦記─  作者: ジュン・ガリアーノ
cys-2 波乱と激闘のギルド検定試験
12/71

ep:12 誇りを守る一閃

「マジかよっ!」

「ウソだろ?!」

「気持ち悪ーーーーーいっ!」


 ノーティスを見下ろす皆の顔が、嘲笑う顔から穢れたものをみる顔に瞬時に変わってゆく。

 浄化対象いうのはこの世から排除すべき、忌むべき存在だからだ。

 そんな彼らを一望するとエミリオは一瞬瞳を閉じた。


「しかし皆様、そこはご安心ください。彼は元無色の魔力クリスタルを持つ浄化対象ではありましたが、僅かながら光る事が判明しました。なので、もう浄化対象ではありません。しかし……」


 エミリオはそこまで話すと、哀れむような顔を浮かべて力を込めてゆく。


「真に哀れなのはそこではありません……! 報われない道へ進もうとしている事こそが、彼の最大の過ちなのです! もちろん努力は美しい。しかし、魔力が微小な彼の事を考えれば、ここで諦めてもらうのが最善!」


 そう言い放つと、エミリオはより言葉に力を込めた。


「私はそれを分かってほしくて、先程あえて必殺剣『スカーレット・テュエラ』を放ったのです! 彼を……苦しみの道から救う為に!!」


 その言葉に皆が固まっている中、パチパチパチ……と、いう小さな拍手が聞こえてきた。

 試験官の男が立ち上がり、エミリオを誇らしげに見つめながら拍手をしているのだ。

 その拍手を合図に会場はドッ! と、沸き立った。


「いいぞエミリオーーーーーーーーーーーーーっ!! その通りだっ!!」

「エミリオ様、ステキーーーーーーーーーーーっ♪」

「さっすが全国トップクラスの実力者、やる事も言う事も違ぇぜっ!!」

「元浄化対象の人にまで優しすぎですっ♪」


 エミリオへの賛辞がこだまする中、試験官の男はノーティスを哀れむ顔で見据えている。


「エミリオくんの言う通りだ。人には分相応というものがある。せっかく魔力が僅かながらに光ったとしても、元浄化対象であるなら厳しい戦いの中で魔力回路が暴走し、フェクターと化してしまうのは明らかだ」


 そこまで言うと、試験官はさらにギロッと見据えた。

 愚か者を毛嫌いするオーラが全身から立ち昇っている。


「もしくはその魔力すらすぐ消え、悪魔の呪いをまき散らす浄化対象に戻る可能性も充分にある。なので残念だが……」


 試験官はノーティスをギロッと見据えたまま、ビシッと指を差した。 


「キミみたいな弱者である落ちこぼれ……いや、欠陥を持つ人間に、夢を持つ資格は無いっ!!」


 その言葉に皆賛同する顔で、うんうんと頷いている。

 この世界では魔力の強さが全てと言っていいぐらい、大きな割合を占めているからだ。

 輝きの弱い者や濁った色の物は蔑みの対象であり、一定値以下は『浄化』対象。

 その為に定期的な検査は必須であり、そこで浄化対象になればもう終わりだ。

 なので、試験官の言う事は残酷に聞こえるかもしれないが、この国では当然の意見。

 魔力が弱ければ悪魔からの呪いに感染してしまうという、()()を信じている者達にとっては当たり前なのだ。


「だからキミは、この試験を最後にひっそりと暮らしなさい。自身と周りの人達の為にもな……!」


 試験官は、ゴミを見るような眼差しでノーティスを見下ろした。

 皆と同じく感染神話の()()を信じている()()()()()である試験官にとって、ノーティスは危険人物に他ならない。

 ただ試験官と違い、エミリオがノーティスの事を蔑んだのはそれだけでは無い。

 この試験で自分の良さをアピールする為だ。


───クククッ……これで僕の株もより上がる。まっ、キミみたいな落ちこぼれのクズ野郎が僕のような名門の人間の役に立てたんだから、恨まず感謝してくれたまえ。


 エミリオはノーティスを心からバカにした顔で見つめ、ニタアっと(わら)った。


「さぁノーティスくん。試験官さんもああ言ってくれてる事だし、記念に思いっきりやるといい」


 そう告げチラッと目配せした先には、円柱状の大きな『測定器』が置いてある。

 この測定器は鋼鉄製で出来ていて、その表面はドラゴンの皮膚と同じ硬度の特殊樹脂でコーティングされている代物。

 そこに斬りつけた時の斬撃の強さが測定器を伝わり、魔力掲示板にポイントして表示される仕組みだ。

 ちなみに、一般の成人男性が200-400ポイントだが、冒険者志望の者達の平均は1000-1500前後。


「もちろん僕と同じ23000ポイントを出せとは言わないけど、せめて1000ポイントぐらいは出せたらいい記念にはなるよ。まぁ正直、我流じゃそれも厳しいだろうけど。ククッ♪」


 エミリオがほくそ笑む中、ノーティスは懐かしそうに測定器を見つめている。


「ドラゴンか……懐かしいな」

「は? 懐かしい?」

「あぁ……修行時代によく戦ったから」


 ノーティスが懐かしそうに(こぼ)すと、エミリオはププッと吹き出した。


「ノーティスくんっ、何を言うかと思えばドラゴンと戦ったって……アハハハハハッ! 笑わせないでくれよ!」


 エミリオが大声で笑っている中、会場の皆も呆れた顔でノーティスを嘲笑っている。

 また、試験官は完全に呆れた表情で目をつぶり、顔を左右に軽く振った。


「まったく、虚言癖まであるとは……ドラゴンの討伐は、Aランク冒険者が何人か集まりようやく可能になる代物だ。冒険者ですら無いキミが戦える訳ないだろう」


 試験官が呆れた顔でため息を吐くと、エミリオは思いっきりバカにした笑顔で、ノーティスの肩にポンッと片手を置いた。


「ノーティスくんっ、分かったよ! キミにピッタリの職業が。ピエロだ。キミは人を笑わせる才能に溢れてるよ! アーッハッハッハッ!!」


 エミリオの笑い声と試験官の呆れた顔。

 そして、ギャラリー達の嘲笑う声が会場に響き渡っている。

 そんな中でノーティスは、エミリオの手をスッと外し測定器の前にサッと出た。

 嘲笑が雨のように降り注がれているが、ノーティスは別に気にしていない。

 もちろん、多少はムカつきはする。

 けど、こんな事で自分の評価は変わっても価値は変わらない。

 それを知ってるからからだ。


───それより、上手く加減しないとな。大丈夫かな……


 ノーティスにとっては嘲笑よりも、測定器を壊さないかどうかが心配だ。

 

───弁償とかになったらルミに怒られるだろうし……


 そんな事を思っている中、エミリオがニタニタしながら軽く身を乗り出してきた。

 そして、あのディラードのような邪悪な笑みを浮かべて小声で囁いてくる。

 

(いいんだよノーティスくん。キミは我流なんだし、きっとロクでもない人間としか関わってこなかったんだろ。カスの周りにはカスしかいなんだから。なあ? クックックッ……)


 この言葉に、ノーティスは思いっきりカチンときた。

 自分はいくら蔑まれてもいい。

 けれど、敬愛するアルカナートやセイラ。

 また、あの日に自分を救ってくれた少女やクロエ。

 何より、自分を大切に想ってくれているルミ。

 その人達をバカにされるのは、絶対に許せないのだ。


───そうか……俺が力を示さなきゃ、みんなまで……!


 ノーティスは一瞬体にグッと力を込めると測定機に向かい、ゆっくりと近づいた。

 心に宿す決意と共に瞳に凛とした光が宿る。

 そして腰に差してる剣の柄を右手で掴むと、測定器を真っすぐ見据えた。


「エデン・ノーティス、参りますっ……!」


 額のクリスタルは光らないままだが、ノーティスは真剣な表情で構えている。

 しかし、みんなの表情はエミリオと同じだ。

 真剣に構えているノーティスを、ニヤニヤ蔑みながら見つめている。

 どうせ大したポイントなど出ないので、思いっきり笑ってやろうと思っているからだ。


「魔力クリスタル使えねぇんじゃ、1000ポイントすらいかねぇだろ」

「まあ、魔力ねぇのに嘘つきだからな」

「てか、ドラゴン倒した力を見たいな~~~~~ププッ!」


 だがそんな中、みんな一斉に両手で耳を押さえ顔をしかめた。

 キンッ!!! と、いう大きな金属音が会場にこだましたからだ。

 その音が何か分からず皆が顔をしかめているが、ノーティスは測定機にクルッと背を向け元の位置へ戻ってゆく。


「終わりました」


 ノーティスが試験官に向かい静かにそう告げたのを見て、皆何が起こったのか分からなかった。

 謎めいた顔で互いに見つめ合っている。

 けれど、次第にニタァっと笑みを浮かべていった。

 魔力掲示板には、数字が全く表示されていないからだ。


「えっ、ちょっとまって……まさかの0ポイント?」

「ヤバッ! かすりもしなかったって事?」

「あ~~~~やっぱ元とはいえ、浄化対象ってこんなもんかぁ」


 ギャラリーが呆れながら嘲笑う中、試験官は完全に呆れ返っている。


「ハアッ……キミぃ、これじゃ思い出作りにもならないじゃないか。まぁ相応しいといえば、これ以上ないともいえるが……」


 また、エミリオは爆笑しながらノーティスを指差した。


「ちょちょちょノーティスくん! こ〜〜〜れはないだろっ! あっ、もしかして……ポイントも浄化しなきゃと思ったのか! アーッハッハッハッハッ♪ やっぱり面白い。やっぱカスはカスのような数字しか……」


 そこまで言った時、エミリオは突然ピタッと言葉を止めた。

 それは他の皆も同じだ。

 嘲笑う顔から、一気に驚愕の顔に変わり見つめている。

 真ん中から斜め下にズズズッ……! と、ずり落ちてゆく測定器を。


「えっ?!」

「ちょっ!」

「ウッソだろ……!」


 皆の驚愕する視線が一斉に集まる中、測定機はズドンッ!! と、大きな音を立て床に落ちた。

 その光景を試験官は目をかっぴらいて震えている。


「なななななんだとっ……!!」


 また、エミリオは倒れるようにドシャッ! と、その場に尻もちをついた。


「ウ、ウ、ウソだ……ありえないっ!!!」


 そんなエミリオを、ノーティスは澄んだ瞳で静かに見つめている。


「エミリオ……俺の大切な人達は、決してバカにされるような人達じゃない。それだけは覚えといてくれ」


 ノーティスはそう告げると、エミリオにサッと背を向けた。

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