表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/3

上:鼠になった少年

趣味は創作小説投稿、さんっちです。ジャンルには広く浅く触れることが多いです。


クリスマスのような、真冬のお話が出来ました。伯爵令息に温かい魔法はかけられるのでしょうか。



ーーーお前の瞳、宝石みたいで綺麗だな。俺、瞳も髪も真っ黒だから・・・。


ーーーそんなことないよ、黒って格好いいもん。それに、魔法をスッゴく学んでるのも格好いい!


ーーー本当か?俺、魔法の研究者になるのが夢なんだ!お前の読んでるその本、面白いな。


ーーーそうだよね!魔法って、楽しいよね!



子供の頃の交流会。居場所なく逃げた庭先で、持ち込んだ本を読んでいて出会った、貴族令息。


色々話して、色々分かち合えた。楽しくて、名前を聞き損ねるくらい。


孤独だった伯爵令息マウラ・スカルノには、今も心の支えになっている。


実親のどちらでもない白髪に、血のように赤い右目と、毒のように紫の左目というオッドアイを持つマウラ。彼の普通と違う見た目は、誰もが二度見して気味悪がる。


不貞を疑われた母は、離縁して出て行った。父からも距離を取られて、継母からは毎日のように蔑まれる。いつしかマウラは人目を恐れて、自室で魔法の勉強ばかりしていた。


「・・・この生活も、案外楽しいけどね」


魔法を学び、継母の白い愛猫キャシーを世話する。それがマウラの日常だ。


だが父のスカルノ伯爵が急逝してから、それは終わった。継母は自ら、スカルノ伯爵家の当主になると断言。まだ成人していないマウラは黙認したが、これがダメだった。


邪魔者のマウラは、突如として鼠に姿を変えられたのだ。


“え、な、何これ・・・!?”


錆びたネズミ檻から見えるのは、クスクス嘲笑する継母。いくら呼びかけても、もう既に人間と言葉は通じないようだ。


「まぁ、汚れたハツカネズミですこと!貴方にピッタリな姿ね、マウラ。この家はもう私のモノよ、ここでひっそり朽ち果てなさい」


そのまま物置に置かれ、継母は上機嫌で去ってしまった。


檻から脱出しようと試みるが、鼠の弱い力では全く歯が立たない。力の無いネズミでは、魔法も使えないようだ。ガチャガチャと、鈍い鉄の音が空しく響くばかり。


そうしている間にも、キャシーが近付いてくる。中に鼠がいるのに気付いたらしく、ガバッ!と檻に手を出してきた。


マズい、食べられる・・・!そう思った瞬間、キャシーは丁寧に牙と爪を使い、檻の鍵を壊してくれたではないか。


“あなた、マウラでしょう?ずっと私を世話してくれた。助けてあげるわ、だからこの屋敷から逃げなさい。彷徨いているのを見られたら、すぐにやられてしまうわ”


キャシーはそのまま、格子の窓までマウラを運ぶ。その温情に感謝して、マウラは一目散に家から逃げ出した。


行き先も、元に戻る方法も無い。か弱い1匹の鼠は、肉食獣に食われる他ない。それでもあの家で殺されるより、外に出た方がマシに思えた。


今は寒い季節。実りの秋も過ぎ、極寒の冬を迎えようとしている。森の中はダメだ、街に向かおう。そこなら多少暖かいし、食べ物もあるはず。周囲に天敵がいないか確認しつつ、1匹の鼠は野道を駆けていく。


いつまで走れば良いんだろう・・・そう思っている時に、不思議な人影を見つけた。


(こんな場所で寝て・・・風邪引かないのかな)


大きな木に寄りかかり、すぅすぅと気持ちよさそうに寝息を立てる男性。真っ黒な帽子を日除けに、真っ黒な防寒具を布団代わりにしているようだ。


(ズボンも靴も真っ黒・・・何だかカラスみたい)


今のマウラには、人間はとても大きく見えて怖い。気付かれないように、起こさないように、そっと横切ろう・・・。


ふとマウラは、足に痛みを覚えた。刹那、地面に突っ伏してしまった体。まるでそこだけ、とんでもなく強い重力がかかっているような・・・。何が起きたか分からず“えっ、何!?”と、大きな声で叫んでしまう。


「・・・ん、何か掛かったか?」


その声で起きたのか、男はむにゃむにゃと顔を起こす。これまたカラスを連想させる黒髪に黒色の瞳、あと思ったより若い。マウラと大きく年は変わらなそうだ。


「お~、かなりデカい鼠だ。いやぁ、簡易的に作った魔方陣の罠だけど・・・意外と上手くいくもんだな」


ふと下を見ると、確かに魔方陣らしきモノが記されていた。なるほど、動物が罠にかかるのを眠って待っていたのか。


(・・・ん?罠ということは、この人・・・僕を、食べる??)


瞬間、サーッと青白くなっていくマウラの顔。動けない体でも、なんとか逃がしてくれるよう懇願し始めた。人間に言葉が通じない、そんなの百も承知で。


“ま、ままま、待って下さい!お願いです、僕を食べるのはやめてください!僕は鼠ですし、食べても美味しくありませんっ!”


「・・・なんかさっきから随分鳴いてるな。元気だなー、こいつ。食い応えありそう、ってか左右の目の色が違うじゃん。珍しっ」


男は何食わぬ顔で、グイッとマウラの体を掴んだ。思わず“ぎゃぁああ!!”と叫んでしまう。甲高い声に、男は一瞬戸惑ったようだ。


“お、お願いです。本っ当にお願いですからぁ・・・!!食べないで、食べないでぇええ!!”


涙を出せないので、ブンブンと力の限り首を大きく横に振る。男は暴れる鼠をじっと見つめ、「んー・・・」と何か引っかかっているようだ。


「この鼠・・・俺に何か言いたいのか?」


男がそう聞いてきたので、マウラは全力で首を縦に振った。少し緩んだ手から抜け出すと、もっとちゃんと意思疎通すべく、マウラは足元に落ちていた小枝を手に取る。


話せないなら、文字で伝えなければ・・・!小さな鼠の体で文字を書くのは一苦労だったが、まず「鼠が文字を書ける」ということに、男は驚きを隠せていない。


「う、嘘だろ・・・鼠が、文字を?」


とりあえず【食べないで】と下手くそな文字で示したが、既に彼はマウラを食べる気を無くしてくれたようだ。むしろ興味深くマウラを見つめては、目を輝かせてばかり。



「スッゲぇ・・・!こいつ、連れて帰ろう!!」



むんずと掴まれ、胸ポケットの中に入れられた後、男はサッと移動のための魔方陣を地面に描いていく。


食べられずには済んだが・・・別の意味でマズいのでは?マウラがそう思った時には、既に瞬間移動が発動していた。



木こりの家のような質素な小屋には、大量の魔法器具が並べられている。どれもこれも一級品で、普通じゃ手が出せないモノばかりだ。


魔法好きでこういった道具に憧れるマウラは、全てに目を輝かせていた。こうして盛り上がるのは、いつぶりだろう。


“す、凄い!どれもこれも希少なモノばっかり!”


「うぉ、お前も興味あるのか。やっぱお前、不思議な鼠だな」


“わわっ!純度100%の魔法石に、入手困難なケルベロスの牙!器具も注文してから数年は待たないと手に入らない特注品だし、この魔道書も前世紀の復興版だ!


これってどうやって、手に入れたんです、か・・・”


いつの間にか彼と話したくなったが、鼠の状態では人間と会話できないことを思い出し、マウラは肩を落とした。今の自分は、普通とは違うおかしな鼠にすぎない。


けれどもどうにかして気持ちを伝えたくて、近くにあった紙とペンで【凄い】と意思表示をした。


「アハハ、こうして興味を持ってくれるのお前だけだよ。ウチじゃ持ってても捨てられるか肥やしになるだけだから、こうして隠しておかないと」


なんと、こんな上質な器具が!続けて【勿体ない】【大切にしたい】と伝えると、男はパァッと明るい顔になる。理解者(?)がいてくれたことが、ただただ嬉しいようだ。


「だよなだよな!こんなに意気投合できる奴がいるなんて、本当に久しぶりだ。鼠なのに文字を書けるのも面白いし・・・お前、ここで暮らすか?」


なんと!とマウラは驚いた。貴族身分どころか人間の姿を奪われた以上、野生の鼠として、冬の街でゴミ箱を漁る覚悟だった。だがこうして縁あって、雨風を凌げる住処が確保されるとは。


喜びのあまり、文字ではなく飛び跳ねて返事をするのだった。

読んでいただきありがとうございます!

楽しんでいただければ幸いです。

「中」は明日夜に投稿します。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ