ep:11 王宮魔導士アンリのワガママ
「な、なんなのこれ?!」
エリスは腕の痺れよりも、言われた事にムカつきバッと振り返った。
けれど、その目に映った相手が誰だか分かると、何も言い返す言葉が出てこない。
腕どころか、エリスは全身が麻痺してしまったかのように固まっている。
「ア、アナタ達は……」
無理もない。
横に並んで自分を見つめているからだ。
王国最強の存在である王宮魔道士の『アルカディア・ロウ』と『エスカリーニ・アンリ』が。
「フム……女の子版のディラードといった所か」
「ニャハハッ♪ もし付き合ったら、年中騒がしそうじゃの〜〜」
アンリは綺麗にまとまったショートカットを軽く揺らしながら、ロウの隣にスラッと並んでエリスを見つめている。
その眼差しは、高い知性を宿しながらも常夏の太陽のような光を宿している。
また、額で静かに煌めく魔力クリスタルは、フューシャピンクの色だ。
「すまんの、エリスとやら。ニャハッ♪」
指をキラッと光らせエリスの痺れを一瞬で解除すると、アンリは魔導の杖をサッと床下へ向けた。
エリスの足元にフューシャピンク色の魔法陣が現れ、下からサアアッ……と、光が立ち上ってゆく。
「ちょっとお外に出ててもらうニャ♪」
そう告げた瞬間、エリスの体はその場から一瞬にしてフッと消えた。
エリスは瞬間移動させられたのだ。
へたり込んだ姿で周りを見渡している。
「えっ? な、なんで? ここ、会場の広間じゃない……」
その広間でエリスがキョトンとしている中、アンリはノーティスを見つめニパッと笑みを浮かべた。
「いや〜〜〜見ておったぞ。ああいう対応が出来るとは、お主いい男じゃの♪」
「あ、あのエリスは……」
「むむっ、いまだあ奴の心配をするとはの。ますます気に入ったニャ♪」
アンリは嬉しそうにバッと両手を上げた。
「心配するでない。あ奴はちょっと外に移動させただけニャ♪」
ノーティスはその言葉に安堵はしたが、まだ謎めいた顔を浮かべている。
アンリが誰だか分からないのだ。
「よかったです。ただあの、すいません。俺『エデン・ノーティス』っていうんですけど、アナタは……」
「ニャニャッ?! お主、私を知らんのか」
「すいません、初の受験なんで……」
ずっと修行の日々を行っていたので、有名人の顔とかも全然知らないのだ。
そんなノーティスの前でコホンッと軽く咳払いをすると、クイッと体を曲げて笑みを浮かべた。
「私は王宮魔道士の『エスカリーニ・アンリ』だニャ♪ よろしくの、ノーティス」
「王宮魔道士! じゃあ……」
「そう、ロウと一緒ニャ♪」
アンリがチラッと見つめると、ロウはノーティスを見つめながら軽く溜息混じりに微笑んだ。
「ノーティス、すまない。キミと二人で話をしたかったんだが、アンリに気づかれてしまった」
その横で、アンリは軽くニヒルな顔でロウをチラッと見つめた。
してやったりという感じだ。
「まったく、隠せる訳なかろ〜〜に。私は、イケてる奴の匂いには敏感だからの♪」
「フム……まぁ、事実には違いないんだが……」
ロウがそう零す中、アンリはシュッとノーティスの前に近寄りサッと見上げた。
好意と好奇心に満ちた瞳がキラキラ光っている。
アンリはノーティスに、特別な何かを感じ取っているのだろう。
とても嬉しそうな表情だ。
「ちょっと付き合ってもらうニャ♪」
「えっ、でも……」
ノーティスはちょっと困った顔を浮かべている。
すると、横からルミがすまなそうに入ってきた。
綺麗なショートヘアがサラッと揺れる。
「申し訳ございませんアンリ様……もうすぐ、攻撃力測定試験の時間なんです」
「ニャンと! 確かにそうであったな」
アンリはマジかという顔を浮かべると、サッとロウの方へ振り向いた。
「ロウよ、お主が隠したりしてるからニャ〜〜」
「いや、そうじゃない。試験の後片付けに時間を取られただけさ。誰かさんが、サボった分もあったから」
「ぬぅ〜〜〜〜〜っ。私はそういう作業は苦手なのニャ~~~~」
可愛く口を尖らせているアンリと、それを軽く呆れた顔で見ているロウ。
二人とも最強の王宮魔道士だ。
けれど、今はまるでただの子供のように見えてしまう。
特にアンリはそうだ。
「まぁ、それなら仕方あるまいニャ」
「アンリ様、申し訳ございません」
「むうっ……ちなみに、確かお主はルミと言ったかの」
「は、はいっ! 『アステリア・ルミ』と申しまして、ノーティス様の執事です!」
「そうか、どーりでの……」
アンリはルミを興味深そうにジッと見つめると、ロウの方にサッと振り向いた。
「ロウ、待ってる間ルミと一緒に茶でも飲みに行くとするかの」
「フム……悪くないな」
「ニャハハッ♪ じゃろう」
二人が急にデキる大人の顔になった側で、ルミは驚きを隠せない。
「えっ、わ、私がですかっ? お二人のような方とお茶なんて、とても務まりませんっ!」
「ん? 嫌ニャのか?」
「いえ、そーゆー訳ではなく……」
ルミは緊張してアンリとロウに両手の平を向けている。
そんな光景を目の当たりにしながら、ノーティスは軽く微笑んだ。
「フッ、いいじゃないかルミ」
「ノーティス様?!」
「王宮魔道士の人達とお茶なんて、そうそうあるもんじゃない」
「そ、それはそうですけど……」
ルミは不安そうに少し視線を落としている。
もちろん、ロウとアンリに緊張してしまうのもあるが、それだけはない。
ノーティスの事が心配なのだ。
実力があるのは重々知っているが、同時にノーティスは何かとトラブルに巻き込まれやすい性質なのを知っているからに他ならない。
───ノーティス様は、強くお優しく真っ直ぐだから心配なんですよ。ここからも、何か色々ありそうで……
ルミの心配はもっともだ。
ノーティスはそんなルミの気持を知ってか知らずか、ロウとアンリにスッと頭を下げた。
「せっかくなのにすいません。戻るまで、ルミをよろしくお願いします」
「あぁ、もちろんだ」
「サクッと終わらせて戻ってこいニャ♪」
そう言われたノーティスはクルッと背を向け、ルミを見つめて微笑んだ。
「待っててくれルミ、ちゃんと終わらせて帰ってくるから」
「ノーティス様……分かりました。待ってますね♪」
「あぁ、また後で」
ノーティスがその場を後にすると、ルミはロウとアンリと一緒に店へ向かった。
また、その途中でノーティスの無事に想いを馳せる。
───ノーティス様、試験がご無事に終わるのを祈ってます……!
◆◆◆
ルミはその願いを胸に抱いたまま、二人と一緒にお店で紅茶を飲んでいた。
「美味しいっ……!」
「うん、やはりいい味だ」
「ニャハハッ♪ 茶っぱが違うからのぉ」
ここは、ギルド試験会場内にある高級店。
会員制の上、Aランク以上の冒険者、もしくは、その紹介でしか入れない。
その店のさらにVIPルームで三人は話をしている。
そんな中、ノーティスは無事に試験を受けている……なんて事はなく、やはり渦中の中にいた。
「見たかいノーティスくん! これがエリートの魔力クリスタルを持つ、ボクの力さ!」
ここは、攻撃力測定試験会場。
険しい表情をした試験官の男を始め、多くの受験者とギャラリー達の熱気が凄い。
筆記試験と違い、攻撃力測定試験は一種の興行やスカウトも兼ねているからだ。
その会場でノーティスに力を見せつけ嘲笑っている少年は『クロスフォード・エミリオ』という、名家の少年。
「僕のライバルだったディラードくんから聞いたよ。キミ、我流なんだってね」
「まぁ、そうだけど……」
アルカナートの名前を出さない約束をしているノーティスが静かに零すと、エミリオはギャラリー達を見上げバッと両手を斜め上に広げた。
「皆様、お聞きになれましたか! 『斬望の剣』や『希忘の杖』とも呼ばれているこの試験に、彼はなんと……我流で挑んできてるんです!!」
エミリオの嘲る声が響き渡ると、会場からはクスクスと笑い声でザワつき始めた。
皆、ノーティスを見ながら呆れた顔で笑みを浮かべている。
前にディラードが言ってた通り、この試験に受かるには我流などでは到底受かりようが無いからだ。
もちろん、エミリオも隣でノーティスをニヤニヤしながら見つめている。
そして、再びギャラリーの方へ向き直った。
「彼がなぜ我流になったか? それは彼が……浄化対象だったからです!」




